第8話 胡蝶の夢 Scene2

日はまたぎ週末の金曜日。

学校の昼休み。

サッカーボール片手にグラウンドに向かう者、人気者の周りに集まり談笑する者、各々が仲良いグループに別れては、悠々自適に過ごしている。


そんな中、俺の昼食後のルーティーンはいたってシンプルで、イヤホンを装着して机に突っ伏し昼寝をするか、窓の外の景色を眺めるかしている。

非常に省エネ的で素晴らしいとさえ思っている。


自慢じゃないが、高校に入学して半年ほど経つが、未だクラスメイトの大半の顔と名前が一致していない。

その点については、自分でも少しマズいと感じる時がある。


別に人が嫌いだとかそういう訳では無いのだが、ただ言い訳をするなら、高校に入学して間もなくして16歳の誕生日を迎えた俺は、だいだらの神薙として正式に拝命された。

神事や仕事で実際に忙しく、あまり他人と関わろうとはしてこなかった。

別に寂しいと思った事は無いし、一人でいること自体、気楽で案外に好きだ。



チャイムが鳴り午後の授業が始まる。


授業を終え放課後。

帰宅部の俺はすぐに帰り支度をして駐輪場に向かう

う。

昨日、アイスキャンディーの一件で機嫌を損ねてしまったうちの神様に駅前のシュークリームを買ってこいと半ば強引に約束させられたのだ。

買って来なければ神罰を降すぞ。と脅し付きで。

やむなく駅前まで自転車を飛ばすハメになってしまったのだ。


しかし、肝心のどこの店のシュークリームかを伝えられていなかったので、いざ駅前には到着したが出鼻から途方にくれることになった。


駅前の商店街には、なん店舗か洋菓子店があり、それなりに人が列を作り繁盛しているように見える。


久しぶり立ち寄ったこともあり、商店街には知らない間に雑貨屋に靴屋、某有名なファストファッション店も軒を並べていた。

駅前と言うに相応しい発展ぶりに少し驚き感じる。


時間もまだ夕方、お使いがてらに駅前のショップをいくつか廻ってみることにした。

こういった探索はなかなか、見る物が新鮮で楽しく普段興味の無い物にまで目がいってしまう。


−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−


一通り駅前探索を終え、最後に某有名な古本屋に立ち寄り、以前から気になっていた文庫本を立ち読み

し久々に充実した学生らしい放課後を堪能した。


気付けば、駅前に設置されている時計台の短針は6時を回っていた。

帰宅するサラリーマンの姿もチラホラ増えてくる時間帯だ。


俺もそろそろと、帰路につくことにした。

特に何か買った訳では無かったが、こういったウィンドウショッピングも案外楽しかった。


(月イチくらいなら、また来るのも有りだな)


自転車にまたがり、数百メートル程進み一旦信号で停止していると、先に止まっていた女子高生二人組が、たい焼き片手に談笑していた。


たい焼きの香ばしい生地の香りが鼻孔を刺激する。


その時。



とおるに電流走る。


『だいだらのシュークリーム・・・・、』


何故忘れてたいたのか。何のため駅前まで自転車を走らせて来たのか。

記憶がフラッシュバックする。



勢い良く自転車を反転させペダルに足をかける。


ちょうど待っていた信号機が、赤から青に色を変えると同時に走り出す。信号機と反対方向へ。



再び駅前に到着した俺は、迷わず洋菓子店に向かう。

が時すでに遅し。


店先の看板には、【OPEN】から【CLOSE】と

立て札が返され、窓から覗き込むと当然店内には客の姿は無く店員が後片付けを初めていた。


『やっちまった・・・。』


残りの店舗も廻ってみたが皆同様に店じまいを始めていた。


『こりゃ、神罰確定だな。足でも舐めれば許してもらえるだろうか・・・』


何か良い突破口は無いかと辺りを見回し考える。

両手の人差し指をペロッとひと舐めしてこめかみにを押しあて考える。


夕陽は沈み、だんだん夜がやってきてコンビニの光が眩しさを増していた。


(コンビニ・・・・・・・)



−−−−−−−−−−−−−−−−−−−



その後、自転車を飛ばして家に着いた頃に7時半過ぎになっていた。





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