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食堂の空いている席で、理子が作ってくれたお弁当箱を開ける。

たまに作ってくれるお弁当は可愛く作ってくれているけれど、今日は茶色い中身のお弁当。




婚約者の為に作ったであろうお弁当を、多めに作ってみんなに持たせてくれたのだと分かる。




「企画部にずっといたしね・・・。

人事部に異動になって元気がないのがバレてたかな・・・。」




それでお弁当を作ってくれたのかもと思うと、やっぱり破壊力抜群に可愛い我が娘を思い浮かべて自然と笑顔になる。

そして、自然と泣きたくもなる。




両手を合わせてから、理子のお弁当を食べようとした。




食べようとしたその時・・・




私の目の前の席にドカッと座られ・・・




見てみると、悪ガキだった。




悪ガキは平然とした顔で私のことを見てくる。

なんなら、爽やかに笑いながら見てくる。




その胡散臭い笑顔を睨み付けながら口を開く。




「あんた、良い加減にしなさいよ。

あの変な上司に変な影響受けてるからね?」




「あの人のこと、僕凄い好きなんっすよね~。」




「好きなのは別に良いけど、自分の人生まで利用されようとしてるのは分かるでしょ?

私と結婚なんてあり得ないでしょ。

若くて可愛い彼女を嫁にしなさいよ。」




「僕が結婚したいのは、黒住さんだけですからね!」




胡散臭い笑顔でそう言って、悪ガキもお弁当箱を開けた。

そして、手作りのお弁当を見下ろして嬉しそうな顔をしている。

凄く、嬉しそうな顔をしている。




そんな顔を見て、私も自然と笑顔になる。




自然と笑顔になっていた時・・・




「黒住さん、お疲れ様で~す!!」




と、レイラと希奈がトレーを持って目の前で挨拶をしてきた。




「お疲れ様。」




そんな2人に返事をして、その顔をよく見る。

目の奥がギラギラとしているから。

この顔を、私はよく知っている。

攻撃する者の目だから、知っている。




その顔を見詰めながら、先手を打とうとしてくる2人を待った。




「黒住さんって、凄いですよね~!!」




「8歳も下の男の子になんて、私も尊敬ですよ!!」




そんなことを大きな声で言い出して、食堂にいる人達がこっちを見てきたのが分かる。




「先週の金曜日、黒住さんの歓迎会の後~・・・。

2人して、どこに行ったんですか~?」




レイラがそう言って、それには流石に焦る。




「私達、噂で聞いたんですけど・・・ビックリしちゃって!!ね~??」




レイラと希奈が顔を見合わせて笑っている。

目の奥をギラギラとさせたまま、笑っている。




「噂は噂でしょ・・・?

私はいつも変な噂をされるから・・・。

大卒しか新卒は採用されないのに、私は中卒でもあったし・・・。

親戚のツテで入れて貰っただけなんだけどね・・・。」




私がそう言うと、2人は笑っているのに笑っていない顔で口を開いた。




「じゃあ~!!この男の子と2人でホテルに入ったのも、親戚のツテですか~?」




そう、口を開いた・・・。




2人の言葉で、食堂が嫌な空気で静かになる。

静かになり、多くの視線を感じる。




そんな中、またレイラが口を開く。




その顔を私は見詰める。




気を引き締めながら、見詰める。




「てか、2人ともお弁当箱の中身一緒じゃないですか!?」




「・・・え、本当だ!!え!?」




「32歳のシングル子持ちの黒住さん、本当に尊敬です~!!

すっっっごくモテるし、どうしたらそんなにモテるのか私にも教えてくださいよ~!!」




レイラがそう言ったのを見てから、私は口を開いた。

口を開こうとした・・・




そしたら、いつの間にか3人の男性社員が近付いてきていて・・・。




「君達さ、まだ若いから分からないかもしれないけど、黒住さん凄く魅力的だからね?」




「しかも、前の旦那さんの連れ子でもなかったんでしょ?

育ててた子ども達って。

今凄い話題になってるけど。」




「前の旦那さんの子どもだったとしても、高校生だった黒住さんが育ててたなんて凄いことだと思うよ。」




「俺が入社した時、黒住さんの方が年下だったけど凄い仕事も出来て、なのに謙虚で包容力もあって、魅力しかなかったからね?」




そんなことを男性社員達が言い始めてしまい、それには苦笑いしかない。

ここで私に気に入られようと思っているのか何なのか・・・。

そう思わずにはいられないくらいで・・・。




そう思っていると、1人の男性社員が私の方を見てきた。




「黒住さん、こんなに若い子を選んだのか・・・。

黒住さんって面倒見凄く良いから、年下の方が良かったのかな。

残念だけど、おめでとう。」




その男性社員に続き、他の男性社員からも“おめでとう”なんて言われてしまい・・・。

更に、食堂にいる人達も“おめでとうございます!”なんて言い出して・・・。




私はそれに笑いなら立ち上がる。




みんなからの先手を全て受けた後に、口を開いた。




大きく息を吸って、口を開いた。




目の前に座る悪ガキを指差しながら、口を開いた。




「これ、私の息子。

この子が小学校2年生の時から、私はこの子の“お母さん”。」




そう、口を開き・・・




目の前に座る悪ガキを見下ろした。




“守る”なんて言ったのに一切何も言わず、満足そうに笑っている悪ガキを見下ろし口を開いた。




「光一も何か言いなさいよ、この悪ガキのマザコン男が!!」




そう言って光一に叫ぶと、光一は大笑いをしていた・・・。

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