家族の絆
グレイが行方不明になってから3週間がたった。家に国から軍の使者が訪れ進捗を報告する。
─生存は絶望的・・・
という内容だった。
それを聞いたシィタはふらっと意識を失うように倒れ丁度そばにいたアクアに抱きかかえられる。
使者が驚いてシィタに近寄る。
「あ・・ 大丈夫ですか?」
「あ・・うん、たぶん一番の肉親なので不安が大きかったのかと・・とりあえずソファーで休ませるので少々おまちを・・」
アクアはシィタを抱きかかえるとソファーに寝かせ改めて使者から話を聞く。
「・・はい、我が軍と同時にギルドにも捜索依頼をだしていたのですが、捜索依頼を受けていた冒険者に全滅してた事と報告を受けております」
「・・全滅・・っすか・・あ・・あの・・グレイねぇ・・いや・・グレイの遺体は・・」
「はぁ・・それが損傷が酷く腐敗も相当進んでいた模様で・・その場で隊の遺体は埋葬しております。遺品はこちらに・・」
「・・遺品・・」
アクアは使者から長剣と冒険者証を受け取る。刃こぼれしている長剣。鞘の形でグレイが長年愛用していた剣だと確認できた・・そして、冒険者証にはしっかりとグレイの名が刻んである。
「・・グレイねぇ・・」
アクアはぐっと剣をかかえて涙をながす。ふらっと後ろを振り向くと不安げに様子をみているグレイの娘二人。
アクアはセタとナナシーに涙を拭いて笑顔をみせると使者と向き合う。その目には信念があった。
「グレイ・・はまだ生きてます。うちとらもいち冒険者のはしくれっす!自分の目でしっかり事実を確認するっす!」
「いや・・すでに埋葬も・・」
と使者が言いかけた瞬間にアクアは会話を割る。
「いやいや、冒険者は足が命です。家族の事は家族がしっかりみるっす。第一骨の一つのひろってこれないようではグレイに顔向けもできない。とりあえずあたしらも現地に向かいます」
「そうですか。取りあえず現地で新種の魔物を発見されたと遺体を発見した冒険者からうかがってますので・・おすすめはしませんが・・くれぐれもお気を付けて」
使者は軽く会釈をすると、馬車に乗り帰って行った。
アクアにセタとナナシーが駆け寄る。
「・・ママ・・は死んじゃったの?」
「うんにゃ、あたしが確認してないから分からないよ。てか死ぬような玉じゃないとおもう。・・うんだから安心するっす。きっと帰ってくるからね」
「うん!だよね!母さんは強いんだから!」
「そうそう、帰ってきたらびっくりするぐらい強くなったとグレイに言えるように修行はおこたっちゃだめっすよ?」
娘らはアクアに励まされ涙目ではあったがにこやかになってた。そうでないといけない。もしグレイがかえってきて皆が意気消沈していたらかえって辛い思いをさせてしまうからだ。
「・・さてと、そろそろヨルがギルドから帰ってくるころかな・・」
「ただいまかえりました」
「!!おわっと!」
気がつくとすでにヨルが隣りに立っておりびっくりするアクア。
「・・お・・おかえり。・・で、どうだった?」
「はい。かなりの収穫はありました。ギルドへの冒険者からの報告によるとグレイのような特殊体質の遺体・遺留物は確認できなかったのこと。ちなみに私も現場に確認にいきましたが、グレイのDNAに関する情報の物は血液以外確認できませんでした。考えられるは第三者に別の場所へ死体をうつされたか・・拉致されたかだと思います」
「・・あの短時間で現場まで・・」
「たいしたことない距離です。走ればすぐですので・・」
「・・とすると、グレイ姉ぇは生きている可能性があるってことっすね」
「グレイの生体パターンは記録しております。半径34ミニ以内でしたらセンサーで判別可能です」
「・・なるほど・・機械の体はすごいっすね・・たすかるっす」
「・・では、地図をみてもらえますか? この国は隣国と休戦状態ではありますが、事実上戦争は続いております。今回グレイが行方不明になったのは国境近くの森。隣国の何者かが侵入してて遭遇。そして拉致・・が有力ではないのでしょうか」
「うーん、そう考えるのが筋っすねぇ・・」
「しかし国境から隣りの首都までの距離が2013ミニ、人の足で移動させるには日数がかかります。可能性として近くに監禁し、隣国からの兵をまつのが正当かと思われます」
「しかし、日数はかなりたっているから捕虜として隣国に移送はおわっているかもっす」
「そうですね、しかし、隊をおそったのは異形の物とギルドで報告をうけてます。隣国の大隊をうごかしたのは考えにくいかと思われます。多分かなりの小隊か、もしくはその異形を使役する者一人か二人かと思われます」
「・・とするとやはり森近辺に監禁している可能性もあるのかー」
「アクア、これをみてください」
ヨルが広げた地図の一カ所を指す。
「ここに隣国が遺棄した砦があります。国境近くではありますが、かなり森に近い位置です」
「・・くさいっすね」
「えぇ、私もそう思います。近辺に遺跡も洞窟も存在しませんし、隠れるには恰好の場所かと・・まぁ、隣国の罠の可能性がありますが、小隊以下であればかえって戦闘になれば不利、その可能性は少ないでしょう」
「うーん、可能性としては少なくないか・・」
「で、可能性を視野にいれて私がいってこようかと思います」
「一人でっすか?」
「はい」
さすがにアクアも一人で行かせるわけには行かず全力で拒否。シィタは寝込んでいるし他の家族みんなで考え砦に捜索に向かうのは、アクア・ヨル・デュナメスの3人でいくことにする。
子供たちはシィタの見守りだ。
「ヨルはある程度近くまでいけばグレイが判別できるっていったっすよね」
「そうです」
「じゃあ判別できるギリギリまでよるっす。で判別できなかったら離脱っと」
「かまいません。先ほど申したとおり大隊はいないとは思いますが、異形の物が未知数です。危険はなるべく避けたいので」
「よし、そうときまればぜんはいそげっす。時間がたちすぎるとグレイ姉ぇの命も・・」
「もう絶命している可能性もありますが?」
「・・ヨル・・それはいいっこなしっす・・」
アクアが冷めていると、向こうからデュナメスが装備品をまとめてもってきた。
「準備できてますよー」
「・・って、デュナメス・・その恰好で行くんっすか・・?」
「うん、わたしにとっては動きやすいし戦闘服みたいな物だから」
デュナメスは相変わらずのメイド服のままだ。かなり気にいったようらしい。しかしかえって目立ってしまうような気もするが・・。
「・・まぁ・・ いいか!!」
「じゃぁいくっすよ!?」
『はい!』
3人は装備品を背負うとホームから一斉に駆け出すのだった。
***
─XX国 国境付近─
この地域は隣国との中立地域でありいかなる理由であれ争いは起きないとされている。
しかし、お互いに干渉しないことにはなっているが暗黙化では抗争は起きている。
完全に日が落ちもはや次の日に入る深夜に遺棄された隣国の砦にほぼ完全武装に近いアクア達が到着した。
装備を固めたのは隣国の敵兵がいて、万が一手を出してきた場合の為、しかし一般人に近い冒険者には手を出さないという協定はむすんでいるが今回の件は別だ。
グレイ自身はたしかに冒険者ではあるが本業として軍人をやっているわけであって隣国が武器を向けていい対象にはなっている。そのグレイを救出を目的で来た者であれば例え普通の冒険者であっても何もないことはありえないだろう。
「つきました」
「了解っす。完全に日がくれちゃいましたねー」
「いや、夜間の方がかえって好都合です。万が一隣国の者がいた場合目につきづらいですからね」
「そいや、ヨルは夜目がきくんでしたっけ」
「はい」
「それなら安心っすね。相手より先に気づく事が出来るっすから」
「他に多種センサーがありますので目視以外でも検出できることができます」
「・・それは心強いっす・・」
と、身を潜めながら歩みを進めるアクア達。やがて木々がはれると遺棄された砦が見えてきた。
「・・で、ヨル、グレイの存在を察知できるっすか?」
「はい、いまからサーチします。・・・生体パーターン登録・・認証・・ビジョン展開・・・」
ヨルは目をつむりぶつぶつと何かをしゃべり出す。
はじめてヨルのオートマタとしての性能をみて驚くデュナメス。
「なんかすごいですね・・ヨルさん・・・」
「・・まぁ、オートマタっすからね・・」
アクアとデュナメスがひそひそ話をしているとアクア達に合図をする。
「どうやら間違いない・・らしいっすか」
「はい、整合するパターンが建物内に検知されました・・・ しかし・・・」
「しかし?」
「・・異常です。私のセンサーが故障したのでしょうか」
「どうしたっすか・・?」
「いえ・・・とにかくグレイのパターン、そして照合出来ない生体パターンが1つあります。多分グレイを監禁している者の存在でしょう」
「一人っすか?」
「・・だと、思いますが・・やはりおかしい・・。・・目視で確認しないと駄目ですね。センサーの誤作動か故障・・かもしれません」
「・・いや、グレイがいることが分かればそれはそれで結果っすよ。問題は救出のほうっす。他の敵は一人なんすね?」
「たぶん・・」
「たぶん・・って、ヨルにしては曖昧な答えっすね」
「・・なので目視確認が必要です」
「ふむ・・了解っす。さて、どっからはいったらいいか・・。デュナメス・・準備はいいっすか?」
デュナメスは既にナイフ二本をとって片手にもち、もう一本は口にくわえている。
「はひ・・」
「デュナメス・・ちょっとそれは怖いっす・・」
ヨルを先頭に入り口に身を潜め、ヨルが中の様子をうかがって見張りなどの気配がないのを確認すると一斉に駆け足で侵入する。
***
「だーれもいないっすね」
「たしかに目視では存在を確認できません。しかしパターンは確認できますのでどこかにはいるはずです。・・しかし・・ おかしい・・」
「ヨルは壊れてないっすよ。多分、なにかあるんだとおもう。とにかく警戒を怠らないように・・デュナメスは後ろを・・」
「はい」
砦は朽ちており、壁には苔が生え床には至る所に水たまりが出来ている。強烈なカビの臭いが充満しているがそれに惑わされないように五感を全開にまわして薄暗い砦内を移動する。
「ん・・?!」
「・・どうしたっす・・?ヨル・・」
「うめき声みたいなのが聞こえます。・・この声紋パターンはグレイ・・」
「!本当っすか?」
「こっちです・・」
ヨルが指を指すのは砦の地下室への階段。大抵のお城や砦は囚人の脱獄を極限に抑えるため牢獄は地下につくっているのが殆ど。グレイは地下牢に監禁されているのだろうか。
しかし考えていても存在の手がかりはこの声らしきものだけ。危険かもしれないが地下室へ降りることにした。
地下室はさらに湿っており臭いが酷い。さすがにアクア・デュナメスは吐き気がもよおしてくる。
「アクア姉さん・・さすがにきついですね」
「・・まったくっす・・しかし、ここにグレイねぇがいるとなると、はやく助け出さないと病気になってしまうっす」
ピチャピチャ足音をたて苔と水でしめった石床を歩く。注意しないと滑って転んでしまいかねない。こんな劣悪な場所に閉じ込められているのだろうか。
半地下になっており、所々の石窓から月明かりが廊下を照らしている。その光に照らされる石牢、異様な雰囲気が漂う。
「・・う・・あ・・」
「!? また、声・・ 奥っす!!」
奥のほうで再びうめき声が聞こえた。アクアにもはっきりとグレイの声だと理解でした。いてもたってもいられないアクアはバシャバシャと水しぶきをあげながら駆け出す。
「だめです!アクア!罠かもしれません!」
ヨルが呼び止めるがアクアには聞こえない。グレイが生きていると確証を持てた今、元々鉄砲玉精神の彼女を止めるすべはない。
「グレイねぇ!!!」
勢いよく奥の牢獄部屋に飛び込むアクア。
・・の瞬間、ぬらっと光る剣がアクアの首筋に当たりアクアの首から血が垂れた。
「え・・?」
アクアの首に剣を当てたのは、アルビノの少女・・いや、グレイその者。
「・・グ・・グレイねぇ・・ 何かの冗談・・っすか・・?」
「んー? 冗談ではないわ」
ケタケタと笑うアルビノの少女は首からヒュン・・っと剣を振るい、両手でもつやいなや、アクアの力一杯で腹部を貫いた。
「かは!!」
「アクア!!」
追いかけてきたヨルとデュナメスではあったがすでに間に合わなかった。
アルビノの少女は血でべっとりになった剣をアクアからぬるっと引き抜く。
「・・は・・・あ・・かぷ!」
そのままアクアはお腹を押さえながらバシャっと床に膝をつく。
薄れる意識の中、目の前に写ったのは拘束椅子に縛り付けてあるもう一人のアルビノの裸の女性、俯いていて顔はうかがえないが雰囲気は間違いなくグレイだとアクアは察知した。
しかし血を大量に失い体に力がはいらない。グレイのそばにいけない。
「・・グレイねぇ・・」
アクアを貫いたアルビノの少女が血まみれの剣を振るい上げる。アクアに止めを刺すために。
─ ザシュ ─
肉を絶つ音が牢獄に響く。の瞬間、崩れたのはアルビノの少女、肩から下腹部へ切断され、血の泡を吹きながら滑り落ちて崩れた。
アルビノの少女を止めたのはヨル、戦輪で切り裂いたのだ。
デュナメスはすかさずアクアに駆け寄り肩をかける。
「アクア姉さん。しっかり!」
「デュナメス・・ グレイねぇ・・を・・」
「それより・・囲まれている・・」
部屋の中はケタケタ・・くすくすと笑い声が響いてる。雲が晴れて月明かりがさし、部屋に光が差す・・そして姿をあらわしたのは幾人ものアルビノの少女。彼女らは多種多様の武器をもってにやにやと笑っていた。
ヨルはデュナメスにぼそっとつぶやく。
「・・グレイのクローン・・ですね」
「クローン?」
「ようはグレイの複製体です・・私の違和感の原因はこれです。複製体であったためグレイのパターンが重複していた」
「この中に本物のグレイがいるの?」
「・・いや、複製体には魂はありません。追加センサーで生物としての照合ができませんので・・。本物はあの拘束されている女性です」
しかし、状況は最悪である。致死の可能性がある重症を負ったアクア・・拘束されて意識のなさそうなグレイ。その二人をかばいつつこのクローン達から逃れなければならない。クローンも多分グレイ相当の能力をもっている可能性が高く、圧倒的に不利かと思われるからだ。
「この状況はまずいですね・・」
デュナメスもナイフを両手に構え、アクアのそばでけん制する。
「どうかしら!あたしの作品♡」
「!?」
来た通路から明るい感じの女性の声が響く。ぱちゃぱちゃと歩く足音が響く、そして月明かりにてらされて姿をあらわしたのはきらびやか・・ともいえる綺麗な衣裳に身を纏った少女だった。
「あたしの名前はトウカ♡ はじめまして、グレイのご家族さん♡」
***
周りのホムンクルスらがざっと道を空ける。暗く湿った牢獄に現れたのは一人の綺麗な衣裳を纏った少女。
「改めて自己紹介を。あたしの名前はトウカ、あなた達のお隣の国の『国家錬金術師』よ♡ んーこれも偽名なんだけど、本名は内緒ね♡」
まるで彼女の意思のように動きを止めるホムンクルス達。なんらかの力でこれらを操っていたのは間違いないらしい・・。
─そして今回の一連の事件の発端─
戦輪の血を払うと恐れもなく歩みよるヨル。
「初めまして・・ヨルといいます。お騒がせして申し訳ございません」
(・・ちょっと、ヨルさん・・敵にむかってなんで礼儀ただしく・・)
デュナメスがヨルの以外な発言にびっくりした様子。てっきりすぐに斬りかかると思ったのだが・・。
「あら、ヨルさんね。こんにちは♡ んー、あなたの情報は聞いてないわねー。んもーうちの諜報部ってきたら・・」
「あなたの『作品』を壊してしまい大変申し訳なく思っております。個人的に『人間』の殺生を避けておりますのであなたを手に掛けたくありません。あなたは私の家族を傷つけました。ここは痛み分けとしてグレイをこのまま無事かえしていただけないでしょうか?」
「えー?あなたの殺した私の作品は人間じゃないのー?」
「これは偽物の器にすぎません。生物と呼ぶには不完全なものかと思いますが」
「ふふ・・まぁ、そのとおりね。これらは確かに『器』、グレイの魂までは錬成できないもの♡ 今のあたしにはね・・」
トウカは俯きながらクスクスと笑っている。笑っているが・・デュナメスは冷や汗が止まらなかった。
ふわりと覆う髪の隙間から見える瞳・・それは・・少女の瞳ではない、『狂人』の瞳だ。
「でもぉ、ヨルさんのお願いは護れないかな♡ ・・だってぇ・・グレイの家族は実験材料ばかりなんだもの!」
「・・・」
「グレイは多種多様の種族を家族として迎えたわ♪万薬の材料として使える有翼人の卵(卵巣)・・もう絶滅したと思ったから素材採取出来ないと思ったしぃ・・それに、不老長寿の薬の元といえる人魚の血肉♡グレイは魔法の研究だけに使おうと思ったんだけどうまくつかえば材料もいぶりだせそうだったの♡結果として取りあえず人魚は採取出来そうね♪ ね?後ろのお腹に大穴開いちゃったハーフマーメイドのお嬢さん♡」
「・・ゲス野郎・・」
「! アクアねぇさん・・ しゃべらないで・・」
アクアがナイフをとって起き上がろうとするがふらついて膝をつく。そばにいたデュナメスがとっさに体を支えた。
「だめよ♡動いちゃ・・材料が全部ながれちゃう!」
「・・交渉決裂・・でよろしいでしょうか」
「んーそうね。あなたと、うしろのお嬢さん・・かなぁ・・二人を殺して今日は人魚を採取♡ってところかしら」
・・の瞬間、ホムンクルスの数体が一気に、ヨルに襲いかかる。
ヨルはまるで動きを予測していたかのように華麗に舞うように避け、戦輪で瞬時に斬り倒す。
灰色の髪のホムンクロスらは内臓をまきながら崩れ落ちていく。
「つよーい♡んーでも数の暴力ではかなわないでしょ?」
次々ヨルに襲いかかるホムンクルス達。ヨルは巧みにさけ、次々に斬り倒す。あたりは血と内臓まみれになりヨル自体も血に染まっていく。しかしまるで作業かのようにヨルは次々とホムンクルスを排除する。
しかしそのうちの一体がヨルの戦輪を止めた。とっさに回し蹴りをし蹴り飛ばす・・が、ホムンクルスがヨルのローブに掴みかかっていたためそのまま破れてしまった。
それをみてトウカがお腹を抱えて笑う。
「クスクス♡ やだー ヨルさんローブの下になにもつけてないのね♪ 大事な胸と下半身丸出し・・ ・・って、その体に入っている文様・・あなたオートマタなんだ!初めて見たわ♡」
「・・たしかに私は人間ではありません・・が・・あなたよりは分別はわきまえてますよ・・」
「ふふ・・そうね♡ でもぉあたしとおなじで『ヒトゴロシ』は『ヒトゴロシ』!変わりはないわ。・・ていうか、あなた! 大事な所がついているのね♪ 愛玩物かしら。ただ殺すしか能がない子供も産めないただの『性処理人形』さん♡」
・・その言葉を聞いた瞬間ヨルの表情が微妙に変わる。人形がゆえに無表情だった彼女になんからの感情がこみあげてきたのだろうか。
「・・不快です・・」
ヨルが一言を発するやいなや、いっきにトウカに間合いを詰める。・・が、周りにいたホムンクルスが一斉にヨルに襲いかかり動きを止める。
「やだー怖ーい♡ 図星だったのかなぁ♪ んーでも、ベースがグレイじゃあなたのような人形さんには何人いてもかなわないわね♡ そうそうしってた?人間って生き物はね、脳に鍵が常にかかっているの。実際の半分以下の力しかだせないのよ?・・でね・・この最近開発したあたしの新しいお薬でその鍵を外すことができるの!本当は一般兵の戦力増強の為に作ったんだけど、鍵を外しちゃうと骨や筋肉が耐えられなくてすぐに崩壊しちゃうんだ。なので失敗作なんだけど・・」
トウカとっさにかわいらしいマスクを付けるとポシェットから薬瓶を取り出し地面に叩き付けた。瞬時に気化する中の液体。
・・の瞬間。ホムンクルス達がいっきにうめき声を上げ出す。
「・・なにを・・」
ヨルが気をとられている瞬間ホムンクルスの一体が斬りかかる。ヨルがとっさに戦輪を構えようとしたが間に合わない。
すさまじいスピードでヨルの胸を切り裂く。オートマタだけに血はでないが皮膚を構成していた樹脂・・これはそうそうでは傷がつかない特殊な素材なのだが、貫通し中の骨格が見えてしまっていた。
「ヨルさん!!!」
「・・大丈夫です。動力系統までは到達してません。・・しかしクローンが人間以上の性能をだしています」
ヨルに斬りかかったホムンクルスは既に腕が変な方向にまがってしまっている。骨折してしまっているようだ。
「ようは一回きの使い捨てね♡でもこれだけの数相手の攻撃であなたの体。耐えられるかしら・・」
鍵の切れたホムンクルス・・ それがぞろそろとヨル達を取り囲む。
「・・まぁ、リミッターを掛けているのは人間だけではなく私もなのですが・・」
「え?」
ヨルが何かをつぶやきだす・・瞬間、もはや人間の目では追えない速さで周りを振り払う。ものすごい衝撃波がはしり当たりを揺らし、水しぶきを上げる。
風圧で目を開けられたかったトウカとデュナメスらであったがそっと目を開けると囲んでいたホムンクルス達がみな下半身だけのこし立っていた。そしてバタバタとみな倒れていく。上半身も当たりに散乱するかのように散らばっている。
「・・すごい・・」
あまりの光景にデュナメスは息を飲んだ。ヨルは体から汗?なのだろうか・・湯気がでている。リミッターを外すといっていた。多分相当な身体負荷がかかったのだろう・・。
「・・まぁ、同じようにリミッターを外したまま闘うとさすがの私でも壊れてしまいますが・・」
それをみて一瞬唖然としていたトウカだったが、口に手をあててクスクスと笑い出す。
「ふふ・・あはははは! すごーい♡ ヨルさんもあたしの実験材料に使いたいわ♡ でもぉ、この状況ではあたし・・間違いなく殺されちゃうわね♪」
「逃がしません・・」
ヨルが戦輪を振りかざしトウカに飛びかかろうとした・・が、足が動かないことに気づく。足下に目をやると複数のホムンクルスの上半身だけになった体がヨルの足を掴んでいる。
「あははは!真っ二つにしただけじゃ止まらないわよ。だって着魂石は心臓にあたる位置にあるんだもの♡ まぁ、どちらにせよ今回はあたしの負けね。グレイは返してあ・げ・る♡・・でもぉ、心はものけの空だけどね♪」
トウカはまたポシェットから何かを取り出す。丸いガラス・・中には黒い液体。それをぽいっとヨルたちの前に放り投げる。落ちた衝撃でガラスの液体が波打ったと思った瞬間、その液体の中に光が飲み込まれていく。
「!・・ これは・・!」
「それじゃ!ごきげんよう!みなさん! 生きてたらお会いまたしましょ♪」
トウカがまたポシェットから光輝く小瓶をだして中の粉を上にまき散らした瞬間そのまま光のなかに消えていった。
「・・転移術・・そんなのまであるだなんて・・」
デュナメスが唖然としていると、ヨルがグレイとアクアを両肩にをかかえてはやし立てる。
「早く脱出を・・ あれは非常にまずいです」
「え?」
ガラス玉の周りはどんどん光を吸収・・いや、空間を吸い込んでいるのか・・。周りの風景が消えてなくなる。
「はやく!!」
ヨルがはしって通路を駆け戻る。デュナメスも尋常じゃないと思い一緒に無心で駆けだした。
***
砦からはなれ後ろをみると真っ黒な玉が砦全体を囲んでいた。そしてそのまま収縮していきその場には大きな半円の穴がぽっかりとあいた状態になった。
「ヨルさん・・ いったい・・」
「・・説明は難しいですが空間転移物質ですね。あのトウカが使ったのは確実に移動出来る手段ですが、こちらは別次元に丸投げ・・いや、収縮と同時に私達も分子レベルまで破壊されたでしょう・・」
「それって・・」
「もちろん・・魂も肉体も残りません」
それを聞いたデュナメスは鳥肌がたった。
「それより二人の手当を・・」
ヨルは二人をそっと降ろすと体の様子を確かめる。
アクアは腹部を貫通する傷・・。
「・・ふふ・・ 人魚は・・丈夫っす・・ これくらいで・・・ぐ!」
「だから!アクアねぇさん・・しゃべっちゃ・・」
「・・そうですね。アクアは精霊術でこの場で治療できます。しかし・・グレイは・・」
グレイ・・体の至るところに傷ややけどらしいがある。ただ・・虚ろな瞳でまるで何もない所を見ているようにしていた。
デュナメスが持ってきた霊薬を飲ませる。傷は綺麗に消えたが、目はうつろなまま。ヨルも精霊術による治療を試みたが意識はもどらない。
「ヨルさん・・これって・・」
「・・トウカのいった通り、心の中は空白・・しかし・・魂は確認できます・・この状況は・・」
回復薬も精霊術も効かない。謎の意識の欠損。命はあるが心がない。今まで見たことがない症状。
「そうえいば、トウカは『錬金術師』と言ってました。これは私達には未知の技術です。あの転移術や空間圧縮技術も・・そしてリミッターカットをおこなう薬もすべて未知です」
「・・てことは、わたしたちではどうしようもない状況・・」
「そうですね。少なくとも私が直せないのであればシィタも同じ術を使う者同士、無理でしょう・・これは調査が必用です・・」
「・・グレイが死ぬことは・・」
「えぇ・・おそらくないでしょう。魂はしっかり定着しています。・・ただ何かで意識が阻害されているだけかと思われます」
「・・じゃあ・・一生このままなのですか・・?」
「わかりません。すくなくとも私のストレージにはこの事象のデータは記録されてませんので」
「・・取りあえず家に戻りましょう。結果としてグレイの救出には成功しました」
「・・そうだね・・」
ヨルはアクアに精霊術を施す。傷口はふさがり綺麗に消えた。
「アクアの治療はすみました。ただ血をかなりうしなっているので家での長期の治療が必用ですが」
「・・うす・・ ありがとう・・っす・・」
デュナメスに肩をかけられ、よろよろと起き上がるアクア。
そしてヨルは自分がまとっていたローブをとると裸だったグレイをそっと包んで抱きかかえた。
「・・ヨルさん・・ は・・ 裸なんだけど・・」
「私は温度を感じませんが?」
「いや・・ そうじゃなくて・・ (わたしの目のやり場にこまるんだよなぁ・・)」
「・・やっぱ男の子っすねぇ・・」
遠くから日の光が見えてきた。やがて朝になる。
グレイの救出には成功したが、トウカの存在、未知の力、それをもつ隣国・・・。
そして、流出していたファミリーの情報。
家族の近辺に裏切り者か・・それとも敵がひそんでいる可能性が見えてきた。
それより長であるグレイが何も出来ない状態。ファミリーは完全に帆を失った船・・。
不安がぬぐえないまま皆はホームへの帰路を歩む。
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