恨みの矛先

 ──これはファミリーを脅かす騒動の前触れの話・・── 


 「その件については同意しかねます!」

 「き、貴様!!まだそのようなことを!!」

 議場は相変わらず荒立てている。

 事の発端は、首都防衛の分割案であるが、グレイが率いる魔道中隊は属性攻撃を得意とするため、国周辺の魔物討伐に特化されている。

 しかし、隣国の雲行きが妖しいため、ソルト率いる進軍部隊に魔道中隊の半数を進軍の為に当てろと当人が申し出たのだ。

 しかし近年も魔物も凶暴化しており、治安維持の為に、魔道中隊を裂くわけにもいかず、それにグレイが反発しているのだった。

 ソルトとは、王国進軍部隊・軍師であり、全軍の内では長い任についている高齢の軍師。

 若年・かつ女性で中隊長を務めるグレイに意見されるのには納得いかないのであった。

 「今兵を進め、隣国を威嚇しなければいつするのだ!?魔物狩りなど傭兵や冒険者に任せればよかろう!なぜ力をかさない!」

 「いえ、一般人に国の治安を任せきりなのは問題かと。それと先月発生した南方の大型魔物は魔道中隊で処理するのが最適、かつ優先するべきことなのです。なので私の隊の兵を進軍に回すわけにはいきません」

 「この、小娘がぁ!!」

 ソルトはペンを机に叩き付ける。

 「ソルト殿落ち着きたまえ。たしかに隣国は妖しい動きを見せているが連合国との連携で圧力はけている。今ことを荒立てることもなかろう」

 と、統括騎士団長が意見する。

 「しかし・・・」

 「グレイ殿の言うとおり南方の魔物鎮圧の方が優先事項かと思われる。たしかに大型魔物のほうが国民保護の為優先すべき問題だかつ夜の魔獣も夜間に暗躍している。こちらの討伐もわが軍と冒険者ギルドで協議していかなければならない」

 「く・・・」

 「グレイ殿、魔物討伐は全軍で当たってくれ」

 「は、了解しました」

 「統括のおっしゃるとおり、魔物討伐のほうが優先ときまりした。・・よろしいですね。ソルト殿」

 「・・あぁ・・」

 グレイは軽く会釈すると、そのまま他の談義に参加する。

 しかし、軍師かつ目上の立場にある自分に意見し議場で恥をかかされたソルトは怒り心頭であった。

 「・・では、本日の義はこれで以上とする。 解散! みな、準備をすすめてくれ!」

 『は!!!』

 統括騎士団長の一声により解散となる。

 書類をまとめて、机を立つグレイ・・ それを机にペンを突き立てながらにらみつけるソルトの姿があった。


 ***


 (あの、小娘・・どうしてくれよう・・・)

 会議の後、外壁通路をづかづかと歩きながら煮え切らない思いをたぎらせていた。

 (儂より、後に軍に上がってきたくせに楯突きおって。中隊を預けられてからはますます言うことを聞かずだ!)

 ソルトは怒りのやり場に収まらない状況であった。

 ・・と、ふと、外壁の外から子供らの騒ぐ声がする。

 下を見ると、子供が二人楽しげに走り回っていた。

 「・・・・・」

 「おい」

 「は!」

 ソルトが番兵に声をかける。そして、子供らを不快そうにアゴでさす。

 「いつから、我が城は『託児所』になったのだ?」

 「は!・・・あの子達はグレイ殿のお子様だそうです」

 「何?グレイの?」

 「は! 先ほどグレイ殿から指示があり、妹らが帰るまで城に娘らを置いておいてほしいとの命がありましたので・・」

 「・・で、あの娘達がグレイの子供だというのか。あの若さで?」

 「は!・・・ 血は繋がってない養子と聞いております!」

 「ふむ・・・」

 グレイの子供と聞いてやんちゃにはしゃぐ子供らに不快感を隠せないソルト。

 (グレイの子供・・)

 グレイに対してのやり場のない憎しみをどこにぶつけようと考えていたソルトだったが、ふと、恐ろしいことを思いつく。

 (くく・・ そうだな・・)

 「おい!番兵!」

 「は!」

 「リゲルを私室に呼べ!」

 「は!了解いたしました」

 (・・ そうだ・・ 少し身勝手なグレイには頭を冷やしてもらわないとな・・)

 にたにたと妖しい笑みを浮かべながらソルトはその場を後にした。

 

***


 ─── ソルト 私室


 日は傾き始め、部屋を赤く染め始めてきた。

 ソルトは、葉巻を吸いながら、書類を整理していた。先ほどまでの苦虫を潰したかのような顔は消え、にやにやと笑みを浮かべながら作業をしている。

 ───トントン

 と、扉を叩く音がする。

 「だれかね」

 「失礼を、ミゲルです」

 「おぉ、入りたまえ」

 扉を開けて入ってきたのは、無精ヒゲに、少し草臥れた軍装をした男であった。

 「久しいなミゲル」

 「はいお久しぶりです。ここしばらく治安もよく仕事はないものと安堵しておりましたが・・まさか・・」

 「その、まさかだ。」

 「・・え・・?まさか死罪人がでたのですか?なにも王都で重大犯罪の話しは聞いてないのですが・・」

 「・・いや、重大犯罪だよ・・ 国で名ある者に恥辱を与えたのだからね・・ 極刑ものだ・・!」

 「・・! ・・そうですか・・ しかし、国王の指示なしでは刑場はあけられ・・」

 「いや!許可はでているよ」

 「本当ですか・・ では・・自分は刑場にはどのような死罪人が・・ さぞ腕の立つやつなのでしょうね・・」

 「んー・・・ 二人だ」

 「二人! 一度に二人を相手に刑を執行出来るとは・・久しいです。腕が鳴ります」

 「なかなか、苦戦させてもらえるとおもうよ!存分に剣技を振るうがいいだろう・・」

 「で、死罪人の容姿は・・」

 「んー」

 ソルトはにやにやと笑みを浮かべながら、葉巻を灰皿で火をもみ消す。

 「・・子供を二人、 処刑してもらう・・」

 ヒゲを撫でながら聞いていたリゲルは、ぴたりと動きを止めた。

 「こ、子供・・? 子供は死罪人にはならないはず・・ そんな・・ 国王が許すわけが・・」

 「・・お前にも子供がおったよな・・」

 「そ、それとこれとどんな関係が・・・」

 「子供は大切におもわんのか?もしかしたらもう会えなくなるかもしれんぞ?」

 「ソ、ソルト殿・・脅しているつも・・」

 「・・の!つもりだ!」

 ソルトは、リゲルをにらみつける。

 「とにかく、その子供二人は死罪人だ。子供とはいえ容赦はするなよ!それなりに腕の立つ罪人だからな!」

 「そ、ソルト殿・・」

 「以上だ! 刑場を開けるのは1時間後・・ 装備をしっかりと調えておくように・・」

 「自分の子供より、見ず知らずの罪人の子供の方が大事なのかな?」

 「・・わかりました・・ 王命により、刑を・・執行します」

 「よろしい。くれぐれも、逆に首を駆られぬようにな・・」

 「・・は・・」

 予想だにしない刑、かつ自分の家族にも手がかかる・・気が動転したのか、ミゲルはふらふらとしながら部屋から去って行った。

 「クク・・・」

 (グレイ・・ 変わり果てた我が子を見て自分の愚かさを知るがいい・・)


 日はさらに沈み、影を伸ばしていく。

 外では、はしゃく子供らの声が響いていた。


 




 




 

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