第9話 君の名前は?
友達と手を繋いで走っている。
不思議なくらい身体が軽い。これならどこまでも走って行ける。あの月さえ、追い越せそうな気がする。
『走るって楽しいね』
友達は、頷いた。
『もう走れないと思ってたんだ』
はにかんだようにそう言って、微笑んでいる。
『どうして?』
『だってさ……』
友達は、足元を見た。それから、不思議そうな顔をした。
『足、治ってる……』
『君の足は健全だよ。どっこも悪くない。凄く丈夫で、タフで、どこまでも走れる強さを持っているよ』
友達の足は真っ直ぐ伸びて、丈夫で張りのある筋肉が付いている。それを素直に褒めたら、すごく嬉しそうな顔をした。
『サッカーをやってたんだ。Jリーガーになって、日本代表チームに選ばれて、あの青いユニフォームを着るのが夢なんだ』
友達はキラキラした眼差しを空に向けた。夢を見るって、素敵なことだ。繋いだ手から、友達の心を満たしているエネルギーが伝わってくる。
僕は夢を見ることはない。でもいつか、遠い昔熱い夢を抱いて走っていたような気も、する。
記憶はぼんやりと霞んでいる。僕がいつから、何のために走っているのかは、定かではない。理由はない。意味も無い。ただ走る。その事実だけがある。
一人で走るのは、つまらない。だから友達が一緒なのは、とても嬉しい。
この絆を、もっと強く硬いものにしよう。
『君の名前を、教えて?』
友達に向かって、問いかけた。
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