ずっと一緒
俺と涼香、そして由愛による三人の日々は終わりを告げた。
新婚旅行から父さんと美穂子さんが帰ってきたからである――二人とも、旅行に行った前より遥かに仲良くなっており、雰囲気さえも熱々になっていた……いや、これに関しては今までと同じかな。
「湊君」
「はい?」
二人が帰ったその日の夜……俺は珍しく美穂子さんと二人だった。
父さんは疲れて眠ってしまったようだが、美穂子さんはまだリビングで編み物をしていたらしく、喉が渇いて下に降りた俺は鉢合わせしてしまった……というのが現状の流れだ。
「私たちが居ない間、二人はどうだった?」
「っ……その、仲良く過ごせたと思いますよ」
一応夕飯の時にも二人が居なかった時のことは話していたけど、改めて美穂子さんから聞かれると緊張してしまう。
それというのも……二人とキスをしてしまったからだ。
親しい関係というわけでもないのに涼香と由愛の二人からキスをされ、明らかに普通ではない関係性が出来てしまったこと……それを素直に言えるわけもなく、美穂子さんに聞かれてちょっと動揺してしまった。
「ふふっ、なら良かったわ。隣に座ってくれない?」
「隣に?」
「えぇ」
一瞬迷ったが、俺は頷いて隣に座った。
さっきも思ったけどこうして美穂子さんと二人っきりなのは珍しいことだし、こんな風に誘われて拒否するというのも嫌だった。
「さっきの様子を見るに……何かあったと思うのよねぇ」
「……………」
「湊君は嘘を吐くのが苦手そうね。正直な証だわ」
「それは褒められてるんですかね?」
「褒めてるのよ」
……まあ確かに嘘を吐くより正直な方が美徳かもしれないけど、時には必要な嘘も必要だしあまり嬉しくはないかなぁ。
「……あの子たちに色々あったことは前に話した通り――でもだからこそ、あなたに心を開いているのが嬉しくて仕方ないの」
「……………」
「それがたとえどんな形であっても、あの子たちが湊君の傍で笑っている……それだけで本当に嬉しいのよ」
「……………」
美穂子さんの笑顔は本当にそうなんだと物語っていた。
ジッと見つめていた俺の頭を優しく撫でながら、美穂子さんは言葉を続ける。
「私にとって湊君はまだ知り合ったばかり……でも、あなたのような息子を持てる機会に恵まれたことが本当に嬉しいわ」
「美穂子さん……」
「まだ慣れなくても、いずれは本当のお母さんだと思ってちょうだいね。その時はたぶん、嬉しくて泣いちゃうと思うけれど」
……なあ湊。
こういう時じゃないのか? こういう時にあの言葉を口にするべきなんじゃないのか? ここまで言われて何も言葉を返さないなんてダメだろう……そうだろう湊!
俺は軽く深呼吸をして気分を落ち着かせ、勇気を振り絞るように言った。
「……母さん」
「あ……」
母さん……そう呼んだ瞬間にたまらなく恥ずかしくなった。
既に家族になったことで美穂子さんが母親だというのは間違いではない……でも今までと違う女性に対して母さんと呼ぶのはやっぱり恥ずかしかった。
でも、これは大きな一歩だと俺は考えている……現に美穂子さんは感動した様子で俺に飛び付いて……えっ!?
「湊く~~~ん!!」
「がはっ!?」
せ、背中……! 背中打ったから!!
そこまで痛くはないものの、少し気になる程度の痛みを感じるくらいには美穂子さんに押し倒された。
すぐに退けようとは思ったものの、美穂子さんの様子を見るとそうはいかず……俺はしばらく美穂子さん……母さんの好きにさせた。
(母さん……俺、美穂子さんを母さんって呼ぶよ)
そんな内心の問いかけに、それで良いのよと優しい声が聞こえた気がした。
それから少しして美穂子さんは起き上がり謝ってきたが、俺は大丈夫だと笑って美穂子さんを安心させ、改めてもう一度母さんと呼んでみた。
「母さん」
「はうっ!?」
……可愛いな母さん。
でもこういう人が父さんと知り合い、俺の母になってくれたからこそ……この温かい家庭を俺は守りたい――それを守るためには、涼香と由愛を泣かせることなくずっと守り続けるんだ。
「母さん」
「なに?」
「……俺、涼香と由愛を大事にするよ」
「……えぇ。ありがとう湊君」
母さんと呼んだ影響か、畏まった口調も砕けたモノへと変化した。
嬉しそうに微笑み続ける母さんに見送られ、俺はリビングから自室へと戻ったのだが……何故か居ないはずの涼香と由愛が待っていた。
「何してるの?」
「はい。一緒に寝ようかと思って」
「ほら、布団も敷いたんだよ」
いつの間にか部屋の中央に置いてあるテーブルが片付けられ、敷布団が二つ敷かれていた。
これは完全に三人で寝る流れだけど、俺は断る気はなかった……というより、俺はもっと二人と親しくなりたかったんだ。
「じゃあ三人で寝ようか」
「はい♪」
「うん♪」
そうして俺たちは三人で布団の中へ。
しかし数秒もすれば真ん中に位置する俺の布団の中に二人が潜り込む――両サイドから俺の腕を抱きしめるようにしているだけでなく、その綺麗な瞳が常に俺の顔を見つめていた。
「……なあ二人とも、ちょっと良いかな?」
「え?」
「なに?」
俺は腕を二人の首の下に通すようにした後、肩を抱くようにして引き寄せる。
二人は驚いた様子も見せることなく、さらにもっと体を密着させるように体を押し付けてくる。
「……俺、二人とずっと一緒に居たい――家族として、ずっと一緒に居たい」
俺はそう呟いた。
すると、すぐに答えが返ってきた。
「私もですよ。私もずっとみんなと一緒に居たいです」
「もちろんだよ。いつまでも一緒だからね? そこまで言ったんだから訂正は無しでお願いするよお兄ちゃん?」
俺ももちろんだと笑った。
二人と一緒に居たい……その気持ちが一段と強くなったのは今で、本当に二人とこれからもずっと一緒に居たい気持ちが強い……強すぎると言った方がいいかもしれないな。
俺はこの瞬間、確かに二人に捕まったんだろう。
でも……俺も二人を永遠に捕まえていたいと、そう強く思ったのだ。
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