第5話 告られたナオミ

「あれはアッサリしていてなんぼでも行けるわなあ。」胡坐の尻を動かしなが

らナオミに近付き、とうとうその左横まで来てしまった。

> 「アレは高いよ、なんぼでも飲む酒じゃ無いしね、一杯か二杯で止めとく酒だ

よ。」

> 直美は盃の清酒を小さい舌で猫舐め舐めしてそう言った。

>  周囲は何十年ぶりに逢う旧友の話しの花が咲き脇目も振らず思い出話に夢中

になっていた。

> 「俺もその酒が好きでさあ側に置いていたい訳よ。」顔面が素面になっていた。

> 「だから上善寺、お前を側に起きたい訳さ。付き合って下さい。」真面目な顔

とはこういう奴の顔の事をいうんだろうか? 直美は薄っすらと脳裏にハウリン

グが響いていた。

>  ゥワンゥワンゥワン!ハウリングがする度に頭が締め付けられる。

> 酒は飲めるが、強い方ではなかった。

> 「お願い返事待って、今は答えられない。お酒、飲まないの?」こう返答する

のが精一杯だった。一合徳利を手渡し明後日の方向へ体勢を変えた。

>  そりゃあ恋もしたい。

> オトコを信じて頭を擡げ身体を預けて二人で歩きたい。

>  子育てから離れたから違うセグメントで羽目を外したい!と、思う。

> だけどそれが眼の前に来たら躊躇してしまう・・・。発散出来るのに・・・。

>  母性本能というやつか? 子供を愛しているからか? 手を抜けない性分だ

からか?

> 自問自答するが、何れも当て嵌まっていた。でも・・・。

> 「車屋の宗像さん知ってる?」告られたと話しを変えたかった。

> 「知らんけど、オマエの車ワゴンアールやろ? あれは走らんしな、居住性は

エエけど。俺のクラウンでメシ食いに行こう?明日。」

> 「で、どうなった?」興味津々のキリコはバイタルの検温器をナオミの耳の裏

に宛がう。

> ピッ、「37.6℃か、お熱があるよ?」額を押さえるナオミに早く続きを話

してと催促するように左肩を鷲掴みにして揺らした。おねだりの顔が可愛かった。

> 「逢って食事してクラウンでホテル行ったよ。」希望通りのナオミの返答に満

足げな微笑を返していた。

> 「次のご予約は?んで、宮大工って何?」直美のインタビュアーに為りきって

いた。

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