第9話 胡蝶の夢 Scene3
鞄から鍵を取り出そうとするがビニール袋が邪魔してなかなか取り出せず、玄関前でガサガサとモタツイていると。
ガチャッ。
『え、』
玄関のドアが内側から開けられ玄関先に影が写し出される。
「お邪魔致しました。遅い時間にも関わらず相談にのってもらえてとても助かります。それでは宜しくお願い致します。」
知らない女性が深々と頭を下げる姿が伺えた。
俺は驚き反射的に隠れてしまい、まるで覗き見する様な格好になってしまった。
「安心して!今日中には必ず向かわせるから!きっと大丈夫よ。」
応対しているのは、うちの母だとわかった。
「ありがとう。」 と告げると、女性はドアを閉め神社の階段を降りて行った。
何だったたのか、とても神妙な顔つきをしていた。
女性が見えなくなることを確認した後、俺も家に入ろうとドアノブを握る。
何となくゆっくりと玄関のドアを開けると入ってすぐの所で、だいだらと母さんが何やら真剣に話し込んでいた。
珍しい組み合わせに一瞬戸惑ったが、2人はまだこちらに気づいて無いようだった。
『どうかしたのか?』
声をかけると、同時に勢い良く振り向いた。
「あっ、とおる。お帰りなさい、待ってたのよ。実はあなたに、、、、」
「おっそーーい!帰宅部が帰宅せんで、どこをほっつき歩いとったんじゃ。」
気づかれた途端、2人同時に話し出す。
『何事?』
2人の反応に困惑気味になる。
「仕事じゃ!すぐ準備せい」
だいだらは、一方的に告げる。
いきなりの事で一旦、母さんの方へ視線を送る。
「とおる、お願い。」
母さんのこんな困った顔を見たのはいつ以来だろう。
正直、状況は全く飲み込めていなかったが俺は強く頷く。
『とりあえず、分かった。すぐ準備する。』
「ところで、とおるよ。お主こんな時間までどこで何しとったんじゃ?帰宅部のエースが聞いて呆れるのぉ」
『はぁ? 待てだいだら。お前が昨日駅前のシュークリームを買ってこいって言ったんだが?』
だいだらはすぐに、思い出した様に。
「そうじゃった、そうじゃった。もちろん覚えておるぞ。」
(調子の良いヤツめ・・・・・)
「それじゃあ、とおるよ。お主のそのぶら下げとる袋は駅前のシュークリーム屋さんのものじゃな!」
『ああ、それなんだが、、、、』
「いかんっ。こうしてはおれん!とおるや、わざわざ買ってきてもらって申し訳ないが一旦それは、冷蔵庫にでも仕舞っておいてくれ。仕事終わりのご褒美とでもしておこうかの!お主も自分の分くらいは余計に買ってあるんじゃろ。急いで準備するんじゃ!」
んーーー。一瞬悩んだが、買ってきたそれを一旦冷蔵庫に仕舞うことにして自室に向かい準備することにした。
程なくして準備を整え、だいだらと共に家を出た。
家を出る際、母さんから「無理だけはしないでね」と心配混じりの言葉を受け取った。
『今日は自転車じゃ無くて良いのか?』
神社の階段を下り終え少し歩いたところで、だいだらに確認する。
「なあに、今回は歩いて行ける距離だから安心せぇ。じゃが、のんびりとはいかんゆえ、腹ごなしの早歩きと行こうかの。遅れるで無いぞ!」
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
10分程歩いた時には、俺はだいだらを肩ぐるましていた。
『おい お前、腹ごなしに歩くんじゃなかったのか?』
「・・・・・・・・・・」
ここからだと、表情を伺え無いがとりあえず完全に無視されたことだけは分かった。
そこから、数十メートル程歩いたところで静止がかかる。
「おぉ、止まれ止まれ。ここじゃ」
急な静止に、多少よろめいたが何とか堪えることができた。
だいだらを肩から降ろすと、何やら手にはA4サイズの紙を握っていた。どうやら、俺の上で母さんが書いたであろう手書きの地図を見て場所の再確認でもしていたのだろう。
たしかに道中、細い小道や民家の隙間を縫うような道も有り実際自転車ではかなり遠周りになっていと思う。
だいだらは、手製の地図と思しき紙を胸元に突っ込む。
そして俺たちは、対象の建物と相対した。
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