第7話 胡蝶の夢 Scene1
「それではニュースの後は、皆さんも見ている夢にまつわる特集です。本日は専門家も交えて明晰夢について解説していこうと思います。西里大学名誉教授、、、、」
今日は神事も無く、学校から帰ってきた俺はリビングのソファーに深く腰掛け、なんのけなしに夕方のニュース番組を眺めていた。
特にニュースに興味が有るわけではないが、こういった何も考えずぼーとする時間は案外に心地良い。
これが木曜日では無く金曜日の夕方なら文句無しなのに、あと一日学校に行かなければならないと考えるとめんどくさくて仕方がない。
でもまぁ、こうして夕方のニュースを見れるのも帰宅部の特権なのだろう。
世に言う一般的な高校生はこの時間、汗水垂らし部活やバイトに勤しんでいるかと思うと、この時間(ゴールデンタイム)に、底しれぬ背徳感を覚えついついほくそ笑んでしまう。
『フフッ。フハハハ、、、、、はぁ。』
「何一人で笑っとるんじゃ。」
ビクッ。と反射で背筋が跳ねる。背後に視線を向けると、そこにはワンピース姿でアイスキャンディーを咥えた、だいだらが蔑む様な目でこちら覗いていた。
ちょうどソファーの背もたれと同じくらいの目線だ。
くそっ。感知出来なかなった。
「おぬし、ニュース番組に笑いのツボを見出すとは存外に変態じゃのぉ。だが安心せい、感性は人それぞれだからのぉ、心配するな。・・・・・・・・・・・・あと、まぁ、なんだ。ニュースに載る様な事はするでないぞ。」
『お前、俺を何だと思ってんだよ。』
だいだらは、神事や祈祷が無い時は本殿から出てきてはこうして家の中をウロウロしていることが多い。
傍から見ると普通の人間の女の子にしか見えないが、先日の、異形の怪異の一件で見せた結界や言霊などの神業(かみわざ)を目の当たりにするとそのギャップに何とも言えない気持ちになる。
俺は上半身のみ反転して、ソファーの背もたれにアゴを載せ、だいだらと相対する。
『ところで、だいだらー。お前、本職はだいだらぼっちなんだろ?』
本職の表現で正解なのか発した後に疑問を感じたが
そのまま続けた。
だいだらはアイスキャンディーを咥えながら、
「ほぉだけろぉー。」と何を今更と、気だるそうに答える。
『土地とか山とか動かしたりはできないの?なんか国造りの神様って言ったら、そうやって町の発展に貢献するイメージがあるんだけど。』
自分の中で、だいだらぼっちと言ったら力士の様な巨人が山をぐいぐいと押してる絵が印象的だった。
ちゅぽっ。とアイスキャンディーを口から離すと、先端を俺に向け語気を強める。
「バカモン。ワシを誰だと思っておる。国造りの神、だいだらぼっちじゃぞ!土地だの山だの動かすなど、余裕じゃ余裕のよっちゃんに決まっておろう。」
(おおぉ、まじか。)
腕を組み、昔を思い出す様に語りだした。
「昔はのぉ。日当たりの悪く痩せた土地あれば山を動かし、干魃に苦しむ村があれば夜な夜なこっそり、川の流れを変えてやったもんじゃ。それはそれは、感謝され崇め奉られたものじゃ。全国探せば巨人神話などいくらでも出てくるじゃろうて」
俺は目を細めるて、
『巨人じゃねぇじゃん・・・・。』
ピクッとだいだらのアホ毛が揺れる。
「はい、それハラスメント〜。勝手に当時の人間が巨人を想像しただけだし、それイメージハラスメントだしー。イメハラだし。昔からおぬしら人間は、ワシを勝手に巨人の大男と決めつけおってからに・・・」
恐らく本人も昔から気にしていたのだろう、変なスイッチを押してしまった。
『まあまあ、落ち着け。悪かった悪かった。それより、アイス垂れそうだぞ』
「あっ、ホントじゃ。危ない危ない」と下に垂れそうになっていた所をすくい舐める。
『それで、山とかホントに動かしてたの?』
「無論じゃ。山だけでのうて、物体であれば何でも動かせるぞ。」
(まじかよ。それって、、、)
「先ほども言うたが、昔は巨人信仰は広い地域に存在しての、そりゃもうチヤホヤされとったわい。供物もザックザクでモテモテじゃった。」
「じゃが・・・」
だいだらのこめかみ付近がピクリと動くのがわかった。
「じゃが、技術の発展を機に機械を使った山地開拓、本格的な貯水ダムの建設などなど、いつしかお主らは不自由な環境を自分たちの手で開拓し住み良い様に変える力を身に着けていきよった。最初の頃は、なんかやっとるなぁ〜、健気に頑張っとるなぁ〜程度にしか思っとらんかった。」
「そしたら、どうだ。見る見る内に、町のインフラ整備は進み、人々は何の不自由も喘ぐこと無く生活が出来るようになってるでは無いか!当然、干魃なんてそうそうに起きんしのぉ!」
小さい身体をジタバタさせて、語気を強め昔話に熱が入る。
(いや、良いことじゃん・・・・何か怒ってない?コイツ。)
「あげく、山を削って海の一部を埋め立てし陸地を作った時はそりゃもう、肝を冷やしたぞ!もうそれ国造りじゃん。とまで思ったわっ。」
「まぁ、なんじゃ、要はワシが言いたい事はじゃなぁ。」
『いや分かった、だいだら。もう大丈夫、、』
外見のみならず、内面の小ささも垣間見れたところで一旦静止を促す。というか見てられない。
「ワシの仕事が無うなったんじゃ!お願い先が、ワシら神から国や地方自治体に変わってしもうたんじゃ!このボケナスー。」
(なるほど、昨今の機械化よる人間の仕事の減少は、よもや人以外にも影響が出ていたとは・・・・)
『なんかすまん。嫌なこと思い出させて・・・・でもまぁ今は、うちの神社の御神体としてしっかり神様活動してるしさ、それなりに参拝者も来てくれる訳だし良いんじゃないか?少なくともここに住んでる人たちはお前を必要としてると思うよ』
俺はこの哀れな神に、珍しくフォローを入れることにした。
だいだらは、腕を組み一瞬考える素振りをすると。
「うむ。まぁそうか。たしかにそうじゃな!お主の言う通りじゃ。たまには良いこと言うのぉとおるよ!それでこそ、我が神薙じゃ!」
(チョロいなぁ)
『話は変わるがアイスキャンディーってなかなか溶けない物だな』
一度垂れそうにはなったものの、だいだらが地団駄
を踏んでる間、未だスティック状を保っていることに感心する。
『なぁ、だいだら』
「なんじゃ?」
『アイスキャンディーの先端を俺に向けてみて』
「ん?こうか?」
『うんそうそう・・・・・・・・・・・パクッ』
「なっ!!」
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