[不意打ち]

「名前はこれ・・・・珍しいわよね」


 例の美女について少し分かったことがあるとLINEをくれた野木沢先輩は、待ち合わせの学内自販機コーナー前の私たちの所に来るなりスマホの画面を見せた。


「かい、ま? ですか?」

「そう。この苗字は初めて見た」

「ですね・・・・」


 【界 真 マ リ コ】 


 見せられたメモ帳画面の名前を見ながら脳裏にはあの漆黒の瞳が浮かんでいた。

 先輩が言う。


「学内の情報通の先輩に聞いてみるのが早いかと思って話を振ってみたら、この名前と海外の大学から来たってことは分かったけど、それ以上はまだ日が浅くて情報がないみたい」

「え、海外の?」

「みたいよ」

「まだ日が浅くて、ってことは──」

「2週間くらい前らしいわよ、ここに編入したのは」

「え、そうなんですか」

「うん。しかもまだ数回しか登校してないみたい。それでも噂になってるってどんだけ綺麗なの、って感じよね」


 顎に手を添え先輩はひとりごちるように言った。


「とりあえずまた何かわかったら知らせるわ」

「はい、お願いします」

「じゃ、またね」


 去る野木沢先輩に手を振りながら夏花が「どうする? 探してみる?」と言った。

「え、これから?」

「うん。人類科学学科って言ってたよね」

「そうだね・・・・ちょっと行ってみようか」


 夏花の好奇心に後押しされるようにして、道路を挟んで向こう側にある棟へと私たちは歩き出した。


────────────────────


 私たちがいる文学部日本文学科のある東棟よりも大きく風格のある造りの西棟を見上げながら、「とりあえず適当に歩いてみようか」と夏花が言った。

 が、その直後、「あ、ごめん、ちょっとLINE──」と言い、鳴ったスマホをポケットから取り出した。


「はあ? 何それ──」

「どうしたの?」

「ん~、サークルの方でトラブルみたい・・・・」

「トラブル?」

「うん、ごめん、ちょっと行ってくる。この辺りにいてくれる? なるべく早く戻ってくるから」

「わかった。ゆっくりでいいよ」


 夏花が駆け足で行くのを見ながら私は近くの花壇のブロックに腰をおろした。

 行き交う学生たち。

 夕方の平和な空気感が心地ここちいい。


(あの人、どこにいるのかな・・・・)


 脳裏に再びあの美しい顔が浮かぶ。

 1度見たら忘れられない綺麗な──


「私を探してる?」

「えっ?!」


 不意の声掛けにハッとし振り返る。


       〈彼女〉 

 

         が、いた。


「あ・・・・」

「早い再会ね」


 驚きに見開いた目で凝視する私に微笑む彼女は、この世のものとは思えないほどの美麗の極みだった。

 





 

  

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