第4話 月が近付いて来る

 月が近付いて来る。


 近付くにつれ、輪郭の曖昧だった色彩が、くっきりと鮮度を増していく。今やまるで、鮮血のようだ。


 月がどんどん近付いて来る。いや、自分がどんどん月に近付いて行く?


 どっちが正解なのかは、分からない。確実に分かっているのは、僕と月との距離が確実に近付いていると言う事だ。


 月は遠くにあるから、どんなに追いかけても追いつくことは出来ません。

 ……って、聞いたことがある気がする。


 でも、月は実際に近付いている。きっと何も知らない人が、月には近付けないって決めつけたんだ。誰が言ったのかは、もう忘れてしまったけれど。


 その月の真下に、人影を見付けた。

 若い男が、膝を三角に折り、そこに顔を押しつけて蹲っている。

 高校生くらいかな。なんだかとても悲しそうだ。月の光が彼を優しく包んでいる。


 自分以外の人間に会うのは、久しぶりだ。話がしたい。触れあいたい。強くそう願った。でも、彼がいる場所は自分が走る軌道からは外れている。道は真っ直ぐだから、きっと彼がいる場所には辿り着けず、離れた場所を通り過ぎてしまうんだろう。誰かを見付けても、大抵そうなるんだ。ああ、話がしたい。触れあいたい。


 強く、強く念じる。


 すると、気持ちが通じたのか、彼は顔を上げた。


 思わず、手を伸ばす。


 道が、緩やかなカーブを描いた。今まで頑ななほど真っ直ぐだったが、ほんの少しだけ軌道を変えたのだ。彼の方に、緩やかに。


 見付けた。

 僕の新しい友達。


 嬉しくなって、彼に笑いかけた。


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