第35話 公爵令嬢、徴税人になる
冬になると、全くといって良いほど辺境に盗賊が現れなくなってしまった。本来なら食料を求め、最も多くなる季節にも拘らずである。高レベルの親衛隊を盗賊殺しで作るという計画が頓挫してしまったため、私は計画を変更せざるを得なくなった。高レベルの親衛隊を作るというところは譲れないので、どこか効率的に経験値稼ぎをするところが無いか考える。
結論から言えば、やはりこの世界で、数少ないポップアップするアンデッドを倒していくしかない、と考えた。
私はポップアップするアンデッドがいるダンジョンの一つ、死者の王国の入り口にイスナーン及びメイド達を連れてやってくる。
この死者の王国は、レベル30のネームドのエルダーリッチ、ベシマバルが支配し、数多くの死者が徘徊する、名前の通りの王国だ。地下の広大な空間を支配しており、そこにいるアンデッドの数は5万体にも及ぶ。王国という名に恥じない規模だ。
入り口は丸い形の洞窟になっている。緩い坂道になっていて、途中ある地点にある床を踏むと、洞窟一杯の大きさの丸い鉄球が後に現れ、侵入者を圧し潰す。潰されたらレベルやHPに関係なく即死だ。ダッシュして下りた先にある部屋に逃げ込めば鉄球からは逃れられるが、そこにはレベル5のアーマースケルトンが100体待ち構えている。逃げようにも来た道は石でふさがれ、一つだけある部屋の扉は、アーマースケルトンを全滅させない限り開かない。しかもこの部屋は一種のマジックアイテムになっており、時間が経つと王であるベシマバルの魔力を吸い取り、1日100体までのアーマースケルトンを作り出す事が出来る。低レベルだとなかなか凶悪なデストラップだ。
「ちょっと待っててちょうだい」
私は入り口にイスナーン達を待たせて、浮遊しながら洞窟に入る。途中からいかにも鉄球が転がりやすそうな通路になる。そして部屋の中に所狭しとアーマースケルトンが徘徊している部屋の手前までくる。部屋の中からアーマースケルトンは出てこない。部屋のすぐ手前には鉄球がそこに挟まるように、通路が少し狭くなった場所がある。私は地面に降りてその少し狭くなった部分を削っていく。そこは、鉄球を止めるだけあり、高レベルの強化の魔法がかけられている。おそらくこれを削る事が出来る者など、この世界に私を含めて10人もいないだろう。
「これで良し」
私は綺麗に削り終えると1人呟き、再び浮遊して入り口まで戻る。そして、発泡スチロール製の大きな球を作り出す。
「じゃあ、ティータこれをこの洞窟の中に転がしてもらえるかしら」
「?分かりました」
ティータは今一つ状況を理解していない顔をしながら、球を洞窟の中に入れて転がす。暫くすると罠が発動し、ゴロゴロと重い物が転がる重低音が聞こえ、ズンという音がし、少し地面が揺れる。そして、ティータとティータの同行者にしていたメイド達に経験値が入る。
「取りあえず、第1弾はうまくいったみたいね。次は罠が再発動するかどうかね」
私は一度訓練所の近くの野原までメイド達と共に転送し、再度死者の王国の入口の近くへと転送する。メイド達を連れているので、1日に同じ場所への転送は10人だと1度きりである。1人なら10回出来るのだが、今回はそう何回も転移する訳ではないので、近くのセーブポイントで間に合うだろう。
先ほどやったのと同じように、ティータに球を転がしてもらう。1回目ほどではないがまた経験値が入る。
「どうやら、罠も一度離れたら復活するようね」
正確に言えば、ゲームではセーブしてゲームを終了するか、一度セーブポイント転移して外れるかすれば復活したのだが、その設定はこの世界でもそのまま生かされている様だった。
「これで、安全にメイド達をレベルアップできるわね。後、ゼラント卿とハスバル卿のレベルも上げないと。イスナーンもレベルを上げたいでしょうけど、それはテッセラのダンジョン攻略を手伝うことでやってちょうだい。貴方を1レベルあげる経験値で10レベルの兵士が40人出来るもの」
「分かってるわ。数は力だしね」
イスナーンは私の分身だけあって、直ぐに私の考えに賛同する。
「じゃあ、1日数度この洞窟に来てレベリングしてね。1日100体までしか復活しないから、回数を増やしても無駄よ」
「それも分かっているわよ。心配性ね」
イスナーンは呆れた様に言う。そうは言われても、癖だから仕方がない。
取りあえずレベリングの問題は解決したので、次の問題に手を出すことにする。それは騎士団を味方にすることだ。騎士団はウィステリア公爵家に忠誠を誓っており、私が正式に公爵になればもちろん私に忠誠を誓うだろうが、公爵代行と公爵家の娘では、公爵代行の命令を優先する。もちろん私を殺せというような命令を出したら、公爵代行の命令といえども逆らうだろうが、そんな事にならなくても早めに掌握しておきたい。
そんな事を考え計画を練っていると、イスナーンから念話で呼び出しがかかる。私は何事かとイスナーンの居る、死者の王国の入り口へと転移した。
「急にどうしたの?」
私がイスナーンに聞くと、イスナーンは黙って洞窟の入り口を指差す。入り口に近い直射日光の当たらない場所に、エルダーリッチが壁に魔法で磔にされていた。ベシマバルだ
「なんで、ベシマバルがこんなところまで来ているの?地下の王城にいるもんじゃない?」
「今の境遇に不満があるみたい。聞いてあげたら?滅ぼしてしまったら、このレベリングが出来なくなるし」
イスナーンに言われて、仕方なく私はベシマバルの方へ向かった。
「どうしたの?別にあなたの王国を攻めたわけじゃないし、こんな日の当たるところに出てくることもないと思うけど」
私がそう聞くと、ベシマバルはローブの中で目に宿る炎を禍々しく輝かせて答える。
「ふざけるな!貴様が儂の王国の入り口の兵士を倒すようになってから、儂のMPはほぼ常に0だ。回復した先からアーマースケルトンの作成にとられてしまう。この様な事が許されるものか!」
ベシマバルはかなり激高している。
「え?でもこの仕組みを作ったのは私じゃないし、きちんと仕組みが働いてるおかげで王国は無事なんだし、貴方は睡眠も休息も必要ないでしょう?そりゃ、もし貴方が生きている人間だったら同情するけど、私達の敵だし、貴方も何人もの人間を殺してきたでしょう?滅ぼされずにいられるだけましじゃないの?それとも滅ぼされたいの?後、自分の王国とか言ってるけど、ウィステリア公爵領内だから、ちゃんと税を払ってもらいたいの。といってもマジックアイテム以外貰うものがないから、当面の間はあなたのMPで良いわよ。」
流石に私もレベル30の敵なら後れを取る事は無いと自信がついている。ベシマバルを倒してないのは、単にこのレベリングが魅力的なだけだ。
「この儂を滅ぼすだと。死者の国の王であるこのベシマバル様を!」
だめだ、頭に血が上りすぎてて話にならない。血は無いんだけど……仕方が無いので磔刑の魔法を強化し、更に永続化させて、洞窟の外で磔にする。
「ぎぃええええー」
ベシマバルが体中から煙を上げ悲鳴をあげる。エルダーリッチは日の光に弱いのだ。なんでも言い伝えによると単なるダメージによる痛さではなく、筆舌しがたい痛みを伴うのだとか。体験した事は無いので本当かどうかは知らないけれど。
エルダーリッチは、再生能力を持っており、ベシマバルはレベルも高い為、冬の間は昼間受けたダメージを夜には全開にできる。夏だったらHP的にちょっと厳しいかもしれない。そうなったらそうなった時にまた考えよう。
「うるさいかもしれないけど、我慢してね。MPが0だから何もできないし、貴方達は今まで通りにレベリングを行ってね」
私はメイド達にそう告げると、去って行く。そして、ベシマバルの事を忘れていたが、春になるころにまたイスナーンから呼び出しがかかる。
「ベシマバルが話をしたいみたい」
イスナーンがそういうので、私はベシマバルの話を聞くため近づいた。その日は曇りだったため、ベシマバルは悲鳴を上げてはいない。
「王城に戻してくれ。もう人間は襲わない。それとここに来るのをもうやめろとも言わない、だが1週間に3回してくれ」
ベシマバルは弱々しく私に言う。週休4日だなんてどんなホワイト企業よ。でもベシマバルが話が出来るようになって良かった。話し合いの末、週休2日、年に10日の連休を2回、自由に取れる休みを年に10日与えることで話が着いた。かなりホワイトな内容だ。前世の会社だったら応募が殺到したに違いない。
取り合えずレベリングの件はこれで、決着したのであった。
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