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「相変わらず極上に良い女ですね、黒住さん。」




月曜日の人事部のミーティング。

社内組織の構築・再編、人材育成担当の集中プロジェクト担当者のみが参加するミーティング。




私が席に座るとすぐに、プロジェクトリーダーの天野さんが言ってきた。




「それはありがとうございます。

でも、奥様に悪いので心の中で呟いてくださいね。」




「俺の奥さんも黒住さんを見た時に言ってたので、何の問題もないっすよ。」




天野さんの言葉に、プロジェクトチームの3人も笑っていた。

その中の1人、悪ガキも・・・。




「黒住さんも集中プロジェクトチームに加われたので、色々と意見言ってくださいね。

社内のことは黒住さんの方がより分かっているでしょうし。」




天野さんからそう言われ、私は返事をした。

先週の月曜日は挨拶と、この集中プロジェクトの説明をされて終わったミーティング。

今回から私も加わり本格的に動き出すことになる。




気を引き締めながら天野さんを見詰めると、天野さんは破壊力抜群に男らしい顔をしながら私のことを面白そうに笑い見てくる。




「黒住さん、どうぞ。」




チームの若い女の子、日下部さんが私に資料を渡してくれた。

お礼を言って資料に目を落とすと・・・




そこに書いてあった1つの項目を見て目を見開いた。




そこに書いてあったのは・・・




書いてあったのは・・・




「あの2人、結婚してどうなった?

日下部。」




天野さんが日下部さんに聞くと、日下部さんは口を開いた。




「須崎社長と板東社長の派閥、動揺していますね。」




「だろうな、犬猿の仲の代表であるあの2人が結婚すれば動揺するだろ。

それぞれの社長の第二秘書だしな。」




そんな言葉に、私は驚くしかない・・・。




「色々と意見を言っていいということでしたので、よろしいですか?」




私が手を上げると、天野さんが面白そうな顔で頷いた。




「長峰と宝田は、このプロジェクトの1つで結婚したということですか?」




「そうだな、結婚して貰った。

新社長が就任した後の大事な時期に、社内での派閥闘争なんてしやがってる奴らが多すぎたからな。」




「・・・もしかして、本当に入籍はしていないんですか?」




「してる、疑う奴がいるだろうしな。」




「長峰と宝田の人生のことは無視ですか・・・?

会社の派閥闘争を混乱させる為に、長峰と宝田の結婚という・・・人生で上位となるようなイベントを利用したというこですか?」




「そうだな、本人達からの了承は得ている。」




天野さんが私を鋭く見詰めながらそう言ってくる。

そんな、長峰と宝田の人生を破壊したかのようなことを、平然と言ってくる。




それには我慢などせず、私は口を開いた。




口を、開こうとした。




でも、私よりも先に・・・




「会長からもOKが出てる。」




そう、悪ガキが言って・・・。




私は更に驚きながら悪ガキを見る・・・。




「会長が・・・?」




「そもそも、会長はそれも狙ってあの2人をそれぞれの社長の第二秘書につけた。

どっちの社長も有能だからな、2人で切磋琢磨して会社を盛り上げて貰いたいと思った。

なのに、周りが足を引っ張りまくって社内での闘争が激化してるからな。」




それは私でも知っているので、頷く。

企画部にいる時も、その派閥同士の調整には余計な労力を使っていたから。




でも・・・




「お互いに意識し合い、時には戦い合い、それで会社を盛り上げていったのは確かですけどね。」




私がそう呟くと、悪ガキも頷いた。




「良い試合をしていた、社内ではな。

そして社外では闘争を仕掛けていく。

それが松居会長が理想とした会社の在り方だった。

でも、今は社内でも闘争になってる。

試合ではなく、闘争に。」




だからといって、長峰と宝田を・・・。

私の可愛い後輩を・・・。




そう思うけれど、会長もOKを出した・・・。




松居会長とは、私の“おじいちゃん”でもある。

光一と理子の血の繋がった祖父。

光一と理子のお母さんのお父さんが、松居会長。




“おじいちゃん”は、見える・・・。

どう説明をしたら良いのかは分からないけれど、見える・・・。

人が何を持っているのかが、見える・・・。




多くの人は持っていないそうなのだけど、たまに持っている人がいる・・・。

この胸に、“何か”を持っている人がいる・・・。




そんなおじいちゃんがOKを出したということは、私が口出しをすることではないと分かった。




口を結ぶと、天野さんが私のことを面白そうな顔で笑いながら見てくる。




そして、口を開いた・・・。




「死神。」




そう、口を開いた・・・。




それには苦笑いをする。




「死神と呼ばれていますね、私は。」




「会長が黒住さんを攻撃してくる奴らを再起不能にしてるからな。

手に負えなかった自分の孫2人を黒住さんが母親になって育ててくれたからな。

それは再起不能になるまで攻撃するだろうな。」




「完全に私情ですけどね。」




「そうでもないだろ、キッカケになっただけで。

会長が全員の採用に関わってるわけじゃねーし、こんなにデカい会社だと色んな奴がいるからな。

黒住さんのことをキッカケとして、再起不能にしただけだろ。」




天野さんがそう言いながら、鋭い目で私のことを見詰めてくる・・・。




見詰め続けてくる・・・。




そして、言った・・・。




「死神に、ウェディングドレスを。」




そう、言った・・・。

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