ふれてはいけないもの

 グレイの自宅・・ ラウンジには家族みんなが集まって前回の任務の反省会を行っていた。

 まぁシィタの振る舞った食事会といっても過言ではない。反省会とはいってもいわば宴会みたいなものだ。

 任務自体は失敗に終わってはしまったが、ヨルの意外な能力のおかげで家族がかけることがなくてすんだのだ。グレイにとっては結果よりもこれほど嬉しいことはなかった。

 「本当にヨルには感謝の言葉がないわ。ありがとう」

 「いえ、感謝されるほどのことはしておりません。一党として当然の行いを行ったまでです」

 シィタはヨルに寄り添い額を彼女の額に寄せる。

 「そんなことないわ・・ 本当に私からも心からお礼いたします」

 命を繋げられた二人のグレイの子供たちは元気になかよく食事をたべている。グレイもそれを見てうれしくてしかたがない。

 そして、その姿をヨルもその子らを見て笑みらしき表情を浮かべているように思えた。救えたことになにかしらの喜びを得ているのだ。

 そんな中、研究熱心の塊でもあるシィタが思い起こしたように声を上げる。

 「ヨルの無尽蔵の力なら蘇生できる遺体の期限限度ってどのくらいなのかしら・・?」

 ふと・・フォークを置いておもむろに考え出すグレイ。

 「シィタ・・たしかにあなたが研究熱心なのはわかるけどそれの調査はかなりいけないことなのでは・・?」

 「・・どうして?ねぇさま」

 「たしかに他殺された命だけというしばりがあるけど、ヨルの力なら何人でも無制限に蘇生できる。ということは死亡した戦士や過去の力えた英雄も生き返らせられるということになるわ」

 「・・そう・・ですね・・」

 「とすると国の力が無制限になってしまう。ヨルの存在が世界の均衡を狂わせかねないかもしれない・・」

 「・・」

 さすがに力の大きさを説明させられると興味よりも不安が強くなってしまうシィタ。口を止めてしまった。

 「私は命を救えるのでしたらいくらでも力を行使したいです。いままでたくさん殺してきたのですから」

 「ヨル。とはいってもその力は神の世界に片足を突っ込んでいるようなものなのよ。公にするものではないと思う」

 ──「でも一度ぐらいはためしてみたほうがいいんじゃないかしら・・」

 後ろから急に声がしグレイらは後ろを振り向く。そこにいるのは最近居候を始めた狩人と戦士だった。

 「こんちー♪」

 「あ・・しばらく顔をおみせしなかったからどこかにでかけていらっしゃたのかと」

 「相変わらずよ・・。 少し立ち聞きさせてもらったわ・・もうしわけないけど」

 すると、狩人は手に持ってたものをテーブルに投げた。

 グレイがその物を手にとり光にかざす。

 「・・これは・・」

 一緒にまじまじとその物を見上げるアクア。

 「人骨・・っすね・・」

 狩人が出したのは誰のものかも分からない骨の破片。頭蓋骨の一部なのはわかるので人型のなにかなのはわかった。

 「・・これから蘇生は可能なのかしら・・まぁ・・わたしの興味なんだけど・・」

 狩人はなにやらそわそわしている。ヨルの力に興味をもち確認したいかの様子。

 「・・えぇ・・ まぁ・・・ 一回ぐらいは・・ 試しても・・いいわよね。ねぇさま・・ヨル・・」

 「うーん・・」

 「嫌ならいいわ・・わたしも興味があっただけだから・・」

 手を組んで考え込むグレイ。それをファミリーみんなが注目する。

 顔をあげてみんなを見渡すとグレイはため息をつく。

 「ハァ・・ そうね。この遺骨が、自然死か、他殺体かわからないから結果はわからないけど一回だけ蘇生術の限界をためしてもいいかもね」

 シィタの顔がぱっと晴れる。

 「ありがとう。ねぇさま!」

 すると、アクアが手を上げて挙手する。

 「はいはーい!」

 「なに?アクア」

 「蘇生するのはいいんっすが、それが極悪人やらモンスターだったらどうするんっすか?」

 「!?」

 一度みんながざわつく。

 「・・そうね・・ その時はそれなりの対処ををね・・」

 「いいわよね・・ヨル・・ 場合によってはすぐに殺さなければならない場合があるけど・・」

 「かまいません。私が蘇らせた命は私が適正に判断し、適正に処理します」

 「はぁ・・その肝のすわったかんじ・・さすがヨルらしいわね・・」

 ・・という流れとなり、蘇生術の限度をしるための実験・・みたいのを行うことになる。


 ***

 

 ラウンジはかたづけられ、骨片を囲むように家族があつまる。生唾を飲みながら見つめるセタとナナシー。やらなければよかったかなとおもうグレイではあったが、やるといったからには後から中止はできない。

 「アクア、万が一があるから・・よろしくね・・」

 「うっす、チビたちはしっかり護るっす」

 「ヨルもごめんなさい。酷な結果になるかもしれないけど」

 「かまいません」

 狩人と戦士も興味津々で階段の上から眺めている。

 シィタは興味で目を光らせて見ている。グレイはそれを見て興味の塊である妹に少し残念な気持ちになってはしまったが・・。

 「では処理をはじめます」

 ヨルが詠唱を始める。

 「レストレーション!!」

 骨片が眩い光を放ち、骨片から失われていた骨が広がり、そして血、内臓がつき・・筋肉がまとわりついて人体を形成していく。

 「すごい・・成功した・・」

 眩い光が消えると、そこに生成された体があった。黒髪・・肌は褐色・・髪は長く・・美しい顔立ち・・。

 「お・・女の子?」

 「・・ちがうっす、下半身をみるっす・・」

 「お・・おちんちん・・」

 体は美少女みたいな容姿ではあったが、りっぱな男の子。初めて見る男性器に顔を赤くするセタとナナシー。シィタはきょとんとして見ている。アクアはなれている様子?そして階段の上で一人興奮する戦士・・だったがすぐに狩人にどつかれる。

 ヨルは冷静に形成された人体を見下ろし、術を続ける。

 「・・問題は次です・・ちゃんと魂がおりてくるかどうかです」

 ようは、自然死か他殺か、そして古い魂はおりてくるかどうかである。

 「では」

 「リザレクション!!」

 勢いよく光の柱が立つ・・そして・・体をビクンとさせ・・その体はゆっくりと目をあけた。

 「うそ!成功?」

 「いやこれからです。すぐとめなければならない命かもしれません」

 「そうね・・」

 「・・ぼうや・・おはよう・・。あなたは・・?」

 男の子は横になって咳き込み息を整えると回りを見渡す。

 「・・ここは・・」

 そして自分の手を見つめる。

 「わたしは・・」

 「・・ あれ・・ なんだろ・・ なにも思い出せない・・」

 男の子は頭をかかえている。

 「・・あまり古いと命をとりもどせてもそれまでの記憶が消失するのかもしれません・・」

 シィタとヨルは頭をなやませる。

 ──の瞬間・・・。

 「かわいいいいい!!!」

 男の子に飛びかかるセタとナナシー。

 「わわ・・・ なんですか・・ 誰ですかぁ・・」

 「ねぇ!ねぇ!ママ!!私たちの弟でいいかなぁ!!」

 あっけにとられるグレイだたったが・・。

 「そ、そうねぇ・・記憶もないようですし‥敵意も・・ね・・」

 「そうですね、敵意は感じられません。とにかく成功は確認できました。これは成果ではないのでしょうか」

 ヨルにシィタがとびよってくる。

 「大成功よ。ヨル!! やっぱあなたはすごいわ!!」

 でもグレイはすこし浮かない顔だった。

 「そうね・・でも、シィタ・・そしてみんな、この行為は今回で終わり・・他言無用・・絶対にいってはだめ・・いいわわね。みんな」

 シィタ、ヨルはうなずく。アクアもとりあえずうなずくが・・。

 ──アクアは狩人にそっと近づき小言で話をする。

 (あの子・・ってか小人族っすよね・・)

 (・・そうね・・)

 (・・あのおちんちんはどうみても大人・・)

 (・・まぁ・・面倒なことにならにといいわね‥あの子にとっては完全なハーレムだし・・)

 セタとナナシーに抱き着かれている男の子。目のやり場に困っているようだ。


***


 「この服なんか似合うんじゃないかな!」

 「いや、こっちのほうがいいよ」

 二人の女の子が小さな男の子(?)を取り囲んで和やかに騒いでいる。

 先日の古い遺骨から蘇生が出来るかの実験で蘇生された彼。完全にセタとナナシーの着せ替え人形である。

 「わ・・わたし・・ こんなのきれません~」

 「いや、ぜんぜんあっているよー」

 結局着せられたのは男の子なのになんとメイド服。しかし彼は小柄な体、顔立ちや髪の長さ、そして変声期をまるで迎えてない女の子っぽい声から女の子と見分けがつかない。

 子供向けメイド服が完璧ににあっているのだ。

 「ふふ・・ 本当に女の子みたいね」

 「まじっすよ・・ほんと!」

 その様子をリビングから眺めていたグレイとアクアは苦笑いなのかほほえましいのかなんともいえない笑みをうかべるしかなかった。

 そういえば彼には名前がなかった。蘇生したときに生前の記憶がないためだ。

 メイド服を着せられてぐったりしている彼にグレイは話かける。

 「ところで、あなたの名前、思い出せたかしら・・」

 「わたしの・・名前・・ えー・・っと・・」

 の、瞬間また頭を抱えだし苦しみだす。

 「な・・名前・・ 名前・・ わたしの・・」

 「ちょ?! 無理に思い出さなくていいよ・・ ね!?」

 「はぁ・・ はぁ・・ はい・・」

 グレイはソファから立ち上がって手を叩き、みなに合図をした。

 「彼に名前をつけてあげましょう?なにかいい名前ないかしら」

 グレイの回りに集まり出すファミリー達、それを呆然とみつめる男の子。

 あれやこれやとみんなで名前を挙げわいわいと盛り上がっている。

 「・・はぁ・・ わたしの名前なんてどうでもいいのに・・」


 ***


 数日後、彼はシィタと一緒に台所に立っていた。色々と記憶の障害で苦労してはいたが、少しずつ彼の個性がわかってきたのだ。

 シィタといっしょにじゃがいもを剥いている。丁寧な手さばきと速さ。相当ナイフの使い方うまいように思われた。もしかすると生前料理人かなにかをやっていたのかもしれない。

 そしてなぜかシィタにとてもなついた。それをみて遊び相手がいなくなり指をくわえて眺める子供たちではあったが・・それはそれで。

 彼は本当にシィタにぴったり張り付き男の子なのにメイド服をひらつかせて料理だけでなく家事や家の掃除、洗濯・・ベッドメイクなど・・なんでもこなした。

 いまやシィタの家事の半分を任せてもいいかもしれないほどだ。

 そして彼はとても勉強をした。シィタは国立図書館からあらゆる書籍を借り仕事の合間を見て勉強してる。彼もそれにひかれ夜な夜な一緒に色々と学んでいるのだ。

 「ほんとに勉強熱心ね・・・『デュナメス』・・・」

 「いや・・ それほどでも・・ ねぇさんが・・丁寧に教えてくれるし・・ それになんか・・ 古代学に興味があるみたいんだんですよ」

 「へぇ・・ そうねぇ・・ もしかしてあなたが生まれた時代の事が書いてあるのかもしれないわね・・」

 「そうかもです・・」

 ・・そして彼は、家事手伝いだけでなく、シィタから精霊術を学び、術士としても力を伸ばすようになる。

 「へぇ・・ 以外に、素質あるじゃないデュナメス」

 「そうですねねぇさま。治癒の術は覚えましたし今後わたし達といっしょに活躍できるかもしれませんね」

 「そうね。ただ・・戸籍がないから、冒険者登録がちょっと面倒だけど・・んー、まぁ、前みたいにすればなんとかなるかな・・」

 グレイも一目置く精霊術になるのも近いように思われる。アクアとも模擬ナイフで模擬戦をおこなったが、なんとナイフ裁きはじゃがいもだけのものではなく戦闘にもセンスを光らせていた。

 「いや!ナイフ裁きもすばらしいっすねー、あたしーまけちゃうかもっす!」

 「いえ・・ アクアねぇさんの教え方がうまいからですよ・・」

 グレイも彼の成長にご満悦でにやにやしている。

 (そうね、今度の冒険に参加してもらおうかな・・。)

 アクアとの模擬戦は日沈むまで続いた。


 ***


 深夜、今日もシィタと一緒に古書をよんで勉強をしている。

 「ほんと、古代学は興味ぶかいですね・・ねぇさん」

 「でしょ?わたしの知らない過去がいっぱい書いてあるし、よく解析してみると新しい精霊術の術式もたまにまぎれこんでいるのよ? わたしはまだやらないといけないことがたくさんあるし解決するにも過去の知恵が必用・・ 新しい事を生み出すにも応用するために古書が重要なのよ」

 「へぇ・・ ねぇさんは本当に勉強熱心ですねぇ。わたしも見習わないと・・」

 無造作に縦済みにされている本を手に取ろうとするデュナメス。うっかり他の本の山に触れ崩してしまう・・。

 「あ・・ ごめんなさい・・ えっと・・これは・・」

 落ちた本を手に取り、本を開く。

 「あれ・・ この・・ 文字・・」

 「・・」

 急に静かになったデュナメスに気づき読んでいた本を置いて、様子を眺めるシィタ。

 「ん?デュナメス・・?どうしたのかしら・・?」

 「なにか面白いことでも・・」


 ── トス・・・


 「・・え・・? あ・・」

 腹部に異常な違和感を覚えシィタ。自分のお腹を震えながら見る。

 深々と突き刺さるナイフ、ポタポタと血が流れている。

 「は・・ あ・・ デュナメス・・?」

 長い髪が目に被さり表情が見えない・・ ただ、苦虫をかみつぶすかのような唇をしている。


 ──ズヒュ!!


 「な・・んで・・ かは!」

 デュラメスは全体重を掛けるようにさらにシィタの腹部にナイフを押し込む。その行動には殺意しか感じられなかった。


***


 深夜に聞こえるのは呼吸を荒げる乙女の声。そしてパタタとしたたる血の音が響く。

 「・・デュナメス・・ な・・んで・・」

 デュナメスはそのままナイフを深くまで突き刺したままシィタを押し倒す。

 ばたばと本が崩れ散乱する。その上にシィタは倒れこんだ。

 (顔が見えない・・)

 「・・ディナメス・・」

 何かの念にとりたれたかのような表情を口元から伺わせられる。激痛に見舞われても急に豹変したデュナメスが心配でならないのだ。シィタは涙を流す。けっして痛い為ではない。デュナメスの心の苦悩を直感的に読み取りかわいそうに思ったからだ。

 「・・死ね・・」

 デュナメスはナイフをシィタの脇腹から引き抜く。深くまでつけられた傷口からは血が溢れ出す。

 「・・く・・ぅ・・」

 デュナメスは血まみれのナイフをシィタへ・・心臓めがけて力いっぱい振り下ろす。

 

──キィン!!!


 デュナメスのナイフが手からはじかれ、飛ばされたナイフは床に刺さる。

 「!」

 デュナメスはとっさに間合いを取る。床にささったナイフと引き抜くと構えナイフをはじいた相手に睨みかける。

 「デュナメス・・なにをしているの?」

 短剣をデュナメスに投げたのはグレイだった。二階の争う物音に気づきシィタの部屋にかけつけたのだ。グレイに続き、アクアとヨルも駆けつける。

 「デュナメス・・ なに・・やっているんすか・・ シィタ姉に・・ 手を・・?」

 「・・やはり止めなければならない命でしたか・・」

 無言のにらみ合いが続く。先に口を切ったのはデュナメスだった。

 「・・まさか、有翼人がいるとはね」

 苦虫を噛むかのような表情を見せる彼にグレイは問いただす。

 「・・なぜわかったの。デュナメス」

 「わかるさ、その髪と瞳の色・・ そして彼女の纏う力・・ こいつらは生きていてはいけない。すぐに殺さないと・・」

 髪の隙間から見える瞳・・それは憎悪に満ちていた。

 「それより、なんで急に・・」

 「レガシーコードですね」

 「え?」

 ヨルが急につぶやく。

 「シィタは古代の文献を学習していました。その中には古代の術式もあります」

 「私の作られた時代では文字に記録を書き込む技術がありました。たぶんそのコードが記載された本が混じっていたのでしょう。整合性があったデュナメスの記録を書き換え、過去の記録を思い出させたのかと思います」

 「そんなものが・・」

 ヨルの言葉を聞いたデュナメスはクスクスと笑い出す。そして俯き再び顔を上げると表情は完全に殺意に満ちていた。

 「こいつの種族はわたし達の種族だでなくおまえら人間も滅ぼしかけたのをわすれたのか?精霊術を大量に使用し龍脈を荒し、すべての命を脅かした!」

 「それは大昔の話ですよ。デュナメス。いまや絶滅し今や生き残りは彼女だけかと思われます。彼女はあなたの思っているような人ではありません。とてもやさしく、あなたを家族として迎えたのですよ?」

 「・・そんなのは関係ない。ただわたしの目的はこの種を根絶やしにすることだ。どんなやつだろうが有翼人なら確実に殺す。それだけだ・・」

 「・・そうですか・・ではデュナメス・・あなたは排除対象です」

 「その文様・・かの国の人形兵器か・・ そんな物も現存しているとはな・・」

 ヨルとデュナメスのにらみ合いにグレイが割って入る。

 「ヨル・・!」

 「グレイ・・ 私が処理します。手出ししないでください」

 「・・でも・・」

 ヨルは前に出ると戦輪を具現化させる。そして体の上に構えた。

 「やる気か・・人形・・ わたしもそう簡単にやられないよ!」 

 そういうやいなや、デュナメスがナイフでヨルに飛びかかろうとした。

 「やめて!!!」

 倒れていたシィタがデュナメスを抱きかかえる。

 「くそ! はなせ!! こいつ!!!」

 その行動に驚くグレイ。

 「シィタ!!」

 デュナメスがシィタにナイフを振り下ろす。

 ・・その瞬間・・シィタなにかの精霊術を詠唱した。

 デュナメスの体に電撃が抜ける。・・そして気を失いデュナメスは倒れた。

 息を切らしながらシィタはデュナメスを抱き上げると涙をながしながら髪の毛を優しくなでる。

 グレイはそっと寄り添いシィタに手をかける。

 「・・あなたが・・殺したの・・?」

 シィタは首を横に振った。

 「殺していません・・・」

 「え?」

 「記録を操作する精霊術です・・う・・上書きされた記録を消しました・・ 後、心に曇りが感じられたので・・それも浄化・・しました・・その・・曇りが・・コードなのかと思います・・」

 「・・じゃあ・・ 彼は・・」

 「ふふ・・ いつもどおりの優しい男の子ですよ・・・」

 シィタはにっこりほほえむ。

 ヨルは戦輪を消し去り戦闘戦闘体形を解いた。

 「記録操作の精霊術も使えるとは・・本当にすごいですね。シィタ・・」

 「・・いまさっき覚えたところだけど・・ね・・」

 「・・と・・とりあえず一件落着っすか?」

 アクアは安堵し近くによって一緒にデュナメスを撫でる。

 「ところで!シィタ・・傷は・・?」

 グレイはシィタを横にさせ傷を確認する。

 「痛・・・!」

 「傷は深いけど出血は少ない・・って・・これって・・」

 「鱗っすよね・・ 龍の・・」

 ヨルが触れて確認する。

 「体内に鱗が数枚確認できます。武器が体内に侵入した経路に沿って鱗があります。それにより破壊により生命を脅かす臓器をそれている模様です」

 グレイはそっとシィタの傷に触れる。

 「・・黒龍の加護・・」

 ようは、シィタにかけられた黒龍の加護がはたらき、致命傷にはならなかった。

 「死んでなお守ってくれるなんて・・感謝するわ・・」

 グレイは改めてデュナメスの表情を眺める。何もしらない無垢のような表情で眠っている。

 「・・黒龍は2つの命を守ったね・・」


 ***


 「今日の料理はとれたてポテトピザですよー」

 「わーい♪」

 子供たちが大はしゃぎでテーブルを囲む。

 そのばにメイド服をなびかせて笑顔で料理を持ってくるデュナメス。

 今の彼の表情に憎悪はまったく感じられない。

 満面の笑顔で食事を作るデュナメスを見て胸をなでおろすグレイとシィタ。

 「うーん、大事にいたらなくてよかった。家族を守るのが私たちの役目だものね」

 「そうですね。ねぇさま・・・」

 グレイとシィタは寄り添いながら安堵の表情を浮かべた。

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