第6話 公爵令嬢、召喚士になる

前書き

 もうお気づきかとは思いますが、題名は基本的この調子です。ただもちろんどうしても合わない場合や、主人公が出ない場合もあるので、違う題名が付くこともあります。その1その2とかが付く場合もあると思います。逆にどうしても職業を思いつかない場合もあるでしょう。なので100話で完結と決めている訳ではありません。



 朝目が覚めたのはメイド達が朝食をもって、ドアノッカーを叩いてからだった。一応ステータスを確認すると疲労は無くなっている。8時間ほど寝れば少なくとも3分の1は回復すると言う事だ。疲労が残ってない事にちょっとほっとする。しかし、このままでは街での買い物もろくにできない。


「皆さん。今日は一人にしてもらえないかしら」


 朝食の用意をするメイド達に、人を操る事をイメージをして魔法をかけてみる。


「どうかなされたのですか?」


 ティータが心配そうに聞いてくる。全く効果が無かったようだ。実はこの世界、人を都合よく操るという魔法は存在しない。理由はゲームの都合上のものだったが、そのまま設定が生きている様だった。精神を破壊する魔法や眠らせる魔法は有るのだが……


「いえ、なんでもないわ。ちょっと一人で考え事をしたかっただけ」


 ティータは他のメイド達と顔を合わせ、再びこちらを向いて話しかけてくる。


「お嬢様がお辛いのはよく理解しております。ですが、それ故に尚更おひとりにはできません」


 ここにいるメイド達は、本当にこちらを心配しているため、無下にもできない。これが、義父に忠実なメイドだったら、問答無用に夜まで眠らせておくのだけど……


「ありがとう」


 私はにっこり笑い、その話題は出さずに朝食を終える。


 朝食を終えた後、私は地下室まで降り、床に魔法陣を描く。モンスター召喚の魔法陣だ。

 召喚魔法は他の魔法と違い、必ず何かの代償がいる。低レベルのモンスターだとMPのみで済むので、他の魔法と大差はないが、レベルが上がると、素材や儀式などが必要になってくる。今回呼び出すモンスターは、魔法陣と召喚者の血、HPが必要だ。

 私はポケットからナイフを出すと、刃を手首にあてる。


(ううっ、痛そう……あんまりやりたくないんだよね……)


 私は片目を瞑り、勇気を出して手首を切る。少しかっとくる熱さと共に、痛みが走る。ぼとぼとと血が魔法陣に零れ落ち、それに従い魔法陣が光り始める。魔法陣は私の血を吸い取るごとに輝きを増し、目を開けていられないくらい輝いた後、唐突もなく消える。そこには人間型のモンスターがいた。体毛どころか、髪すらなく、全身つるつるののっぺらぼうだ。ドッペルゲンガーというモンスターである。


「私に化けなさい」


 そう命令すると、皮膚が私の着ていたドレスそっくりになり、目や鼻が出来て、容姿が整い、あっという間に私と同じ姿になる。

 私がステータスを見るとHPが半分になっている。私は手首を抑えて治癒の魔法を使う。腕がわずかに光り、傷が癒える。それと共にHPも全快になる。疲労と違って魔法で治るのは便利だが、だからといってほいほいと減らそうとは思わない。HPが減ると言う事は、大体において身体のどこかが傷ついていると言う事であり、少なからず痛いのだ。幸いなことに私の場合、HPと疲労は連動はしていないのが救いか。

 いや、連動してないがゆえに、疲労回復の魔法がない当たり不便ともいえる。何せこのステータスがあるのは私だけなのだから。普通のキャラクターはある程度連動している。時間が出来たら疲労を回復する魔法が出来ないか研究することも必要だろう。

 

 話はそれたが、ドッペルゲンガーの召喚は、問答無用にHPを半分失う。それに加えて、魔法陣を満たすだけの血も必要だ。しかも召喚できる時間は1回につき最大1日だけ。私が出来るなら使いたくなかった魔法だ。だってとにかく痛い。注射だって痛いのに、自分で大量の血を流すだけの傷をつけなければならない。そうそう使う気にならないというのは、直ぐに想像できるだろう。

 ただ、代償が大きいだけあり、外見は言うに及ばず、言動も私そっくりなものができる。注意点は、服は皮膚が変化したものの為、入浴時にはまた入れ替わらなければならない事ぐらいだろうか。

 裸の状態で召喚して、服を着せればよいかもしれないが、基本的に召喚したモンスターは、装備品を着用できないので仕方がない。それに私が着ている服は、どうせ一人で脱いだり着たり出来ないものだ。一応魔法で服ぐらいは作れるが、着せたとたん、召喚したモンスターが消えたりしたら、目も当てられない。

 

「念の為聞くけど、メイドの名前は全部わかるかしら」


「勿論よ。ティータ、ヘゼル、リヤ、トルセア、スレラよね」


 ドッペルゲンガーの私はすらすらと答える。全部を確認するには時間が無いが、メイドの名前を憶えているなら後は何とかなるだろう。どうせ他愛もない話をするだけだ。


「ちょっと回ってもらえるかしら」


「良いわよ」


 ドッペルゲンガーはドレスの裾をふわりと浮かばせ、優雅にくるりと回る。ダンスで鍛えたバランス感覚で、回転軸は垂直でブレもない。

 術者の元のHPの値と関係なく、半分も消費するだけあって、表面上は全く私と同じである。ステータスは劣るが、それは私の元の値が高いだけで、日常生活ではバレる事は無いだろう。


「じゃあ、後は暫くの間身代わりをお願いねするわね」

 

 私がそう言うと、


「分かったわ」


 そう言ってニッコリ笑い、軽く手を振る私のドッペルゲンガー。我ながら可愛い。幾つか念の為確認したところでお昼になる。取りあえず昼の様子をちょっとだけ見て行こう、そう思い、私は透明化と静寂の魔法をかけ、食堂に待機した。

 昨日と同じくサービスワゴンに昼食を載せて、メイド達が本館からやってくる。ドッペルゲンガーが上品に椅子に腰を下ろし、優雅に食事をする。その仕草は小さい頃から鍛えられていた私と何ら遜色は無く、メイド達も不思議に思っていないようだ。二人並んでいたとしても、魔法を使わない限り見破ることは難しいだろう。時折メイド達に話を振るところまで完璧だ。

 私は一安心して、部屋にこっそり戻る。そして、自分に変化の魔法をかけ、何処にでもいる様な少女へと変身する。続いて、地下通路に繋げたように、今度は人通りのない裏路地に通じる空間を開く。私は開いた空間を潜り抜け、街へと繰り出した。




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