第25話 天ヶ峰村死闘③
「たまき、次は一番。なるはやで」
「了解」
盗賊たちの後ろに迫撃砲の榴弾が落ち、ボロボロの看板にコミュニティーセンターと書かれていた食料品店が吹き飛んだ。
間髪をいれずに半身を出し、SCARの引き金を絞る。
十二発くらいか。銃に残った弾を全弾撃ち尽くして盗賊二人を撃ち殺した。手近な家の庭に入ると窓を蹴り壊し、ブーツのまま民家に入る。板張りの廊下を進み、突き当りの階段に腰掛けた。マガジンを予備と取り替え、空になった方を防弾ベストのポケットにしまう。水筒に入った緑茶を飲んで一息ついた。
「たまき、次は三番と、三分置いてムーが置いてくれた七番を頼む。おっさん、ムー。逃げた連中がそろそろ出始めると思う」
長く尾を引くようなドラグノフの発射音が聞こえた。
「いけオジ、じゃなかった山城のおじさんだよ。早速一人来てたよ。寝起きに爆撃は効いたみたいだねえ」
山城が言った。再度銃声が響く。
「これで二人目。リゼちゃん、周り見てる?」
山城とリゼの二人は、先程阿含と別れた森の入口から道路を見下ろす場所に陣取っていた
山城が片膝立ちでライフルのスコープに集中する間、リゼは双眼鏡でキョロキョロと当たりを見渡している。
「は、はい。あ、森の中、山城さんの左手の方に一人いました。私達には気づいていなさそうです」
山城は立ち上がると同時に狙いをつけて、立ったままライフルを発射した。
「はい、三人目。そろそろ場所移動しようか。あ、荷物はそのままでいいよ。後で取りに来よう」
山城達が移動している時、ムーもまた山中をかけていた。
リゼほどではないが浅黒い肌。ポマードで完璧に決めたオールバックと無精髭。そして彼の両足は太ももから下が義足になっている。人間と同じようなまっすぐな作りではなく、虎や犬など四足獣と同じように、関節が逆側に、つまり前に曲がるように出来ている。
義足の尖ったつま先が腐葉土を噛み締め、森の中を駆ける。百メートルほど先の木の陰にちらりと見えた盗賊を追っているのだ。
突然の爆撃と仲間の死におののいた盗賊は、枯れ葉を巻き上げながら必死に森の中を走っている。木の根につまづきそうになり、白樺の幹に手をついた。荒い息を吐く。何が起きたのかわからない。爆撃ということは戦闘機が飛んだのだろうか。本物を見たことは一度もないが、そんなものは飛んでいなかった気がする。何が起きたかわからず逃げてきたが、とにかく仲間と合流して、戻れそうなら戻ろう。
──そこで男の思考は途切れた。
後ろから迫ったムーが、追い越しざまにククリナイフで男の首を切断した。
ムーは振り返りもせず走り抜けた。軽く血を拭うとナイフを鞘に戻す。目の前には幹の太さが大人二人分の胴回りはあろうかという立派な椚の木がある。左足で地面を踏みしめると、木に向かって跳躍した。
カッカッカッ
義足の爪を幹に食い込ませ、垂直に椚を登ると、太い枝に乗った。ネコ科の大型獣のように体を伸ばして枝の上で横たわる。
ここからなら県道や森の中をある程度見渡せる。
「ぎゃあっ。な、何だこれ」
ムーの後方から声が上がった。森の中にはくくり罠をいくつか仕掛けてある。
ムーは腰に吊ったククリナイフとサブマシンガンを手でそっと触り、正しい場所にセットされていることを確認すると、するりと木から降りた。
「迫撃砲の残弾はあと五発だからね」
インカムから長尾の声が聞こえた。
「了解」
阿含が答えたのとほぼ同時に、キーンというハウリングが大音量で鳴り響いた。電信柱や食料品店の屋根など村内のあちこちに設置されたスピーカーから男の怒鳴り声がした。
『お前らあ! 何を浮足立ってる! 村に入ってきた敵は少ねえぞ』
ガラガラ声だが、遠くまで伸びる力強さもある。きっとこいつが頭だ。阿含は思った。
『お互いをフォローできる布陣で包囲しろ。砲撃の方は例のアレで対処する。グズグズすんな、動け!』
例のアレ? そんなもんあったか? 阿含はそう考えながら盗賊の一人に狙いをつけた。細い十字路でカーブミラーを見ながら銃を構えている。アサルトライフルを撃とうとした時、通り一つ向こうから大声がした。
「気をつけろ、さっきそっちに行ったの見たぞ!」
前方の盗賊が、不意に阿含の方を見た。水平二連ショットガンの銃口もこちらを向いている。
阿含と盗賊は二人同時に引き金を引いた。
拡散した散弾が当たり、阿含は腹と左腕に衝撃を受けた。阿含の弾に当たった盗賊も叫び声を上げる。
「痛えぇっ、撃たれた、撃たれたぞ」
阿含も口には出さないものの思う。畜生、撃たれた。あんな雑魚に。お返ししてやらねえと。自分の視界が赤く染まった気がした。腰が引けて後ろに下がりそうになった足をぐっと踏ん張る。再度銃を構えて盗賊に狙いをつけた。
次の瞬間阿含は地面に這いつくばった。カーブミラーに銃を構えた別の盗賊が映った。
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