処刑騎士ミゲル

─── 俺の任務は・・・


 処刑騎士 ミゲル。

 彼は毎日憂鬱だった。

 最溢れる剣術・体術の技能を国の為に生かせるかと思いきや、罪人の処刑の為に使われるのだ。

 ここ王国では、国が認めた大罪人でも、死刑を免れる制度がる。

隣国との圧力、魔物の脅威からすこしでもより強い兵士を集める為の一環として国で上位の力のある戦士と刑場と呼ばれる四方石で囲まれ閉鎖された格闘技場で勝利し、王への誠意書を血判で書けば一度だけ死刑を免除される。

 しかしそれは罪人にとって並大抵なことではない。

 王国屈指の戦士を相手に勝たねばならないのだ。

 しかもそれは引き分けはなく、どちらかが完全に絶命するまで闘わなくてはならない。

 それだけではない。相手は王国最強の男だからだ。 

 現状勝利した罪人はいない。皆、彼に敗北し、殺され・・処刑されているのだ。


***


 ・・また、血なま臭い仕事が始まる・・・


 返り血で腐食した甲冑を身に装備しながら彼はため息をついた。

 国の治安もみまぐるしくよくなり、多くの強者は魔物狩りや探索に明け暮れる世の中になった。

 彼の仕事も減り、唯一の肉親である8歳なる娘と家族仲良く暮らしていた。

 処刑人という、非人道的な仕事を忘れ穏やかに暮らしてたのだが・・。

 久々の国からの呼び出し、まさかとは思ったがそののまさか、罪人の処刑任務。

 建前とはいえ、ソルトに意地をはったが権力差にはかなわない。あげくに相手は子供二人ときた。

 「糞!子供を殺さないといけないとか・・ どうかしている!」

 王に陳状しようと思ったが、ソルトからの妖しい脅迫がある。彼の配下にもアサシン部隊がいるため単なる脅しではないだろう・・本気だ。

 逆らったら、家族を奪われる・・これは間違いないだろう・・。しかし、彼のこれから行う「罪人じゃない子供をただ無残に殺害する仕事」に心が叩きのめされる。

 「あぁ!!糞!!」

 激しく、壁を殴りつけるが、やり場のない気持ちはおさまらない。

 「・・やるしか ないのか・・」

 「・・ユキ・・ すまない ・・父さんは・・ 人殺しだ・・・」

 うなだれながらも持ちなれた愛用の大剣を手に取り、刑場への階段を上がった。


***


 刑場は昔と変わらず相変わらずだ。薄暗く石壁に囲まれた閉鎖された空間。湿ったかび臭い匂い・・それだけではない、血と肉の腐った腐臭とも思わせるなんともいえない匂いが漂っている。

 石床は今までの処刑で死んでいった人間の血で至るところが黒く汚れている。この血の跡はいくら掃除しても消えない。殺されて言った者の「念」そのものだ。

 暗闇に目が慣れ、刑場が見渡せるようになってくると、部屋の奥に二人のいる気配がする。

 彼らがソルトにいわれた処刑対象なのだろう。

 二人も自分の存在に気づき、笑顔で歩み寄ってくる。これから俺に殺されるとも知らずに。

 「あ!人がいたー」

 「あの・・すみません・・ここに母さんがいると、城の人にきいてやってきたんですけど・・なんか急に閉じ込められて・・」

 「出口はそちらのほうですか?」

 あぁ・・ なんていうことだ。自分の娘と同じ年と思わせる幼い娘二人じゃないか。この子らを殺せというのか・・。

 たしかに、ソルトの言うとおり腕は立つのかもしれない。装備からして冒険者をやっているのかと思われる。

 黒髪の子は軽い軽装に背丈ほどの剣を身につけ、もう一人の銀髪の子は装備らしきものは身に付けてないがロッドをもっている。多分魔道師か精霊術士なのだろう。

 ・・今まで魔道師と闘った事がない、やっかいかもしれない。

 ・・ふと、戦術のことを頭によぎらせてしまった。

 (く・・こんな状況でこんな考えをおこしちまうとは・・俺も焼きをまわったもんだ・・)

 一息、大きくため息をつくと剣を構え、近づいてきた子供の一人に無言で一太刀を入れた。

 キィ───ン!! っと 大きな金属音が刑場に鳴り響く。

 黒髪の娘がとっさに俺の剣を剃らすように跳ね返したのだ。

 突然の攻撃に子供らに動揺が見られる。今まで『人』に殺意を向けられたことがないのだろう。

 「え、 なんで・・ 剣を振るうの・・?」

 「さがって、ナナシー・・ 誰だか知らないけど、私達を狙ってる・・」

 「うそ、あたし、人と闘ったことない・・」

 「その自体も想定して母さんと勉強したでしょ・・たぶん・・この人は私達を殺す気よ」

 「嘘・・そんな・・やだ・・」

 「とにかく下がって!後ろから援護を・・」

 「う・・うん・・わ・・わかった・・」

 ぱたぱたと銀髪の娘が後方へ走って行く、魔道師が後衛に回られると多分厄介だ。

 ・・っと、思っているすきに剣士の娘が潜り込み、一撃を決めてくる。

 ──キィンっと金属音が響き甲冑に当たり跳ね返った。

 剣が通らない知った娘はとっさに間合いをあけこちらを睨んでいる。

 「やっぱり固い・・」

 油断した。

 以外にこの子はやるほうだ。誰に鍛えられたのだろう。

 幸いこの甲冑はそう簡単に剣は通らない。

 かといって好してはいられない。殺さなければ殺される。刑場とはそうゆう場だ。我が娘との幸せのために心を鬼にしてこの子らを殺さなければならない。

 意を決め、剣を構え黒髪の娘にしかける。

 「ッ・・・・なに・・!?」

 足が動かない。

 異様な状況に足下を見ると自分周辺が凍り付き甲冑も足下が凍りつていた。鎧で冷気が遮られていたためすぐに把握できなかったのだ。

 (魔道師の娘か・・)

 後方にいる銀髪の娘がロッドを構え詠唱をしていた。

 「セタぁ──!今よ──!」

 後方に目をやっている隙に再び黒髪の娘がしかけてきた。今度は突きの構え、甲冑の隙間を狙っている。

 とっさに凍結した甲冑を強引に引きはがし回避。

 そのまま叩きおろしの斬撃をするが娘は素早くかわし、後ろに回り込まれた。

 (速い・・)

 いつのまにか罪の意識は消え、久しぶりの好敵手に胸が躍っていた。

 (この娘たち・・なかなかやるな・・が・・その、細い剣では俺の大剣は防げない)

 「足止めが・・ じゃあこれで・・!」

 再び後衛にいた銀髪の娘が詠唱を始めていた。黒髪の娘は俺の背後、魔道師を止めるには絶好の機会である。

 すかさず銀髪の娘に間合いを詰め斬撃をくわえる。

 「ナナシィ!!よけて!!」

 「え?」

 黒髪の娘がとっさに滑り込み、もう一人を守るために、防御に剣を構えた。

 しかし自分の大剣による斬撃はその細い剣では防げない。

 ──パキィン!!!っと金属が破断する音とともに、剣が砕け黒髪の娘の肩から腹部までを一気に斬り裂いた。

 「かはっ!!あ・・」

 大量の返り血が自分の甲冑を染める。

 (・・・)

 口から血の泡を吹き出し、黒髪の娘は膝をつくとそのままパシャっと血の海に倒れた。

 「いやぁああああああああああああああああああ!!」

 同じく黒髪の娘に守られ近くにいた銀髪の娘が大量の血を浴び悲鳴を上げた。

 そのまま俺が視界に入ってないかのように素通りし、黒髪の娘の遺体に駆け寄り体を揺さぶっている。

 「やだやだやだ!セタぁ!死んじゃやだぁ!!」

 銀髪の娘は無我夢中で黒髪の娘の遺体を揺さぶっている。

 俺は背後に立つと、そのまま銀髪の娘の背中に剣を突き立てた。剣の重さもあい重なりあっさりと娘の体をザクリと貫通する。

 背中からくる激痛に体を痙攣させる銀髪の娘。急所を貫通させた為、ボタボタをさらに血の海を広げる。

 「あ・・ あ・・ かは・・ あぁ・・ マ・・マ・・」

 そのまま剣を引き抜くと銀髪の娘は黒髪の娘を覆い隠すように倒れ込み、二人は命を落とした。

───(糞!!!)

 娘を人質にとられたとはいえ罪もない子供を二人殺めてしまったミゲル。

 どうしようもない罪悪感に頭をを抱える。

 ふと手を見ると手が真っ赤に染まっている。

 その手を握りしめると変な笑いがこみ上げてくる。

 「王よ!! 我!騎士ミゲル!! 命をもって 剣を試しましたぁ!! 王都に貢献する資格なし!! 両名を死罪とする!!」


***


 「うそ・・・ なんで・・・?」

 愛する娘らの遺体の前に膝をおとし、ガクガクと震えるグレイがそこにいた。

 「なんで刑場にいたのですか!!! これを指示したのは誰?!!!」

 「いや・・! 私にはわかりかねません・・ただ、急に刑場が開かれると聞いたので・・くわしくは・・」

 「く・・ なんでよ・・ なんで・・」

 グレイは涙し、床を殴る。

 「お気持ちはお察しします・・多分なにかの手違いかと・・」

 「手違いのわけないじゃない!!!」

 グレイは怒りながら番兵に掴みかかる。

 「お、お気をたしかに・・お子様は国で丁重に葬らさせて頂きますので・・」

 グレイは兵士の襟を話すと、ふらふらとうなだれる。

 「・・える・・」

 「は?」

 「二人を連れて帰るから馬車を用意しなさい!!」

 「!!ッ! は! 了解しました!」

 番兵は焦りながら刑場を出てった。

 グレイは血が滲む勢いで壁を殴りつける。

 「・・だれだか知らないけど・・覚えてなさい・・」

 グレイは二人の遺体に寄り添い髪をなでながら深いため息をついた。

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