永久の罪
遙か遙かの昔、人形は歩き続ける。泥で汚れた黒いボロボロのローブをただかぶり、夜の街の人混みの中をゆらゆらと歩く。
とあるきっかけで自我が生まれた人形は、生を目の当たりにして幾多の死を与えた自分を悔いていた。
自分自身が元々組み込まれていたプログラムで人をたくさん殺めてきた・・が、その中新しい生命を目の当たりにし、プログラムにバグが生まれ自我が生成されたのだ。
殺すことの為に生まれてきた自分の存在、そして命生み出せない人形としての存在・・。
・・自分はただ殺すために作られたのか。何も生み出せない自分は存在していいものなのだろうか。思考回路はあれからずっとそのことを無限ループで結果の出ない処理をさせていた。
(わたしは存在してはいけないのではないか・・しかし壊したものをとりもどすこともうみだすこともできない出来損ないの存在・・この体はまた生命をおびやかすかもしれない・・。しかし自分自身を止めるプログラムは組み込まれてない。私を止められない。どうすれば・・どうすれば・・どうすれば・・どうすれば・・どうすれば・・どう・・)
ぶつぶつとしゃべりながら歩いていると、人形を呼び止める声が聞こえる。自分自身の姿に怯えはなしかけてくる人間はいないはず。
・・綺麗な若い女性・・生命を生み出せる存在・・。人形をよびとめたその人間の女性に人形は初めて嫉妬という感情を覚える。
「・・もし・・おこまりのようですが」
その女性は綺麗な清楚なローブを纏っていた。綺麗な石をちりばめたネックレレス。白く透き通った肌・・青い瞳。
「私・・に話しかけたのですか?ここ数年命令を受けてないので処理が遅れました」
「? 処理?かわったお言葉を使うのですね。私がすれ違い際に感じたのですが、お嬢様・・かなり悩まれているようでしたので・・よかったらお話でもお聞きして少しでも楽にできたらと思いまして・・」
人形は首をかしげる。自分自身の悩み・・ ・・そうか。自分で処理できなければ命令をもらえばいい。この人間の女性を管理権を譲渡・・そうすれば自己停止も可能かもしれない。
(・・わたしは、今、非所属・・この人間の女性に・・管理権限・・昇格・・)
女性は不思議そうな顔で人形の表情を伺う。
「・・どうなされした?私にできることならなんなりとお聞きしますが」
その言葉を人形はまっていた。自分から管理権を譲渡ができる。
「では、私のadministratorになっていただけますか?」
「アド・・・ん?難しい言葉ですね・・でもあなたが望むのでしたら。そのあ・・ になってあげますよ?それであなたの悩みが解消されるのでしたら」
「・・この女性を管理者として認証・・」
「はい?」
「いえ、わたしの一人ごとですので・・では、私のなやみと願いをきいてください
・・私はたくさんの人を殺して・・奪ってきました・・」
その言葉を聞いて彼女は驚きを見せた・・が、すぐにこやかに笑顔を返す。
「兵士・・か・・なにかだったのでしょうね。殺生は重大な罪です・・しかし、国家に生きる身として命令はどような理由であれ、命令に背けないのはしかたがないですからね。あなた自身の命だけでなく大事な人の命すらおびやかされる可能性がありますから・・」
「・・私は・・ そんな私自身を・・活動を止めたいのです。私を止めてください。ご命令を・・。管理者・・」
「・・止めたい・・とは・・あなたは自死を望んでいると・・?」
人形は深く頷く。それを聞いた女性は人形にためらいもなく抱きついた。
「・・なにを・・」
「確かに人を殺めたのは罪です。しかしそれはあなたの上の意思、別な人の意思でうごいたのですから・・あなたにすべての罪があるわけではないのです。奪ってきた分新しい命を産み落とせばいいではないでしょうか。あなたは女性ですから・・」
女性・・たしかに・・人形は女性型・・しかし、人形は人形。命が生み出せるわけがない。
「・・わたしは人間では・・ありません。生み出すことはできません」
「わかります・・あなたには器はありません。・・ありませんが、魂は今あるではないですか。女性の魂が・・」
人形はこの女性が何をいっているのか理解できなかった・・。が・・の瞬間。
─ヒュン
視界が一気に真っ暗になる。いままで経験したことがない事象。周りを見渡すが、暗闇・・。
・・感覚が感じられない体であったため、いつのまにか腰まで水につかっているのに気づかなかった。
(・・暗闇の中の湖・・地底湖・・?転移装置?いや、そのような技術は確立されてないはず・・)
「もうしわけございません。町中ではいろいろと弊害がございましたので、私の聖域にご一緒させていただきました」
「!?・・・あなたは・・」
目の前には先ほど話しを聞いてくれた女性がいた・・。しかし水面に足をつけ・・ていない・・。
「申し遅れました。私は、アルテマ・・ この地の女神・・みたいな存在の者です」
女神・・・ 神・・・ ストレージに記録がある。人間は上位の存在を信仰する者がいると・・しかしそれは仮想の者と記録されている。実在するはずがない。
「・・あなたは本当に女神なのですか?」
女性は笑顔で手を差し出す・・と、その手の平から小さな芽が・・そしていっきに成長し木に・・そして枯れていった。
人形は現実ばなれしたその事象を目の当たりにし人間の上位が存在するという現実を認識したのだ。
目の前にいる存在は神に違いない・・自分を生み出したさらに上位の存在。・・なら自分を完全に止めることができるはず・・。
「・・アルテマ・・様・・わたしの管理者・・お願いがあります。私を完全に止めてください!あなたは私をつくった人間を遙かに超えた上位の存在。私を止めることが可能なはずです!」
しかし、アルテマは笑顔で首を振る。
「自分自身を止めても、それで罪を償ったことにはなりません。それはただあなたが逃げているだけ・・」
「・・では・・どうしたら・・わたしは・・過ちを・・」
「あなたの器はとても丈夫です。何百年・・いや、永久に器は壊れないでしょう。その器は幾多の命を生み出すことができるはずです」
「しかしわたしは人形・・」
「人形ではありません。あなたの魂は女性そのものです。人を愛し、命を慈しむ心があります。あなたに足りないものを私が授けましょう」
アルテマは人形のそばによるとお腹にそっと手を触れる。
・・の瞬間・・膨大な処理不能のデータが体を掛けめくる。いったい新しい信号はなんなのか・・そして・・自分のアルゴニズム・・プログラムが処理できないデータで書き換えられた。
・・そして腹部にいままでにないものを感じる・・感じるということもなかったというのに。
「あなたに女性としての子を宿す器を授けました。そして、さらに女性としての愛情を・・」
「わ・・私・・ ・・わた・・し」
「それがあなたの償いです。たくさんの男性を愛し、子を授かりなさい・・永遠に・・」
「・・その愛した存在もあなたは永遠に時間に奪われるのです・・それがあなたの償いです」
処理出来ないデータが次々とはいってきて人形は処理困難に陥る・・このデータ・・感情は一体なんなのか。そして神は私になにをしたのか。
「さぁ、地上にお帰りなさい。あなたの償いはこれからです。あなたが十分に償ったらまた私のところにくることになるでしょう。その時にあなたに終わりを与えてあげます。それまで・・たくさん愛しなさい・・」
・・気がつくと人形は人混みの雑踏の中に立っていた。しかし、いつもとちがう・・腹部が・・温かいという感覚を初めて覚えたのだ・・。
お腹をぎゅっとだきしめ・・・思考を落ち着けると・・また、人形は歩き始める。
しかし、目的は完全に書き換えられていた。
異性を愛する・・。人形自身が愛せる異性を探し続けるが存在する目的・・そして失い続けるのが償い・・。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます