[手がかり]
「はあ?! 刺されそうになった?!」
「ちょっ、声が大きい」
「どーゆーことよっ」
「いや、だから私も驚いて──」
「あんのっ異常者!許せんっ」
「ちょっと、夏花っ」
もともと大きい地声をさらに張り上げて
「だって許せないじゃん! 見つけたら殴ってやる!」
中学時代からの親友、浜沢夏花の血の気の多さは特に私のこととなるとスパークする。
何故か姉気取りで過保護なのだ。
「でも私がこの目で刃物を見たわけじゃないし・・・・」
「助けてくれたその人は見たんでしょ? じゃなきゃ言ってこないよね?」
「たぶん・・・・」
「でも、そもそも千絵を狙ってるって何でわかったんだろう?」
「確かに、何でだろう・・・・」
「同じ大学って?」
「そうみたい」
「見た目どんな感じ?」
「それがものすっごい美人で、今まで生きてきて会ったことないくらい」
「え、そんな?」
「うん。綺麗すぎてちょっと引いたくらい」
「そこまで?! へ~、そんな美女まだ学内で見かけたことないけどね。何回生なんだろう?」
「さぁ・・・・」
色白の肌に黒髪ストレートロング、凝視をしたら吸い込まれそうな黒い瞳、なにより絶妙なバランスで目鼻の整った美しい顔が瞬時、脳裏に蘇った。
「とにかく探してみようよ。出来たら私も話を聞いてみたいし」
「そうだね、探そう」
「で、なんなら警察にも一緒に行ってもらおうよ、前に相談に行った担当の人のところ」
「え・・・・」
「え、って何? 一緒に見たんでしょ? 田所のこと」
「まあ、そうだけど・・・・」
「何か歯切れ悪いなぁ。間違いなく確かな証人じゃん」
「・・・・」
ストーカーの田所が現れ、見知らぬ美女が忠告をしてくれたことで何もされずに無事だった──と、夏花には簡略に話をしただけで、その彼女が別れ際に言った「もう大丈夫。あなたの命は安全よ」という言葉のことはまだ伝えていない。
「あなたの命は安全? 言い切っちゃってるんだ。何か凄い断定だけど・・・・あの田所が諦めるかなぁ。今日はしくじったけどまた、とか・・・・」
「やめてよ、怖いじゃない」
「ごめんごめん、脅かしてるわけじゃなくてさ。ただあの粘着男のことだし、今日だってまだその辺に──」
「それなんだけど・・・・あ!」
そろそろ大学の正面門が見えてくる辺りで私の視線がある人物を
「
「え? どこ?」
「ほら、あそこ」
20メートルほど先にある歩道橋の上を今まさに渡り切ろうとしている女性。
腰近くまである黒髪ロングヘアーが特徴的な二回生の
半年前の4月、入学直後の新入生総合オリエンテーリングの際に私が少し体調を崩し、その時にお世話になった先輩だ。
「ああ、あの」
「うん」
「二回生だったよね? じゃ、知ってるかもよ?」
「ん?」
「その超絶美女のこと」
「あ、そっか! 聞いてみよう」
「だね!」
見れば彼女はもう階段を下りようとしている。
私たちは急ぎ足で歩道橋に向かった。
そして階段を駆け上がるとダッシュで橋を渡り、ちょうど下まで下りた先輩に声を掛けた。
「野木沢先輩!」
「?」
「上です!」
「あら!」
「こんにちはー」
振り返り足を留めてくれている先輩に挨拶をしながら早足で階段を下りた。
「元気?」
「はい、お陰様で元気です」
「それは良かった。えっと松波さん、だったかな?」
「はい、松波千絵です」
「私は谷先夏花です」
「あ、覚えてる。あの時そばにいた人でしょ? 松波さんが貧血で倒れちゃった時。谷先さんて言うのね」
「はい、そうです」
黒髪ロングヘアーの似合う和風美人と呼ぶのがピッタリな外見の野木沢先輩はにこやかに私たちの顔を交互に見ている。
「あの、すみません、ちょっとお聞きしたいことが・・・・」
「ん? 何? 話なら歩きながらでもいい?」
「あ、はい」
歩道橋を下りてから少し歩くと大学の正門に続く右折の道がある。
同大の学生が私たちを追い越し何人もそこに入って行く。
「で、何かな?」
「はい、あの──」
私は例の美女のことを出来事とともに話し、心当たりはないかと尋ねた。
「それもしかしたら2,3日前に噂になってた人のことかも・・・・」
「え、そうなんですか?!」
意外とあっさり判明しそうな先輩の言葉に私と夏花は顔を見合せ頷いた。
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