『ギガント鉄道』

やましん(テンパー)

『ギガント鉄道』


 『これは、妄想的で、幻想的な、おろかなフィクションです。』




 それは、真夜中に我が家の上に現れた。


 最初には、激しい光があった。



 『お待たせしました。あなたの時が、いま、来ました。』


 ぼくは、見上げて、びっくりして、ひっくり返った。


 もう、空全体を覆う、巨大な機関車が、巨大な貨車を牽いている。


 『旅立の時です。早く乗りましょう。ギガント鉄道に、ようこそ。』


 たぶん、機関車が言った。


 『むちゃくちゃ言わないでくらさい。旅行の支度もできてないよ。どこに行くと?』


 汽車は答えたのである。


 『地球人は、死ねば、みな、ダークマター墓場、大銀河『オ・サラバ』に、行くのです。最近、脱走する方々があるので、特別列車を用意しました。いえごと、もって行きます。』


 『そりゃ、理屈に合わない。市役所が困るだろ。税務署も。だいたい、まだ、死んでないです。』


 『みな、そう言います。しかし、気にする必要はありません。手間が省けてみなさん、楽をするだけです。だれも、気にしない。』


 ばりばりばり、


 小さな自宅は、根こそぎはがされて、貨車に積まれたのだ。



 ダークマター墓場、大銀河『オ・サラバ』は、地球の死人たちで満ち溢れ、活況を呈していた。


 大きな街があり、お店もある。


 確かに、異世界的だ。


 ぼくは、さらに巨大な裁判所に連れて行かれた。


 『この方の罪状は、約5キロメートルに及びます。功績は、10センチメートル。以上。裁判長、提出します。』


 あまりに大きすぎて、真っ赤な靴しか見えない裁判長に、腰までしか見えない廷吏が何かを渡したらしい。


 天から声が響いた。


 『あら、標準以下かしら。まあ、いいでしょう。ほほう。功績は、虫たちを潰さずに助けた件数が、大多数ですか。りっぱです。そこを評価して、砂漠地方の外れに、家を設置することを認める。以上。』


 ぼくは、見渡す限りの砂漠に、家ごと放り出された。


 

 しかし、電気も水道も来ているのには、びっくりした。


 食料は、配給らしくて、朝になると何かしらの飲食物が配られてくる。


 家ごと来たから、本やレコードもある。


 ただし、パソコンやスマホは、充電はできるが、通信はできない。



       🍔🍔🍔🍔🍔



 誰も来ない。


 郵便も来ない。


 くまさんと、ぱっちゃくんたちは、相変わらずぞばに、いるのだが。



 太陽は見えないが、なぜだか、昼と夜はある。


 テレビや、ラジオの放送はなかった。


 だから、情報はなにもない。



       🌞



 断絶と連続は、境目がなければ、思想以外の差別はない。


 死と生は、自分があるかないかの差であろう。


 だから、これは、死ではありえない。


 引っ越しただけである。



 もしも、死が引っ越しならば、死はあり得ない。


 人類が信じないことは、起こらない。


 死があると信じる限り、死は起こる。


 生命の回帰があると信じるなら、回帰も起こる。


 全体がそうでなくても、信じる人がある程度あれば、そうなる。


 いやいや、そんな、むちゃくちゃなことがあるのか?


 むむむ。


 やっぱ、ないな。


 ならば、これは、臨死体験か?


 一番ありそうなことだ。


 それにしては、長いぞ。


 長く、患っているのかな。


 そう、思ってるだけなのかな。


 やはり、これは、夢かな。


 しかし、あの時は、寝ていなかったよなあ。



      🚂💨💨💨

 


 でかい汽車が来たときには、確かにシベリウスさまを聴いていたから。


 そうか。


 ならば、また、『タピオラ』をかけてみよう。


 砂漠に、北欧の音楽が拡がる。



      🏜️🏜️🏜️🐪🏜️🏜️



 やはり、なにも起こらないか。


 まあ、そうだよな。


 でも、確かに音楽は拡がった。


 つまり、明らかに、大気がある。


 地球と変わらない。


 ならば、ここは、地球に違いない。


 ばかばかしい実験に、付き合わされているのだろうか。


 ふうん。


 

 しかし、やがて、考えるネタはつきた。


 ぼくは、寝ているしかなくなった。



 ある日、ふと、考えた。



 まてよ、ダークマター墓場って、言ったよな。


 ダークマターや、ダークエネルギーの正体は、まだ、わかっていないようだ。


 ぼくが、ここに飛ばされた時期には、宇宙のエネルギーの、約74%はダークエネルギー、22%が、ダーク物質。残りが、人類が知るエネルギーだと見られているようだった。反論する人も、ないことないらしいが。


 しかし、新しい証拠が出れば、すべてひっくり返ることだってあるだろう。


 どちらにしても、ぼくは、みずから調べる力はない。


 それは、仕方がないが、口惜しい。



 でも、もしかして、それらが、ほとんどすべて解明されたら、ぼくは、どうなるか。

 

 宮沢賢治さんは、実験で証明したら、宗教も化学も同じようになると書いていた。


 誰もが、そうした宇宙の在り方を信用するだろうか。


 事実と、信用することと、利用することは、必ずしも一致しないだろう。


 もし、大多数が、知識を得て、科学を支持したら、ここは、存在し得なくなるだろうか。


 そうしたら、ぼくは、消えるか、もとに戻るかするのか。


 いや、もとに戻ることはない。


 時間は一方向にしか進まないからだ。


 

 ここが、信用で成り立っているならば。


 ばかな、妄想だな。


 

       ☁️  👩‍⚖️

           ☁️



 それから、まもなくして、ぼくはあの裁判所から呼び出された。


 『あなたは、この場所にふさわしくないので、追放します。さようなら。』


 それで、またあの、ギガント鉄道に乗せられた。


 ぼくは、めでたく、帰ってきたのである。




        🌍️




 

 しかし、人類は滅亡していた。







   🐨🍥🍥🐻🍥🍥🤯🍥🍥🍥🍥🐼

 


 


 


 


 

 


 


 


  


 


 

  

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

『ギガント鉄道』 やましん(テンパー) @yamashin-2

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る