母親

 遠方の国から国賓が来るということで、街は賑わってる。国の皆で歓迎すると国からのお達しがあったからだ。

 その中をセタとグレイが人の波を縫いながら歩いていた。こんなに街が賑わうのは珍しいことなのだ。少なくとも、セタがこの国にきてからはなかったことだ。

 「・・すみません母さん。こんな日に買い物付き合ってもらっちゃって」

 「いや、いいのよ。たまには二人で水入らずで街に買い物ってのもいいじゃない?たまには・・いや・・二人で出かけるのは初めてよね」

 「・・うーん・・そうだね」

 あまりにも人が多くなかなか前に進めない二人。人混みを分けながら進む。

 「迷子にならないようにね!」

 「・・母さん・・子供扱いしないでよ・・」

 「ふふ!ごめん。もうお年頃だものね」

 一番人盛りが賑わっている所がある。大通りの方だ。歓声が聞こえる。人の隙間・・上のほうから馬車の天井が見える。どうやら国賓が大通りを通っているみたいだ。

 「あの方が来賓ね。しばらくこの国に来賓なんてなかったから・・」

 「そうですね。母さんもわからないことがあるんですね」 

 「せっかくだからお顔みておきましょうか」

 「・・やめましょう?私人込み苦手だし・・」

 「大丈夫よ!少しは街になれなさい?」

 「・・うん・・」

 一番賑わっている大通り道沿いの人混みを分け、通りに面した所に顔出す。街の者は皆歓声をさらに大きく上げている。馬車が近づいてきたらだ。

 「結構若い方ね・・30代って・・所かしら」

 「んー、人混みが・・て・・・見えるかな・・」

 「あ・・・・」

 笑顔で手を振っている国賓の男性。他国の王族の者だ。

 ・・笑顔でグレイについていったセタは彼を見るなり笑顔が急に真顔になる・・そして、怒りの表情に・・。

 ・・携帯している小型のナイフに手を触れようとしたしたとき、手を遮られる。

 「・・やめなさい・・」

 「!! ・・ 母さん・・」

 「そんな殺気たっては駄目・・。というかここで抜いたらただではすまない・・」

 「・・」

 グレイはセタの手を強引に掴むと、大通りから離れて建物の影に連れ込む。

 「・・落ち着いて・・ あの王族の人と関係があるの?」

 「・・・・。」

 「だまってちゃわからない」

 「・・あれは・・『母様』の・・敵だ・・」

 「敵・・? どうして?他国の王族となにか関係があるの?」

 「母さんには内緒にしておこうと思ったんだけど・・」

 ・・・セタは、グレイに事情を話し出したのであった。


 ***


 私はクシフォスの国に生まれた国の一人の姫だった。剣技を最高の国技とし、主たる国に戦力として出向く小国。そこで私は生まれた。王族だった父様に、流れの剣士であった母様、戦場で傭兵をやっていた母様に父様はあまりにも美しい黒い髪の姿、そして剣裁き、強さに一目惚れし、母様に親族の反対を押し切ってプロポーズ。流れという何所の血かも分からない者を王族に入れられないという反対を押し切って、母様にアプローチし、私にかったら婚約を受け入れるという剣の国らしい条件を母様は提示した。で・・父様は母様に勝負し、そして母様に勝利してプロポーズしたということなのだ。そして晴れてプロポーズを受け入れ、正式に結婚するまでは戦場を一緒にかけまわり、お互いに護り合う国王に慕う従者のという関係をつづけたのだった。


 そして、結婚後、1年後に私を出産し、姫として育てられた。姫といっても姫らしい礼儀作法はなく殆ど剣技の教育・・。 強さ自体が国の方針だからだ。


 ・・まぁ、両親との幸せも私がいい歳になるころには突然と崩壊を迎える。


 クシフォスの国は同盟国に突然裏切られた。理由は国力が上がり始め、自国を脅かす可能性がでてきたからだと聞いている。


 同盟を切られるやいなや、その国は私の国に大量の軍を投入して国を滅ぼしに掛かってきた。


 剣の国とはいえ、圧倒的な大国の力にはかなわない。父様の懸命に立ち向かったが数の暴力には勝てなかった。


 そして父様は血を絶やさせないという判断をする。母様と私を国から逃がしたのだ。私は父様にも一緒に逃げようと提案したが、父様は笑顔で首を振った。母様もないていて、父様に抱きつく。そして父様も母様と私にハグとキスをした。

 父親の最期のお願いだ。生き残ってくれ・・。我が国の剣技を絶やしてはならない。それが最期の父様との約束・・・。


 母親と山を登り、炎で燃える私の暮らした城を見る・・。涙がとまらなかった。そして母様にすがる・・母様も涙で一杯だった。


 ・・そして私と母様は各地を転々とする。母様は傭兵出身だったので他国で仕事をさがすのは容易・・しかしいつも傷をおって帰ってくる母様をみて私は心配でならなかった。

 そして、心に誓う。私も剣技をさらにみがき母様を護ってみせる。そして危ないところにいかなくても大丈夫なようにしてあげると。


 しかし、そんな日々も長くは続かなかった。同盟国が父様の血筋を根絶やしにするために刺客を出していたのだ。たぶんいずれ自分の首を落としに・・復讐にくるだろうと思っていたのだろう。

 私たちが次の国への旅の最中に刺客に襲われた。

 母様はとても強かった。しかし、多人数相手にはさすがには女の身、体力がもたない。雨のように降りかかる斬撃をさばききれるわけではなかった。

 そして、隙をつかれ体を貫かれる。

 おびただしい血で染まる母様を見て私はいてもたってもいられなかった。今度は私が母様をまもると決めていたからだ。

 弱々しい声で私を止める声を無視し、懸命に応戦する。長期戦にだけでも持ち込めば隙をつくれるかもしれないからだ。しかしやはり小さな私の体では守り切るには限界は明確にあった。やはり勝ち目のない戦いだった。

 刺客の一人が瀕死の母様に止めを刺そうと斬りかかる。私はとっさに母様をかばう。刺客の剣が私の背中を切り裂く。

 ・・斬られた・・ ものすごい激痛・・ 剣が肺にまで達したのか、血が喉からわき上がり息ができない。痛い・・ 意識が遠くなる・・ うっすらと見えるのは血と涙でぐしょぐしょになった母様の表情・・。

 ・・・。

 だれか、他の人の声がかすかに聞こえる・・。 加勢・・します・・? 助けて・・ くれるのだろうか・・。

 ・・でも、私は・・もう・・・。

 ──

 私は激痛で意識を取り戻す。うっすらと視界にはいってくるのは灰色の髪の女性・・。どうやら彼女の治療のおかげで私は命を取り留めた。

 彼女は手持ちの薬では背中の傷は完全に治療することはできないという。そう・・私は背後から斬られた。背中が疼く。手で背中をそっとふれると血がにじんでいるのが分かった。

 ・・ それよりも・・ 母様は! その女性に母様も助けてくれたのかと確認した。

・・が、彼女は目をつぶっって、首を振る。

 ・・手を組んで息絶え・・横たわっている母様・・。

 それを見た瞬間私は母様の体にすがり大声で泣いた。泣き続けた。

 女性の方と一緒に母様を埋葬する。遺体を近くの教会までつれていくのにはかなりの距離があるからだ。

 ・・形見は母様のつけていた髪飾りと剣・・髪飾りは父様がプロポーズの時に母様にあげた鳥の羽を形取った銀で出来た髪飾り。

 そして女性は一人になってしまった私に提案する。家族にならないかと。私と母様の目的をつげたら笑顔で賛同してくれた。

 『今、そして・・今後、生きていたらいずれ叶う・・・』

 ***

 「そう・・彼がセタの敵・・」

 「うん・・」

 グレイはセタの頭をぽんぽんと叩く。

 「あなたの目的はそれではないでしょ?」

 「・・え?」

 「お前の両親の剣技をずっとつたえていく・・その覚悟よね・・」

 「あなたの好きになった男性と結婚して家族つくる・・ってこと!自分の子供に剣技をつたえればいいのよ」

 グレイの提案にきょとんとするセタであったが・・ ため息をつくとすぐに笑顔になった。

 「・・ふふ・・ そうだね」

 「道場も作るっていうのなら協力もおしまないわよ?」

 「え?家から出て行っても協力してくれるんですか?」

 「それでお前が救われるのならね」

 「まぁ、貴方の本当のお父さんもお母さんも復讐は望んでいない」

 「それより、前向いて歩いて。余計な寄り道は一切しないこと」

 「・・わかりました・・『母さん』!」

 「やっぱ・・あなたは直でいい子・・」

 セタはグレイに心の内を明かす事で長年かかえていた事にふんぎりがついた。

 自分のやることは復讐ではない、父様と母様の願いを叶えることだと。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る