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驚きながら天野さんを見る。

でも、すぐに笑った・・・。

笑った口からは乾いた笑い声しか出てこなかった。




「そういうこと・・・。」




小さく呟きながら、私は立ち上がった。




「私を企画部に戻して。」




天野さんを睨み付けながらそう言った。




おかしいと思っていた。

企画部にしかいなかった私が何故人事部に配属されたのか。




おかしいと思っていた。

この悪ガキが、あんな理由があるとはいえ何故私にセックスをしてきたのか。




「利用しないで。

私の人生よりも何よりも、この子の人生まで利用しないで。

この子の人生は破壊しないで。」




悪ガキの頭にポンッと手を乗せながら天野さんを睨んだ。




そして、口を開く。




「“雷(かみなり)”だかなんだか知らないけどね、余計なことをしてみなさい。

あんたも奥さんも、子どもだって、私は一生恨んでやるから。」




そんな最悪なことを、言う。




どんな最悪なことでも、言う。




守る為に、戦う・・・。




「私は、死神。

私は・・・本当の意味でも、死神なの。

嘘だと思うなら、私のことを調べてみなさい。

社内だけじゃなく、社外のことまでも。」







ミーティングルームを出た後、廊下を早足で歩く。

色んな社員から笑顔で挨拶をされたけれど、全てを無視して歩く。




そして、階段を駆け上がり・・・




1番上の階へ・・・。




会長室にノックをせずに入った・・・。




「渡(わたる)!!

私を企画部に戻してよ!!」




会長の第一秘書、岩渕渡。

社宅の隣の部屋に住む、私のもう1つの家族。

その父親である渡にそう叫んだ。




“おじいちゃん”は不在で、渡が忙しそうにデスクで仕事をしている。

社長を退任して数年、まだまだ会長として実権がある“おじいちゃん”。

その第一秘書の渡は今でも多忙。




私の顔も見ることなく口を開く。




「桃子の異動は、俺の力じゃないから無理だな。

天野さんだろ、天野さん!!

今回は全てを天野さんに託してるよ、会長!!」




「“おじいちゃん”、老眼でしょ!?

もう目見えてないんじゃないの!?

何あの人!?最悪なんだけど!!」




“お母さん”の顔ではなく、“桃子”の顔で渡に愚痴る。




「天野さん、何だって?」




「長峰と宝田だけじゃなくて、今度は私を結婚させようとしてきてる!!」




「桃子を?何でだよ?」




「・・・あの悪ガキと私を!!

結婚させようとしてきてる!!」




私がそう叫ぶと、やっと渡が顔を上げた。




「それは・・・俺にも考え付かなかった。

いや、俺だからこそ考え付かなかった。」




「それが当たり前だから!!

どこの世界に“お母さん”が・・・」




そこまで言って、言葉を切った。




そんな私を渡が笑いながら見てくる。




「派閥が混乱してる間に、桃子という絶対的な存在を上に置くのか。

桃子に試合の審判をさせる為に。」




「そんなことしたくないから!!

審判になんてなりたくないから!!

死神の私がそんなポジションになったら、それはそれで反乱が起きる!!」




私がそう叫ぶと、渡はジッと私のことを見てきた。




「それよりも、あいつと結婚するつもりはないのか?」




「バカなこと言わないでよ・・・。」




頭を片手で抱えながら会長室のソファーに座った。




「バカなこと言わないでよ・・・。」




もう1度そう呟く、渡は小さく笑った。




「案としては良い案だけどな。

これ以上にないくらいの案だけどな。」




「バカなこと言わないでよ・・・。」




「天野さん、名前のとおり“雷(かみなり)”みたいな頭持ってるよな。

天野雷(らい)。」




「本当にそれ・・・。

厄介すぎて、関わりたくなかった・・・。」




「それは難しいだろ、桃子の場合は。」




「マジで・・・最悪・・・。」




片手ではなくて両手で頭を抱え、大きな溜め息を吐いた。




それから勢い良く立ち上がる。




「よし・・・、行きますか。」




「どこに?」




「お昼ご飯!

理子がお弁当作ってくれたんだよね~!」




「俺にもくれたよ。」




渡が嬉しそうな顔をしてお弁当箱を掲げた。




「うちらの娘達、真理も理子も可愛すぎるよね。

客観的に見ても1番可愛い。」




「息子も可愛いだろ、息子も。」




そう言われ、私は苦笑いになる。




「ソウデスネ・・・。」




「なんでカタコトなんだよ!!」




渡と笑い合い、少し軽くなった気持ちで会長室を後にした。

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