錬金術師トウカ

 額に落ちる滴・・その刺激でグレイは目を覚ます。ここは何所だろうか。ふと手に力を入れようとすると冷たい架せが痛みを伴い邪魔をする。

 (・・・ そうだ・・ 多分捕まったんだ・・)

 「痛ぅ・・!」

 すこし体を動かすだけで激痛が走る。骨にヒビか・・それとも体の損傷か、結構やっているかもしれない。

 よろよろと起き上がると回りを見渡す。前には鉄格子。牢獄でまちがいないだろう。格子のついた窓から外を覗くと月が見える。そして特徴的な連山が確認できるからして自国からそう遠くではないようだ。

 (・・隣国の砦・・かな・・救援は・・絶望的よね・・)

 グレイは深いため息をつく。捕まった事実もあるし場所は敵国領土かもしれないのだ。


 ***


 ─数日前─


 「グレイ隊長!総員そろいました。!」

 「お疲れ様。ミワ。隊は全員そろっているわね」

 「は!目的地まで到着までに計5回の魔物の襲撃はありましたが、損失はゼロです!」

 「あたしの部隊でこの程度の魔物にやられるような子はいるわけないし」

 「ね!ミワ♪」

 「えへへへ・・♪」

 側近の一人である副隊長であるミワの頭を撫でる。

 歳も若く小柄な女の子ではあるが魔術と剣術は優秀。信頼している部下の一人だ。       歳が若いだけに子供気がまったく抜けてないのが困りものではあるが・・・。

 「・・は!?隊長!!なでなでところではないです!近隣の国民から報告があった異形の魔物が出る地域に入りましたので調査開始で隊を探索に回します!」

 「うん。あたしも動くわ。ミワ、あなたと数名で構成して頂戴。すこし小隊つくって回りを調べてみるわ」

 グレイは手を叩いて他の隊員に大声で指示をする。

 「他の者は回りの警戒とキャンプの構築を!しばらくここに滞在して調査します。いいわね!」

 『はい!』

 グレイのかけ声と同時に他の兵はわいわいとキャンプを構築し始める。グレイの隊は女性だけで構築された部隊だ。女性ばかりだとそれほど力のある部隊ではないように思えるが皆魔法に長けておりグレイと同じ魔法に術をかけて攻撃するタイプの属性重視した魔法剣士。非力とは言え国では5本の指に入る。

 今回国の部隊が動いたのは、あまりこのましくない隣国近くの辺境で国民が襲われたという情報が国に上がったため。それの調査、そして場合によっては排除のためだ。

 グレイ自体が多種多様な経験をしているため、こういったあまり情報のない作戦には高確率で引っ張られる。が、彼女自体の経験と勘で打破してきている。


 ── しかし、そうそうずっとうまく転がるはずがない──


 「さて、調査に行くわよ。行動開始!」

 『はい!』

 グレイ率いるミワと小部隊数人で山脈付近の森に探索に入る。

 普段はこの森での魔物発生の報告はなく、付近の国民が山菜などの採取が行われている。

 しかし今はだれも入ってない。もちろん異形の魔物の出没が確認されているからだ。

 目撃者は1名の女性、家族と森に採取にはいったのだが無事に帰れたのは彼女だけらしい。その不明者の捜索も兼ねている。彼女の報告では大きいものやら小さいものまでとか意味不明なことをいっていたらしいが精神状況も不安定でとても聞ける状態ではないそうだ。よほど怖い思いをしたのだろう。

 「とにかく目についた痕跡やら被害者の遺留物とかあったらそれも確認してね。それとあたしからはなれないこと。・・今回のはあまりよくない気がする・・」

 「大丈夫ですよ!隊長がいれば怖いことなにもないです!」

 「ミワ・・おだててもなにも出ないわよ。(まぁただ撫でてほしいだけなんだろうけど・・)」

 森の中は完全に静まり帰っており普通の動物の気配も感じられない。鳥の鳴き声もなぜか聞こえない。とても気味が悪い・・・グレイは警戒を怠らないように気を巡らせて進む。

 「きゃあ!た、隊長!」

 「!!なに!!」

 「あ・・あれ・・」

 ミワが震えながら指を指す。その先に見えるのは人間・・男性が倒れている。

 ・・しかし遠くからみても死亡しているのは明確。なにより遠目からみても遺体の損傷が激しい。近づいて確認する。

 「・・ひどい・・なんでこんな状況に・・」

 「・・う・・うぷ・・」

 「他の者は回りの警戒をして・・ ミワ・・あなた死体なれしてないからあまり見ないほうがいいわよ」

 「は・・ はい・・ そうします・・ う・・」

 (なにか強い力に潰されたかのよう・・骨がくだけて変な方向に手足が曲がっている。小型の魔物でこんな損傷はだせない。とはいえこの辺ででる大型の魔物でさえも・・)

 (・・一度キャンプにもどって隊を増やして探索をしたほうがいいかも・・)

 「きゃあああ!!!!」

 先ほどよりも大きな悲鳴が響きグレイはその方向を確認した。


 ─バキバキ!


 周りの木をなぎ倒しながら大きな巨体が姿を現す。

 「!・・ あれは・・」

 2階の建物をこえる大きさ、体は金属らしきもの・・いや巨大な鎧なのかもしれない。

 「あ・・た・・隊長・・助けて・・」

 「ミワ!!!」

 ミワがその鎧のようなものの手にわしづかみにされている。無機質なそれは気配を感じさせていなかったのだ。それでミワは不意をつかれたれたのだろう。

 鎧とみて中に何かが入っているのは間違いないだろう。おそらく剣は通らない。電撃系が効果があるはず。

 「ミワ!電撃系魔法防御魔法をを詠唱して!!」

 「ひぐ! はぃぃ!!」

 「総員! サンダーアローを詠唱! うてぇ!!」

 『はい! ・・・ よ ・・・ にて ・・よ! サンダーアロー!!!』

 隊員全員から放たれた雷が鎧のようなものを貫く・・が・・動きがとま・・らない!!!

 むしろ効いてないのだ!

 「嘘!! なんで!!」

 ・・の瞬間、ポキポキとまるで枝を折るような音が聞こえる。

 ・・鎧がミワを握り潰し始めたのだ。

 「ミワ!!!」

 「ぎぃ・・いああぁ!!! い、痛い!!! た・・隊長・・たすけ・・かはぁ!・・が・・」

 まるでトマトを握り潰すかのように潰れるミワ。ボタボタと血と肉片が落ちる。

 ミワの無残な姿をみてグレイは唖然として動けなかった。

 ・・その瞬間、周りから悲鳴が響く。グレイははっとして見渡す。

 鎧のような物の小さいタイプのが剣や棍棒を持って大量に現れ次々と隊の仲間を襲っている。                                    やはり剣は通らず、魔法は効かず・・なすすべもなく次々と隊員は無残に殺され血の海を広げていく。

 「そんな・・! なにか手が・・!」

 ・・の瞬間、グレイの目の前に鎧がいた。周りに気を取られグレイも気づかなかったのだ。既に時は遅く敵が棍棒を振りかざす瞬間だった。

 「しま・・」

 激痛と衝撃でグレイは頭の中が真っ暗になる──


 ***


 (・・そうだ・・あたしの部隊は襲われて・・あたしだけ・・なんで生きているの・・?)

 グレイはへたり込み涙を流した。

 「はーい♪ 元気しえてたー?」

 鉄格子のそとから陽気な女の声が響く。グレイはとっさにその声の主をにらみつけた。

 「きゃー♪ こわーい! んとー あなたがお隣の国で有名な兵士・・グレイちゃんね!こんばんわ♪・・・・ いや・・ 冒険者グレイ・・・かな・・」

 「!」

 冒険者の肩書きは伏せていたはずなのにその女は知っている。

 「・・なぜ・・あなたあたしの裏の肩書きを知っているの・・?」

 「んー あなたとーっても有名だからねー 顔ばれしているよー? あ!自己紹介まだだった!あたしは、トウカっていうのよろしくねー。 錬金術師やってるの♪」

 ・・錬金術・・聞いたことがある。無から有を生み出す技術・・すくなくともグレイの国ではまだ見研究の技術だった。隣国ではすでに確立しているのだろうか。

 「んとー、グレイちゃんは察しがいいからわかっていると思うけどぉ、あなたのお友達を皆殺しにしたのはあたしの作品のゴーレムなの!中身は空っぽだからあなたたちの使う魔法とは相性は最悪よね♪」

 ・・ゴーレム・・ 無機質に命を定着させる錬金術師の手段の一つ・・たしかにこれでは相手は生物ではなく無機物。魔法が通じないわけだ・・ 最悪な相手に自分の部隊をあててしまったのだ・・。

 「まぁ、あなたのお友達が挽肉になっちゃったのはグレイちゃんのせいじゃないから♪あなたのお国の諜報部の情報不足ってなわけだから気負いしちゃだめよ?」

 「・・うるさい・・」

 「きゃ!こわーい!まぁ、いいけどね。グレイちゃんあなたは、あなたの国の魔法を調べるいい検体になるから・・ 首は切断してあなたの国に送ってあげるね♪ ・・みせしめというわけだけど・・ 体のほうは解剖させてもらうわ♪中身をみないと魔法がどうなっているのかわからないもの!」

 「取りあえず、ゆっくりしててね♪・・うふ♪痛くないように首・・切断・・してあげるから・・♡」

 トウカはそう言うとくるくる周りながら牢獄をでていっった。

 ・・グレイはまた深いため息をつく。大事な部下を死なせてしまった・・ ミワの笑顔が脳裏に浮かぶ・・そして死ぬ瞬間も・・。

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