第6話 初めましてだいだら様 Scene6
刀を右手に持ち脱力する。集中を高める。
眼前の獣と視線を合わす。
こちらの状況を察知したのか怪物は、唸り声を上げ威嚇を強めた。
一触即発の状況で、獣の身体が未だ予備動作をする中、俺はより早く動き出す。
瞬間、相手の間合いに入る。
だいだらに釘を打たれ、霊刀の使用を制限された俺はすぐには刀を振らず、核を見つけるため回避と、目に集中する。
怪物は、自分の間合いに入った俺に容赦なく鋭い爪を
振り下ろす。
身体を左右に屈め、爪を掻い潜る。
(どこだ、必ず核があるはずだ。)
ガルルルルル。爪を避けた瞬間を狙うように噛みついてくる。
『うおっと。あぶねぇ。』
危なく胴体にガブリ一撃くらいそうになる。
噛まれれば噛み跡程度では済まない勢いだ。
『くそっ。』
(集中しろ。もっと集中するんだ。もっと深く。もっともっと深く。相手の動きを予測して先をいけ)
呼吸を深く吸い込むと、全神経を目に集中させる。
視界がスロー映像のようにゆっくりと進む感覚。
意識が時間の追い抜く感覚。
(よく見える。)
怪物の鋭く素早い爪や不意にくる噛み付きも最小の動作で回避し、核を探る。
『見つけた!』
猫の胴体内側左腕付け根付近、体毛で隠れるように黒く脈打つ核を見つけた。
猛攻を繰り出す獣が振りかぶるその一瞬。
すかさず姿勢を低く相手の懐に入り込み、霊刀を下から核に向かい一気に突き上げた。
『これでもくらいやがれ!』
研ぎ澄まされた視界の中で、切っ先が核の真を貫くのを捉えた。
次の瞬間、黒く脈を打っていた核がパリーンっと砕け弾ける。
怪物の動きが止まる。
俺に覆いかぶさる様に脱力するのを感じ、踏ん張る様に足腰に力を入れ衝撃に備えた。
しかし、重みという重みは感じられなかった。
次の瞬間。怪物は全身を光に変え、その光は細かく飛散した。
扇の様に飛散した光の数々は、それぞれ均等に辺りに散らばっていく。
『はぁはぁ。終わった。』
なんとか、だいだらの要望通りに一撃で倒すことに成功した俺は、くたっと尻もちを着き安堵する。
天を仰ぎ呼吸を整えていると。
後ろから、パチパチパチパチと拍手をしながら
「フハハハやるではないかぁ」
と、さながらラスボスの様に現れた。
『ラスボスかよ』
「えっ、ラス?な、なんじゃ?」
『いや、気にするな』
「いやー。ホントに、一撃で倒してみせるとはワシは感心したぞ。とおるよ!」
嬉しそうに、どこか誇らしげに漫勉の笑みで、だいだらは称賛する。
『お前が一撃で仕留めろって言ったんだろぉ、全く。土壇場でああいうパフォーマンスみたいなのは今後はやめてくれ。』
俺は切実にお願いした。
「いやいや。すまんかったの。」
反省しているのか怪しい素振りで答える。
「しかし見てみい。とおる。」
だいだらは、顎をくいっとある方向に向けた。
『ん?』
俺は反射的に、釣られるように視線を向けた。
するとそこには、先ほど飛散した光が玉となって、いくつも浮いてた。
それも凄い数。100や200は近くあるだろうか、低空でフワフワとまるでそれぞれが定位置であるかよようにそこに留まっている。
俺は目を細めるように、その中の一つに目を凝らす。
『犬?』
いや、他の光の玉にも目をやる。
そこには、犬・猫・ウサギ・亀やハムスター、鳥など統一性は無く、数種の動物たちに溢れていた。
それぞれが光の玉となり整地された地面の上を浮遊している。
その光景に呆気を取られていると、ある言葉が浮かんできた。
『ぼち、か』
まるで無表情で自然と口からこぼれる。
『墓地。いや霊園か・・・。』
俺は意識が返ってきたように尋ねる。
『おい、だいだら。ここは、、』
「御明察じゃ。」
言葉の途中で、だいだらは割り込むように発する。
するとそのまま、この場所について説明をしてくれた。
「ここはもともと中規模の動物霊園でのぉ。もう随分と人の手にかかってらんかったそうじゃ。それはもう何年も何十年ものぉ。ずいぶんと昔に管理する者が居なくなってからは、お参りする者も時代と共に減り最後には居なくなってしもうた。誰もかれも忘れてしもた、と言う事じゃ。」
「そこである時、インフラ整備の一環としてここに電波塔を建てる計画が決まった。当然、今の土地所有者にも土地の交渉が入ったであろう。しかし、こんな忘れさられた土地じゃきっと2つ返事で売り払ったんじゃろうよ。」
だいだらはいつから、これらの事情を知っていたのだろうか。自然と疑問が浮かび上がる。
「更に悪いのはここからじゃ。ヤツら、ここに眠る動物たちを無視して工事を始めよったそうじゃ。供養もせずにの。」
『なっ。』
「怒るのも当然じゃて。人間の都合でこんな山中に埋葬され、忘れ去られ、果には勝手に墓荒らしまでされたらそりゃたまったもんじゃないよのぉ」
「おぬしがさっきまで戦ってとったのは、そんな動物と人とが生んだ成れの果てと言ったところか」
それを聞いて、なんとも言えない気持ちになった。
ここに動物たちを埋葬した当の本人たちは、当然慈しみと愛情を込め霊園という形を選んだんだと思う。しかし、人の命も永遠じゃない。飼い主の死後、子や孫がそれを大切にする保証は何処にもない。
墓とは、一個人の責任を大きく超えて存在なのだと感じた。
その後、だいだらは一帯にいる光の玉である霊魂を自分の近くに呼び込むと鎮魂の詩を歌い天へと返していく。
だいだらに向かい歩く動物達の姿は一切の警戒など無く、まるで飼い主元へ歩み寄るような安らいだ顔に見えた。
その時のだいだらは、まさに神様の様に見えとても綺麗で見惚れてしまった。
俺はそれと同時に今回の霊獣との一戦での、だいだらの言動を振り返っていた。
俺がやると手荒になるからと、霊獣の引き釣り出しを買って出た事、霊刀を出した際にむやみに切りつけず一撃で仕留めろと言ってきた事。
要は、眼の前のコイツらを手荒に扱いたくなかったと言うことか。
全てを終え、辺りに暗闇と静けさが戻る。
「いやー。ご苦労じゃったな!とおるよ!」
あっけらかんとだいだらは、俺の背中をペシペシと叩いて言った。
『おい。お前、そういうバックグラウンドは最初に言えよ。』
だいだらを上から睨みつけるように見下ろす。
だいだらは黙って俺を見上げると、右手を握り締め振りかぶり。
「テヘペロッ」と舌を出して、拳をコツんと頭に当てた。
イラッ。
反射で反対側の頭にゲンコツを入れてしまった。
「あだっ。」
「御神体にゲンコツを入れるとは何事じゃー。とおるのボケー。」
頭を押さえ涙目で訴えかけてくるソレを蔑んだ目で一瞥して言う。
『帰るか』
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