第2話アカウント作成と踏み外した第一歩
「エーンエン、佐藤さんがいなくなったら寂しいよ」
「同僚じゃなくでも友達だよ!まだ連絡してきてね」
「有名人になったら俺らのことを忘れるなよ」
職場で、会社のみんなが輪になって俺を真ん中に囲んだ。一人一人が俺に別れの挨拶を言って、暖かい気持ちを伝えてくる。
「皆さん、今までありがとうございました!」
俺は頭を深く深く下げて、名残惜しげに別れの言葉を告げた。さすがに別れの雰囲気が感動過ぎて、目元もちょっと赤に染まった。
「よし!じゃ居酒屋を探そう、佐藤さんのために送別会をするぞ!」と、人混みの中から誰がそう提案してきた。
「すいませんそれだけは無理です今まで誠にありがとうございましたそれじゃあお先に失礼いたします」
俺は急に元の顔つきに戻り、無感情のまま早口でそう言った。そして鞄を持って大幅なペースで会社から逃げ出した。
別に会社の人や飲み会のこと嫌いとかじゃなく、ただ実にシンプルな原因がある。
それは——あと三十分でレドリームサーバーが開放するからだ!!
電車を降り、慌てて駅から走り出す。残ったのは家までの一本道、これからはラストスパートだ。暑苦しそうな様子で喘ぎながら走るのせいで周りから変な視線を投げられてきたが、今はそれを気にする余裕がない、ただ全力でダッシュする。
「セーーーフ!」
俺は家に飛び込み、犬が舌を出して喘ぐような荒い息をしながらそう言った。スマホを出して見ると、スクリーンの時間は18時51分、まだ9分でサーバー開放。
靴を乱暴に脱ぎ捨て、ネクタイとベルトも片手で強引に外す。身を包んだスーツも着替えず、このままヘルメットを頭にかぶる。
「LINK SUCCESS」
浅葱色の英語が浮いてきて、ゲームサーバーと繋がったことを示してくれた。レドリーム世界が先に見せたものは一体何だろう!胸の高鳴りが止まらない!
あっ!動いた動いた!まず目に映るのはなんと!!!
……
この前の宣伝CMだ、期待して損した。
とりあえずスキップスキップスキップ、余裕があるなら多分全部見るけれど、今はのんびりする時間じゃない。CMを全部スキップしたあと、目の前に表しているのはキャラメイクのUIだ。
まずは種族の選択だ。選ばれる種族はエルフ、人間、ドワーフこの三つだ。性別は選ばれないようで、ヘルメットが直接生物鑑定した結果がそのままに決めたことだ。
どうやらブルーボックスさんは男性が女性キャラ作るのと女性が男性キャラ作るのはあんまり好きじゃないらしい。
顔はヘルメットが直接面部をスキャンしたあと、そのデータをある程度に美化して作られたもの。特徴を保存されており、ゲームの中によくある全員同じ顔の問題はうまく解決された。
正直に言うと美化の効果が悪くない、顔つきが自然で少々二次元キャラぽく、俺みたいな一般人でもちょっとだけイケメンに見えた。調整する必要がなさそうだ。
種族は一応人間と決めるだが、別種族の自分のすがたが気になるから見てみようと思って、ドワーフとエルフも選択してみたら後悔した。
マジでひどい惨劇だ。
薄細い身体を持つ自分がドワーフに選択したら、ドワーフ独特な穏やかさと安心感がまったく見えず、ただの背が低いちびっ子になった。いや、髪の毛を全部剃って、スキンも緑色に染めたら俺、立派なゴブリンじゃん!
これはさすがに酷い、酷すぎる。ドワーフにしたら俺はレアゴブリン扱いされて討伐した可能性が高い。
いつも美しい、綺麗だと言われたファンタジー種族エルフも俺にあんまり向いていないらしい。スタイルがいい人ならエルフに似合うかもしれないが、元々もやし体形の俺がエルフになったら手足が更に長くなって、加えて美形な顔と長い耳、正直に言うと若干キモイ。
種族のしたに小さい文字があるらしいが、どれどれ。種族によってタレントが違います。
ドワーフは「鍛造専門:ドワーフは生まれからの鍛造師。鍛造スキルを習得した場合、スキルレベルが10増加します」と「ストーンバディー:地下と山の中に生活しているドワーフの身体が石のように丈夫になります、STRとVITが1%増加します」
エルフは「薬草探し:森の子供であるエルフが薬草探すのは得意、採薬スキルを習得した場合、近いところに薬草があったらエルフは感知できます」と「ムーン加護:エルフの身体は月神に祝福され、DEXが1%増加します、そして月光に照らされた場合、より見えづらくなる」
人間は「商売得意:買い物する時、人間は試しに値引きする、商品の価格は一割引になる可能性があります」と「詠唱上手:人間は魔法を詠唱するとき、別の種族より0.1秒速くなる(快速詠唱魔法には適用しません)」
なるほど、エルフとドワーフのタレントはいいよね、物理職業と相性がいい、人間のタレントは魔法職業以外のは増幅がない。物理職業狙いの俺にとって前者はとても魅力的な選択だが、外見がさすがにぶっさいので人間にします。
次は職業。選ばれる職業は戦士、魔法使い、牧師、弓使いと盗賊この五つがある。基礎職業以外、ゲームの中にスペシャルクエストを完成したら、レア職に転職ことができる。
レア職はさておき、自分の基礎職業はとっくに決めた、それは——盗賊!
そう!盗賊です!別のRPGに「ゴミ職」とか「一番いらない職業」とか散々言われたこの盗賊です!
まあよくあるんだよ。「盗賊は必要じゃなくねい」とか、「ダメージが高くない上すぐ死ぬパーティーの足まとい」とか、特にレベルが高くなって、ダンジョンは一週目じゃない場合にこんな評価が増えるけれども。それでも、俺は盗賊する!
なぜかというと、それは、ロマンだから!
そう!盗賊がロマン!
ソロでダンジョン攻略とか、ボス戦の時超高ダメージでボスにとどめを刺すとか、PVPの時に一人で後衛を暗殺、パーティーをピンチから救い出すとか、常に陰に身を隠し、手を出す瞬間戦況を逆転、ずっと生と死の境界線に踊る。これこそロマンチック!できるのが盗賊にほかならない!
というわけで、職業も決定したら、キャラメイクはここまでにしよう。サーバー開放の残り時間はまだ一分がある、次に進むか。
次に進んだら俺は急に意識した:ヤバい、最後に決めたのはゲームIDだ。名前とかゲームIDとかつけるのは俺昔から苦手何だ。
普通ならユーチューブチャンネルのIDをそのまま使用すればいい、アカウントがランク上列になったらチャンネルの知名度も上がるし、メリットが大きいけど、俺はそうしたくない。
なぜなら俺のチャンネルIDは本名だからだ。
当時、俺はユーチューブを見て、声優とかゲーム実況者とかあいつらのIDは普通に日本人名前らしいから割と本名そのままIDとしては珍しくないかもしれないと思って、佐藤いつきをIDとしてアカウント作成した。
一年後俺ようやく「あいつら全部偽名なのか?」と気付き、このIDも痛い黒歴史になった。
佐藤いつきがダメだったらどんなIDを作るのか……できるだけユーチューブチャンネルと繋ぎが欲しい。佐藤……さとう……砂糖……どうしよう、全然思いつかない。残り時間は30秒、できるだけ最初でゲームに入りたいなぁ。
20……19……18……
ゲーム画面の上に大きな数字が浮き、開放のカウントダウンが始まる。
そう!砂糖にしよう、あー、短いすぎてダメなのか、じゃ砂糖なんとか……なんとか……
10……9……8……
あああ、ダメだ、早く決めろ俺!!
3……2……1……
光がフラッシュして、目の前の景色が変わった。歩き回る村人、石で作られた小さな建物、木漏れ日が柔らかい芝生に映り、綺麗すぎてまるでゲームの世界のようだ。
いや、ゲーム世界じゃん!
美しい景色のショックから目覚め、気が付いたらアナウンサーさんの声がきた「ようこそ、レドリームヘ、“砂糖が甘くておいしい”さん」
はい終わった、俺のプロゲーマー人生がもう終わった、伝説の盗賊としての第一歩が既に踏み外した。
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