第13話 町の平和を守ってるんだ
修平の様子は気になるが、急にバイトを休むわけにはいかない。俺は土日、町に唯一存在するスーパーマーケットで働いている。バイト代は最低賃金に毛が生えた程度だ。高校時代から始めたバイトで、大学生になったらもっと割の良い職場に変えるつもりだった。けれど二十歳を過ぎてもまだここでこき使われている。
所属はパンコーナーだ。工場から送られてくるパン生地を加工し、オーブンで焼き、陳列棚に並べる。菓子パンは一個百円という圧倒的な低価格。一枚五百円のピザが目玉商品だ。
俺は六時間ひたすらピザを作る。休日は特にピザが売れる。お母さんが手を抜きつつ食卓を華やかに飾るには、ピザはうってつけの食べ物だ。嘗ては町に宅配ピザ屋があったが、会社ごと潰れてしまった。町でピザが買えるのは、このスーパーだけだ。休日の平和な食卓を、俺が守ってやってんだ。
「拓ー。今日は照り焼きとマルゲリータが激売れだから。追加よろしく!」
社員の
町は慢性的に人材不足だ。俺が辞めたら、パンコーナーはかなり困ったことになる。町の休日からピザが消えてしまうかも知れない。そう思ったら、バイト先を変える事が出来ない。安斉さんも、結構困るだろうし。
いつもは言いたい事だけ言って別の仕事に取りかかる安斉さんが、足を止めてじっと俺の顔を見ている。俺は、かなり居心地悪い気持ちになって、首を傾げた。
「あんたさ、何か困ったことに巻き込まれてない?」
「困ったこと? 別に……」
一瞬修平の顔が浮んだが、「困ったことに巻き込まれている」というカテゴリーに分類して良いのか迷い、そう答えた。安斉さんは気味が悪いくらい真っ直ぐに俺の目を見つめている。
「……あんた、深夜にドライブに行かなかった?」
「……え……」
淀みない視線を向けたまま安斉さんが言う。俺は狼狽えて身を引いた。しかし、無理矢理固定されたみたいに、視線は外すことが出来なかった。
「一緒にいた人、大丈夫?」
一瞬背骨が痺れた。
身動きがとれず固まっている俺にかまわず安斉さんが続ける。
「大丈夫じゃないね。バイト終わったら、その人のとこに一緒に行ってあげる」
「あ……あざっす……」
口の中がカラカラになり、それだけを何とか答えた。
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