目覚めの産声は華麗で愛らしく

「……はぁ……はぁ……っ♪」


 ランニングが終わった後、湊と別れて涼香はすぐに自室に引っ込んだ。

 汗をシャワーで流すこともせず、着替えさえもすることなく……とはいえ流石にベッドに横になったりすることはなく……ただただ彼女は部屋の中でジッとしていた。


「これは……何なのでしょう?」


 それは初めての感覚だった。

 今まで抱いたことのない何か……これが何だと涼香は考える――体は汗がベトベトで気持ち悪いのに、それ以上に気になるのがこの感覚だ。


「どうして手が胸に……?」


 自然と自分の手が胸に触れる。

 高校生になった段階で急成長した大きな膨らみ……男子の視線を集めてしまうことで嫌な気分にさせられたそれを涼香は揉む。


「あ……っ♪」


 その瞬間に体に流れる甘美な刺激に彼女は……涼香は初めてそれが性の快楽であることを知った。

 今までこのような経験はなく、誰かに聞いたことさえもない。

 ましてや試そうと考えたこともない……彼女は正真正銘、どこまで行っても純粋な女の子だった。


「あの香りが忘れられない……あの匂いが……離れてくれないんです♪」


 それは湊の汗の香りだ。

 彼はずっと汚いと思われたくない、臭いと思われたくないと考えていたがどうもこの姉妹にとっては違うらしい。

 湊の汗は由愛を夢中にさせ、涼香の場合は彼女のずっと閉じられていた扉を抉じ開けるきっかけになった。


「湊君……湊君……あぁこの甘美な刺激……これがそうなんですね♪」


 己が恥ずかしい行為をしていることは理解している。

 それでもそれ以上に涼香の心を占めるのがこの気持ち良さを知れたこと、この行為の先で想像する相手が湊であることに幸せを感じている。


「湊君……全部が全部私の初めての人……!」


 涼香はその境遇から男子と距離を置いていた。

 そのせいで親しい男子はおろか、仲良くなりたいと思えた男子も居なかった……だが数日前に彼に助けられたことで特別な何かを感じ、それから一緒の家族になるという本来ではそうそうない運命を通して涼香の中で湊はあまりにも大きくなりすぎている。


「……っ!?」


 瞬間、訪れたものに涼香は体を震わせた。

 この時、彼女はようやく女のそれを知った――彼女はもう、ただの高校生の女の子ではない。

 性を知った年頃の女だ。


▽▼


「いやぁやっぱり運動って良いよなぁ」


 なんてことを呟きながら俺はゴシゴシと頭を洗う。

 涼香に先にシャワーをどうかと言ったものの、彼女は後で良いと言って部屋に向かったのでこうして一番風呂をもらう形になったけど……今日のランニングは中々良い時間だった。


「……は~」


 それにしても……ある意味で幸せな時間だった。

 女の子とランニングが出来るというのも貴重な時間だったけど、それ以上に走ることで揺れる涼香の胸とか……ああいうのを見てしまう度に俺って男だわって気持ちにさせられる。


「よし、そろそろ上がるか」


 湯船に浸かることなく俺は風呂を出た。

 そのまま涼香の部屋に向かい、トントンとノックをした後に風呂が空いたことを教えて俺は部屋に戻る。

 ただ、風呂に行く前に涼香が俺の部屋を覗いた。


「……涼香?」

「湊君。今日はありがとうございました――本当に楽しかったです」


 ニコッと微笑んだ涼香はそのまま風呂に向かった。

 涼香がそう思ってくれたのなら俺としても嬉しかった……今度は最初から彼女を誘ってランニングに向かうのも良さそうだな。


「……なんだ?」


 ふと、そこで俺は懐かしい匂いを感じた。

 鼻を鳴らすように近づいた先はさっきまで涼香が居た扉の位置……そこから香ったのはあの匂い――由愛がトイレに行っている際に彼女の部屋から匂ったものだ。


「……姉妹だから似るのかな?」


 それにしては……何なんだろうこの香りはと首を傾げる。

 良い匂いであることに間違いはないはずなのに、ずっと嗅いでいたら脳がピリピリと痺れそうな錯覚に陥りそうなそんな匂いだ。


「……なんかドキドキするな」


 ドクンドクンと心臓が強く脈を打つ。

 この感覚もあの時と同じ……これが興奮ということに気付いてはいるので、それを理解すると女子の匂いで興奮する俺って最低じゃねえかと逆に冷静になる。


「……女の子に匂いで興奮するなんて最低だって……流石に言われるだろうから表情で察せられないように気を付けないと」


 くれぐれもバレないようにしないと……よし! もうこの匂いに惑わされることはないはずだ!

 その後、部活が終わった由愛が帰ってきた。

 夕飯の時に俺と涼香が一緒にランニングに出掛けたことを知った彼女は、今度は自分とも行こうと俺を誘った。


「わ、分かったから!」

「本当だよ? というかお姉ちゃんも合わせてみんなで行こうよ」


 ということで三人揃って今度はランニングに行くことが決定した。

 俺たちのやり取りに父さんと美穂子さんは本当に仲良くなったなと微笑ましく見つめてくる……そんな中での会話だった。

 爆弾発言というか今言うのって話が飛び出たのが。


「来週くらいにな。俺たちで新婚旅行に行こうと思うんだ」

「ちょっと突然だったけど予定が合ったのよ。もちろんみんなが不安になるなら取り止めるわ」


 それはあまりにも突然すぎるだろ!

 でも……それはちょっと無理じゃない? だって父さんたちが居なくなったら俺と彼女たちしか残らなくなるぞ……。

 それってヤバくない? ヤバいよね……?

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