第26話 祈念の指輪
「ね、慎太郎、和彦君たち、エレベーターに向かってるけどどうすんの?」
桜子が俺に聞く。
「まかせろ、マPもたっぷりあるし、いくらでもモンスターを呼べるからな。考えがある」
ご先祖様はまだバニーガールの恰好をしたままで、
「うーん、地下七階やからなー。レッドドラゴンゾンビとかは呼べへんで。ドラゴンゾンビだって地下八階からやし、地下七階で呼べる強いアンデッドモンスターといえば、グレイターレイスとかやなー」
「そんなの、あいつらの手にかかればあっという間に解呪されますよ。解呪の腕は一流ですからね。質より量です」
「あんた、それすっきやな。で、なにを呼ぶんや?」
「ゾンビです。ただのゾンビ。必要なマPは?」
「んー、120マPやなあ」
「じゃあ、そいつをひたすら呼びつづけましょう」
★
和彦たちは再び歩き始めるまでに、一時間ほどの小休止が必要だった。
さすがに和彦も春樹も疲労が蓄積していたのだ。
モンスターよけの結界をはり、少しの携帯食料を食べ、仮眠をとった。
それでMPが回復するというわけではなかったが、それでも少しは精神力と体力の回復が望めた。
二人で警戒しながらエレベーターへと向かう。
エレベーターに乗れさえすれば、あとは地下二階まで直行だ。
地下二階まで戻れれば強いモンスターはほとんど出てこない。
あと少しで、エレベーターにたどりつく――。
その直前で、ゾンビが襲ってきた。
正直、ザコ敵だ。
あっという間に解呪する。
ゾンビは土に戻っていった。
だが、すぐに次のゾンビが襲ってくる。
即座に解呪する。
だけど、ゾンビの群れが今度は数十体まとめて――。
★
「うっわー、慎太郎君、いったい何体のゾンビを呼び出したのー?」
ほのかさんが聞いてくる。
「千体だよ」
「はい?」
「千体呼んだんだ」
「……えー……。それって、呼べるもんなの?」
「タブレットが処理落ちしてちょっと重くなったけどね」
ここのダンジョンの通路は、横幅も3メートルから5メートルくらい。
そこに、千体のゾンビを和彦たちにつっこませたのだ。
必要なマPは十二万。
だが、マッサージパワーで最大マPが四十万になった俺には楽勝の数字だ。
「いや、なんかそのインフレの仕方、頭わるない?」
「なにをいっているんですかご先祖様、俺の知力は8ですよ! 頭悪くていいんです」
タブレットの画面の中で、ゾンビたちが次々と和彦たちに襲い掛かり、次々と解呪されて土に戻っていく。
土に戻るというのは比喩ではなく、本当に土となってその場に積みあがっていくのだ。
その土はエレベーターへと続く扉の前の床にたまり、そのうち山となり、壁となっていく――。
千体分のゾンビが解呪されて作り出された土は、今や完全なる障害物としてエレベーターの扉をふさいでしまっていた。
「これであいつらはこのダンジョンに完全に閉じ込められました。もうあいつらは帰ることができません。帰還の可能性があるとすれば、ここのラスボスを倒すこと――。つまり、ここに向かってくるでしょう。最終決戦です」
ほのかさんがぽたぽた焼きをかじりながら言う。
「和彦君たちはもうMPがないんでしょ? 楽勝じゃん」
「いや、あいつら、超レアアイテムの祈念の指輪を持っているんだ。あと、ほのかさん、おせんべい食べるのはいいけど、そのあとにお茶をすするのはやめて。女子高生がおしっこ漏らしてるみたいに見えるよ」
ほのかさんは胸から下が骨だから、せんべいはともかく、液体の食い物はひかえてもらいたい。そのまま素通りして床を汚すのだ。
この部屋は床が絨毯敷きだし、まじでやめていただきたい。
桜子も困ったように、
「ほのかさん、それ特殊嗜好の人しか喜ばない奴……。下にバスタオルかなにか敷こうか? ところで、祈念の指輪って、私そのアイテム知ってる! 何回か使うと壊れちゃうけど、MPをある程度は回復できるやつじゃん! 珍しい奴だよね、そんなの持ってたんだ……」
「そう、もう二度と手に入らないレベルのレアアイテムだけど、さすがにあいつらも命がかかってるから、それを使うと思う。ここで決着をつけましょう。それも、全世界配信をしながら、ね」
俺がにやりとわらってそういうと、ご先祖様も楽しそうに笑って、
「せやな、じゃあ一芝居うつか? ちょっと着替えてくるかな、いいのあるかな」
といった。
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