第32話 とある盗賊団の最期
ウィステリア公爵のとある辺境の夜の森の中に、20人ほどの男達が集まっていた。バラバラの服装だが、共通しているのは全員が武器を持っていること。しかもかなり使われた様子がある事だった。最近この辺りに来た盗賊の集団である。最近この辺りが景気が良くなっていると聞き付け、やってきた者達だった。
男たちの集団に、1人の男がやってくる。男たちに緊張が走るが、仲間だと分かると、警戒を解く。
「どうだった?」
リーダー格の男が聞く。
「噂通りでしたぜ。麦はたわわに実り、家畜も丸々と太ってやした。こりゃあ期待できますぜ」
聞かれた男はニヤニヤと笑いながら答える。
「兵士はいたか?」
「それらしい奴は見かけませんでしたねえ。まあ、珍しく畑の近くを徘徊してる、スケルトンがいやしたが、スケルトンを退治出来るような奴が居ないんでしょうな」
「そりゃあ良い。よし、お前ら明日の夜、襲いに行くぞ。今夜はしっかり休んでおけ」
「へい」
リーダーの言葉に盗賊達はそう返事をする。この盗賊達はこうやって、村を襲いながらやってきた。もう少し待っていれば、秋の実りが収穫でき、村の蓄えも増えると言うのに、それまで我慢できないような者達だった。
もっとも今までの村は貧しすぎて、いつ襲ってもたいして違いはなかった、というのもある。それに流れの盗賊である、収穫までじっくり待つだけの食料も持ってなかった。
盗賊達は見張りを2名たて、眠りにつく。見張りは3交代で、最後の組の者が見張りに着く。そして何事も無く、夜明けを迎えた。空が明るくなり、森の中にも光が差し込み、木々の間が見える様になってくる。
「やっと夜明けか。それにしても、この辺りはモンスターの数もすくねえなあ」
見張りの男の片方が呟く。
「ああ、まったくだ。何をしたのか知らねえが、ウィステリア公爵領に入ってから、明らかにモンスターの数がすくねぇ。それに徘徊しているスケルトンやゾンビ共が襲てくる気配がねぇ。どうやってるのか知らねえが、村人も油断してるだろうよ」
もう片方の男が答える。
「ちがいねぇ。そしてその分持ってるものにも期待できるってもんだな」
盗賊団は今まで多くの村を襲ってきたが、大したものは奪えていなかった。小銭や食料があれば良い方。中には全く何もなく、骨折り損のくたびれ儲け、というところもあった。それから考えれば、今度の村には少なくとも自分達が腹いっぱい食べられるだけの食糧はありそうだった。それに女もいる。
男は笑って、仲間を起こしにかかる。すると視界の端に動くものをとらえる。男はすぐに臨戦態勢に入り、もう一人の男にハンドサインをし、仲間を慎重にそして素早く起こしていく。
盗賊たちが身構えていると、木々の間から人影が出てくる、それも1人や2人ではない。
「ちっ、囲まれたか」
誰かがそう呟く。盗賊たちは完全に包囲されていた。少しずつ包囲の範囲が狭まっていく。人影は皮鎧に、スピアを装備している。森の中が明るくなっていき、顔が見える様になる。
「女?」
そう、槍を構えてじりじりと迫ってくる人影の、前面に立っているのは女達だった。奇妙な事に、後に男が控えるように付いて来ている。盗賊たちが思ったのは、奴隷を前面に立たせている、と言う事だった。奴隷にしては嫌に小奇麗な気がするが、奴隷を盾にして戦うのは、そう珍しい戦術ではない。そして、そういう戦術をとる奴は、魔術師か弱い奴かのどちらかだ。後についてくる奴らは魔術師とは思えなかった。
相手は弱い。女達さえ無力化してしまえば、後は何とでもなる。盗賊達はそう考えた。
リーダーの合図の元、盗賊たちは先に攻撃を開始する。盾にされている奴隷の女など、剣の腹で殴れば直ぐに無力化できる。死んだら死んだで仕方がないし、生きていたら後で楽しめる。盗賊たちは内心ほくそ笑み、女たちに近づいていく。
リーダーの男の顔に槍が突き出される。すんでのところで避ける。危なかった。これが腹に向けられていたら当たっていたかもしれない。
リーダーは素早く槍をつかむと、力任せに手繰り寄せ、女を切ろうとする。が、逆に力負けして体勢を崩されてしまう。
「なっ」
驚いている間に、再度槍が突き出される。これも無理やり体をねじって避ける。こいつは素人だ、槍の突きは早いが、次の攻撃に繋がっていない。そう思って距離を詰めようとした寸前、腹を槍で横殴りにされる。それは、とても槍の柄の部分で殴られたとは思えない威力で、リーダーはたたらを踏み、一瞬息が詰まる。そして、そこに再び槍が突き出される。今回は避けることが出来なかった。リーダーの腹に深々と槍が突き刺さる。男が槍をつかんで抜こうとすると、それより早く槍は抜かれ、今度は肩口が貫かれる。とても女とは思えない力に、リーダーはバランスを崩し倒れる。倒れながらも再度槍の突き出される方向を見て体をよじるが、避けきれず太ももに突き刺さる。その時点で流石にリーダーも自分が相手を侮りすぎていたことを悟った。
倒れた自分に女が近づいてくる。こっちはぼろぼろで反撃もできないというのに、必死の形相をしている。ちっ、やっぱり素人じゃねえか、あと一突きすればいいのに躊躇ってやがる。リーダーは僅かな望みをかけて、そばにあった石をつかみ投げつける。大きく避ければ隙が出来るはず。然しその望みは叶わなかった。女は石を素人らしからぬ最小限の動作で避けると、再度震えながら槍を突き刺してくる。それは震えながら突き出されたとは思えない威力で、深々と腹に突き刺ささった。致命傷だ。畜生め!こんなちぐはぐな動きをする素人に毛が生えた女に。盗賊団のリーダーはそう思いつつ、自分の喉に向かって突き出される槍をよけることが出来なかった。自分の血で塗れた槍の穂先。それがこの盗賊団のリーダーが見た最後のものだった。
リーダーの男が倒れた時、周りでも勝敗は既につきかけていた。驚くべきことに、女に危害が及ぼうとすると、そばについていた男が素早くフォローし、女を守っていた。
結局、盗賊達は襲ってきた者を1人も殺せず、全滅した。
お願い
ここまで読んでくださった方、ありがとうございます。大変不躾なお願いで申し訳ないのですが、コンテストの締め切りまで後約一週間余り、この辺りで上位に何とか食い込めないかと考えております。よろしければブックマークの登録や★などを頂けませんでしょうか。もちろん面白いと思ってくださっているならでかまいません。よろしくお願いします。
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