第33話 公爵令嬢、盗賊狩りになる
「ご苦労様。ティータ。大丈夫?」
私は肩で息をしている、ティータのそばにより声を掛ける。戦闘のせいか、それとも初めて人殺しをしたせいか、ティータは大きく肩で息をしている。
ティータのレベルは15。それに対して、盗賊のリーダーのレベルは4。結果は完勝だが、ティータからは余裕というものが感じられない。自分もヘルハウンドと戦った後は、似たようなものだった。責めるのは酷というものだ。
周りを見ると殆どの盗賊が、息絶えている。こちらの被害は無い様だ。レベルを地道に上げていたのが大きい。残りもすぐにかたがつくだろう。どうせ死刑になるので、降伏は認めていない。ましてや逃亡などもってのほかだ。
ティータは何度か深呼吸をして、息を整える。
「はい。大丈夫です。ご心配をおかけしました」
「良いのよ。悪党とはいえ、初めての殺人だもの。嬉々として殺せる方がおかしいわ。それで、これからもやれそう?」
レベルを上げ、訓練をしたとはいえ、元はただのメイドだ。これからは場合によっては悪人ではなく、兵士を殺さなければならない場合も出てくる。無理だったら、親衛隊に入れるのは止めようと思っていた。なにせ親衛隊である。とっさの時に敵を殺すのを躊躇うようでは話にならない。
「はい。お見苦しいところをお見せしましたが、大丈夫です。もう少し訓練は必要かも知れませんが……」
最後の方はちょっと声が小さくなっていたが、やる気はあるようだ。私は他のメイド達にも聞いていく。少し驚いた事に誰も無理と答える者は居なかった。私は5人のメイド達を集める。
「良いの、貴方達。自分でまきこんで言うのもなんだけど、これから先は血を流すことをいとわない道よ。自分の血も含めてね。命を失う可能性も低くはないわ。もし嫌ならこのまま男爵に匿ってもらっていても良いのよ」
念のために私は聞く。だが、メイド達の気持ちは変わらないようだった。
「お嬢様は私の為に、危険を冒して公爵代行の部屋に忍び込み、私を助けてくれました。拷問され、何の意味もなく無念の死を遂げてたかもしれないと考えると、お嬢様の為に死ねるのなら本望です」
スレラがメイド達を代表してそういう。顔を見る限り他の4人も同じ考えのようだ。あんまり真剣に見つめられると、自分はそんな立派な人間じゃないと、少しいたたまれない気持ちになる。
「ありがとう。貴方達の命預からせてもらうわ。さて、他の者達もどうするか聞かないとね」
私は襲撃に参加したもの全員を集め、この先やる気があるのかを聞く。私が作りたいのは雑兵ではなく、精鋭たる親衛隊なのだ。やる気が無いものはこの先ついて行けないし、経験値稼ぎをさせるだけ無駄である。だが予想に反して抜ける者は居なかった。
私と一緒に来ていたホムンクルス達は転送門を開く、この魔法は便利だがそもそも大勢の者を運ぶようには出来ていないため、使い手1人につき10人が限度だ。ホムンクルス達に協力してもらって50人が限度。同じ場所からそれ以上の人間を運ぶことはできない。ただし。転移の魔法が使える私とホムンクルス達はその法則の例外だ。そういう制限があってもこれぐらいの規模の盗賊には奇襲が効く。
私は訓練所まで行くと控室でレヘンシア騎士爵と話す。
「ハスバル様はどう感じましたか?」
私に聞かれてレヘンシア騎士爵は暫く考える。
「そうですね。まず忠誠心の高さに驚かされました。正直に言うと半分は駄目になると思っていました。人を殺すことの嫌悪感は意外と大きいものです。訓練はしたとは言え、元が兵士として志願した者達ではありませんからね。訓練時にもそういったところの甘さが見られました。何というか強くなることへの貪欲さに欠けるといいますか……ですが、今回の件でその甘さが消え、いっぱしの兵士になったようです」
私はその言葉に満足する。
「それじゃあ、暫く盗賊退治を任せてよいですか。今回みたいに私がついて行くわけじゃないから、転送門は使えないけど、関所の兵士は貴方達が通行できるよう買収しておきます。入ってしまえば、辺境だから正規兵なんて巡回してないからどうとでもなると思いますよ。盗賊たちの位置情報は随時、マジックアイテムの手紙で送られますので、その中で適当なものを選んでいただければ結構です。強すぎる者や、遠くて間に合わない者もいるでしょうから。被害が出るのは仕方がありませんが、なるべく死人が出ないようにお願いします」
「お任せください。必ずやご期待に沿えるようにしましょう」
レヘンシア騎士爵は力強く返事をする。そして言葉通りウィステリア公爵領に入り込む盗賊達を次々と討ち取っていった。正直言うとゴブリンたちを倒すより、盗賊の方が経験値効率が良い。しかも、盗賊もゴブリンと同様に、多少倒したところで発生する数の方が多い。
だが暫くすると、配置している使い魔や、協力関係にあるスケルトンロードから情報が上がってくる、盗賊の出現頻度が減ってきた。多いのも問題だが、少ないのも問題だ。これでは私の親衛隊の経験値稼ぎの計画が狂ってしまう。
私は理由を探る為、ギルフォード男爵の元へと赴いた。情報は私が流しているが、全体的な指揮をギルフォード男爵が、前線指揮をレヘンシア騎士爵が行っているのだ。
私は応接室へと通される。出されたお茶を飲みながら、ギルフォード男爵に尋ねる。
「最近盗賊が減っているようですけれど、理由をご存じですか?しかも偶々減った訳ではないようで、加速度的に減ってきているんですが……」
それを聞いて男爵は明るい声で答える。
「ああ、その事ですか。流石に全ての盗賊を殺すことはできませんので、どうしても取りこぼしが出てきます。さらにセシリア様が村々に、盗賊から守っていると宣言した事で、盗賊の間で、セシリア様の趣味は盗賊狩りという噂が広まっているようです。実際に領内に入った盗賊は殆ど殺害してますからね。それに盗賊の死体は見せしめの為に、街道に磔にしていますし。なので、盗賊もウィステリア公爵領を避けるようになったようです」
ギルフォード男爵もまともそうで、やはりこの世界の人間だった……しかし、なんて事でしょう。普通なら盗賊が減るのは喜ぶべきことなのだろうが、私の親衛隊の経験値稼ぎの計画が狂ってしまう。
考え込む私を、男爵は不思議そうに見ていた。
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