偶然は彼女にとって必然となる~至極当然~
朝礼が終わり、一限目の授業が始まるまでの短い休憩時間……早速時風が我先にと近付いてきた。
「おいおい……一体何があってそうなったんだ?」
「……まあ色々あってだな」
時風が言っているのはもちろん涼香さんたちのことだ。
朝礼の時に先生が俺たちのこと……主に涼香さんのことについて説明し、うちの両親が再婚して俺が涼香さんと兄妹というものになったことが伝えられた。
これは涼香さんの名字が変わることの説明と、再婚などに関してはあくまで家庭の事情であるため、しつこく聞くことをしないようにと注意喚起もありがたいことにしてもらったのだ。
「……先生にも言われたし家庭の事情だもんな。けど、湊と倉谷さん……じゃなくて宍道さんになるわけか。一緒に住むってなった時の男子の顔の動きは面白かったわ」
「高校生になってあれほど注目を受けたことはないぞマジで」
涼香さんが俺と一緒に住む……そう先生が口にした時、ギロリと男子たちの視線が向いた時には恐怖すら覚えた。
まあそれ以上に涼香さんに視線が向いていたような気もするけど、当の涼香さんは全く気にした様子もなかったのが流石だなって感じだ。
「男嫌いって噂はあるけどさ。結局のところどうなんだ?」
「あ~……苦手とは言ってたな」
「そうか……う~ん」
「なんだよ」
男嫌いという噂に肯定すると何かを時風が考え始めた。
俺は何を考えているのか気になりジッと見つめていたが、言いたいことが纏まったのか彼は話し始めた。
「倉谷さん……今だけは名前で呼ばせてもらうか。涼香さんもそうだが妹の由愛さんも男嫌いってことで男子は距離を取ってたんだ。それは知ってるだろ?」
「あぁ。考えなしの馬鹿は居るには居るけど、大半の男子は嫌われたくなくて声を掛けることすらあまりしないな」
「だろ? だけど……湊と過ごすことでその前提が崩れちまう可能性があるんじゃないかって思ったんだよ。男嫌いってのは実は違うとか、それこそ湊に先を越される前にって感じでさ」
「……………」
俺に先を越されるってなんだよ……でも、確かにそうなる可能性もあるのか。
涼香さんだけでなく由愛さんにももしかしたら……実際にそういう瞬間を目撃しているわけでもないので何とも言えないが、家族として気に掛けなくっちゃな。
「……お前」
「なんだ?」
「いつも以上にキリッとしてるなって思ったんだ」
「……そうか」
俺としてはいつも通りのつもりなんだが、どうも時風からしたら違うらしい。
「まだ数日程度なんだけどさ。涼香さんたちと話をしたり、一緒に過ごして仲良くなれたんだ。美穂子さん……二人のお母さんが再婚したこと、俺と父さんが新しい家族になったこと……それを後悔してほしくなくて、良かったって心から思えるように頑張ろうって考えてるんだわ」
「へぇ……一気に大人になった感じがするわお前」
だからそんなオーバーなものじゃないんだってば。
涼香さんと由愛さんに対する俺の気持ちを理解してくれた様子の時風。彼は何かあったら相談してくれと言ってくれたので、その時はぜひ頼むと俺も笑った。
「俺だけじゃないみたいだしな」
「え?」
時風が指を向けた先には普段それなりに仲の良い男子の集団が屯している。
その場所が近いということで俺たちの会話も聞こえていたようだが、彼らはみんな俺に向かってグッと親指を立てて時風と同じ気持ちなんだと教えてくれた。
「……ははっ、頼もしい限りだよ」
「へへっ、その代わりと言っちゃなんだが……色々教えろよ。何かこう……ラッキースケベ的な展開はなかったのか?」
「んなもんがあるわけ――」
ないだろうと言おうとしたその時、脳裏に蘇った記憶がある。
後頭部に涼香さんの胸、顔面に由愛さんの胸が当たってサンドイッチされた時の記憶だ。
「その反応……何かありやがったな!?」
「うるせえ!」
「怪しいぞこの野郎!!」
ええい! 鬱陶しいからそれ以上聞くんじゃない!
授業が始まるまで何とか誤魔化し続けて事なきを得たが……時風の話には確かに思う部分がある。
(もしも……もしもこれを機にチャンスがあるんじゃないかって多くの男子が二人に声を掛けたりした時……この再婚のせいだって思われたりしないだろうか)
……いや、流石にないか。
度を越せば分からないけど、今回の再婚に関しては涼香さんも由愛さんも受け入れていたし、俺や父さんのことも良く思ってくれていた。
(あぁそうか……簡単なことだな)
俺が守れば良いなんて思うのはかっこ付けすぎだろうか?
いや、これで良いんだと俺は頷く――既に一度、命を懸けて二人を守ったようなものなんだ。
アレに比べたらなんてことない……そう思うと心は軽くなる。
「倉谷君……倉谷君!」
「あ、はい!」
「何をボーッとしているんだ? 宿題の問題を解きなさい」
「……うっす」
取り敢えず……授業には集中することにしよう。
▽▼
実を言うと、俺は涼香さんや由愛さんのことを考えているつもりで居た。
二人は自分で男嫌い……男が苦手だと言っていたが、俺や父さんとは普通以上に話が出来るのでやはり深く考えていなかったんだ。
「……うん?」
深く考えていなかったこと、そして時風に言われたこと……それが実際に分かりやすい形で目の前に現れたのはその日の内だった。
美穂子さんが作ってくれた弁当を食べた後、職員室に用があったその帰りだ。
一階から二階に上がる階段の辺りには陰になる部分があり、そこで会話をしている男女の姿が目に入った。
「いい加減にしてくれませんか? 正直迷惑なんですけど」
「それなら話を聞いてくれるだけでも良いだろ? わざわざここまで来て声を掛けたってんだからさ」
「だからそれが必要ないって言ってるんですよ」
明らかにめんどくさい雰囲気を放っているものの、俺は見過ごせなかった。
何故ならその言い合いをしている片方が由愛さんだったからだ――相手は俺の一つ上の先輩で由愛さんが逃げないよう、腕を突き出して逃げ道を塞いでいる。
「……あ」
なんにせよこんな場面を目撃しただけでなく、迷惑そうにしている由愛さんを見た瞬間に助けに入ることは確定事項だった。
でもそれ以上に俺の目に留まったのは由愛さんの手が震えていたこと……気丈にしながらも、どこか怖がっているのが分かったんだ――俺は即座に二人の間に割って入り、由愛さんを背中に隠した。
「お兄ちゃん?」
「おう。お兄ちゃんだ」
おや、先輩呼びがお兄ちゃんになってるの可愛いな!
こんな状況だと言うのに呑気なものだが、俺はどうやらシスコンの才能があるらしく、出来たばかりの妹である彼女を守るためならすぐに体が動くようだ。
「なんだよお前は」
「どうもっす先輩。取り敢えずこの子が嫌がってるんで止めてもらっていいすか」
「はぁ?」
明らかに邪魔者が現れたと言わんばかりに睨みつけてくる先輩を逆に睨み返す。
今の俺はシスコンパワーで無敵だと意思を強く持っているせいか、先輩が一歩退くように俺から距離を取る。
俺は畳みかけるように言葉を続けた。
「どんな内容の話をしていたのかは知りませんけど、この子が嫌がっているのが分かったので割って入りました」
「別に嫌がっては――」
「嫌だよ。ずっとそう言ってるのに自分の話ばかりして!」
「っ……」
チェックメイト……だな。
先輩は小さく舌打ちをした後、俺を強く睨みつけてから去って行った。
「……ふぅ」
軽く息を吐くと背中に軽い衝撃が走った。
「先輩……ありがと」
「良いってことよ。偶然だったけど目撃出来て良かった」
「……えへへ♪」
嬉しそうに笑った由愛さんはそっと背中を離れ、俺の正面に移動し顔を見上げる。
チラッと見た彼女の手の震えは無くなっており、俺を見つめる笑顔に強がる様子がないのも分かってまずは一安心だ。
「ちょっと友達が傍に居ない時だったの……誰か見ても知らんぷりしてさ」
「そっか」
そいつは酷いな……と言いたかったけど、面倒ごとに首を突っ込みたくないという考えも理解出来るので、今はただ俺が彼女を助けることが出来たのを喜ぼう。
「また……助けてくれたね?」
「結果的にはそうなったけど……ははっ、もしかしたら由愛さんとか涼香さんに何かあったら察知するのかもしれないな!」
なんて、ちょっとクサい台詞を口にしてしまった。
由愛さんの反応が気になったが、彼女はジッと俺を見つめたまま……頬を赤くし、俺を見つめる彼女の眼差しはやっぱり優しい。
吸い込まれそうだと……そう思った時だった。
「……やっぱり、私たちは繋がってるんだよ。どんな時だって、何があっても私たちは分かる……先輩は分かってくれるんだ」
「由愛さん?」
「先輩は……私たちをずっと見てくれているんだ」
ボソボソっと由愛さんが呟く。
ある程度は聞き取れたがジッと俺を見つめながらの言葉だったのが少し怖かった。
「ほら、何もない内に教室に帰るんだ」
「うん。本当にありがと先輩♪」
「おうよ」
それから由愛さんと別れたけど……やっぱり先輩よりお兄ちゃんの方が良いなぁ。
当然のようにそう思うのだった。
【あとがき】
ヤンデレ書くの楽しぃ!!
投稿から一週間経ちましたが、これからも本作をよろしくお願いします!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます