第5話 初めましてだいだら様 Scene5
直ぐに空気が変わる。少しピリついた緊張感。
『来る。』
未だ、感知を緩めていなかった俺は感じ取った。
正面右側の大木の後ろからゆっくりとこちらへ向かって顔を出した。
ガルルルルルゥ。
唸り声を上げ姿を現したそれは、四足歩行の獣だった。
しかしその風貌は俺の知るどの獣とも違い。
耳はウサギ。
顔は犬。
尻尾としなやかな歩行姿勢はまるで猫。
体格は、熊とも思える大きさ。
のそり、のそり、とこちらに向かってくるソレは、
傍から見ると、とてもチグハグな存在に見えた。
『なんだありゃ』
初めて見るソレに、目を見開き呆気を取られる。
「ほほぉ〜。混ざり物の怪異とはやはり珍しいのぉ。見事にくっついておるわ。とおるや、行けるか?」
『問題無い。俺がやる。』
先ほど、邪魔された件もあるため少し語尾を強める。
俺は、唸り声を上げ近よってくる異形な怪物に向かって走り出す。
相手もそれを感知してか、すぐ臨戦態勢をとる。
双方駆け出し、間合いは一気に縮まった。
「ガアァッ」
先に仕掛けてきたのは霊獣、鋭い爪で相手をえぐる様に振り下ろす。
「ヒュッ」
対角を結ぶように振り下ろされた爪をギリギリのところで躱すと、耳もとで風を切る音が相手との距離感を測らせる。
最初こそ、勢いにまかせ飛び出したがまずは相手の出方を探り観察することにシフトする。
四足歩行の動物との戦いは、人間同士と違い野性的で荒々しく思いの外感覚が取りにくかった。
右からの振り下ろされる鋭い爪を躱すと、次は直ぐ様 左から同様な攻撃がノンストップで繰り出される。
少しでも気を抜くと強烈な一撃を受けかねない。
そして、何度かと振り下ろされる爪を躱す内に、気付くと服の何箇所かは裂けていた。
『なるほど、こりゃ良い修行だな』
一旦距離を取ろうと躱しながら後退する。
ガルルルルル。と警戒と威嚇の手を休ませない獣。
特に厄介なのは、猫のしなやかなフットワークから振り下ろされるかぎ爪と、それをかいくぐり間合いを詰めた際に待っている犬の牙。
『くそっ。こめかみに一発入れてやろうと思っていたがなかなか上手くいかないか。』
これじゃ、らちがあかない。
「とおるや!だいぶ苦戦しているようじゃのぉー。なんならまたワシが手伝ってやろうかのー?」
いつの間にか、少し離れた重機の上に座り観戦している、だいだらから協力の申し出という名の煽りを受ける。
イラッ。
『だーかーらー。お前は邪魔するなって言ってんだろ』
煽り態勢の無い俺は、だいだらに向かい叫んだ。
一発当てるという目論見が上手くいかったため多少の八つ当たりも含まれていた。
『お前は、そこで星の数でも数えてろ!だいたいいつもお前は人がやる気になってる時に、、、』
『やばっ』
意識をだいだらに奪われたせいで怪物の振り下ろす爪に回避がワンテンポ遅れてしまった。
ガッッ!
一瞬の隙をつかれ、一撃を受けてしまった。辛うじて身体を捻る事で爪の直撃は避られたが、押し出される格好になり俺は吹き飛ばされと地面を転がる。
だいだらは、ポカーン空けから「あちゃー」と額に手を当てている。
『くっ。しくじったっ』
怪物は一撃入れると、勝ちを確信したように雄叫びを上げこちらに向け身体をしならせる。
トドメの一撃を入れるつもりだろう。
(やっぱ素手じゃ厳しいか・・・)
俺は直ぐ様、態勢を整え叫ぶ。
『あんまり調子に乗るなよ!犬っころ!』
俺は大きく息を吸い込むと、両手を合掌する。
『来いっ【霊刀】!』
合掌の手を離すと同時に左手の表面から、刀の束が姿を現す。
そのまま右手で束を握り一気に引き抜く。
たちまちに、手の平より長刀が出現した。
その長刀は一見。地鉄は深い青黒さを纏い刃文は凪がれる雲のように自由で美しく美術品とも思わせる一振りの刀だった。
これは、小巻透がだいだら授からし力の恩恵。
国造りの神だいだらぼっちの力の欠片。
刃渡りにして、88センチその長い霊刀の名は【鈴鳴】。
突然の霊刀の出現に、怪物は静止しこちらの様子を伺っている。
『仕切り直しだ。犬っころ。』
『行くぞっ』
俺は刀を構え臨戦態勢を取り勢い良く走り出す。
「待てとおる!ストップじゃ!」
だいだらが突如静止を促す声に身体が反応する。
勢いをつけようした手前つまずきそうなった。
『今度はなんだ!』
先ほどの経験から今回は、獣から目を離さずに
だいだらの呼びかけに答える。
「一撃で仕留めてみせい」
だいだらは真剣なおもむきで言う。
『は?!』
「こんな動物一匹相手に、何度も霊刀を振るうなど無粋だとは思わんか。この国造りの神、だいだらぼっちの神薙(かんなぎ)ならその程度やってやれんことなかろうよ」
(むちゃくちゃ言うじゃん、この小さいやつ。)
一瞬の沈黙。
「どうしたぁ。出来んのかぁ?」
「なんなら、ワシが動けんように捕まえてやろうかのぉ?」
イラッ。
『ヤルよ。ヤレば良いんだろ!その代わりもう一切口出しするなよ。・・・・・このロリばばぁ』
最後にボソッと小声で付け足した。
「よう言った!さすがは、とおるじゃ!ワシの神薙じゃ。」
『調子のいいヤツめ。』
頭の中で、過去の教訓を捻り出す。
動物の怪異と相対すること自体初めてじゃない。
たしか、こういった怪異には心臓となる核があったはず。
ここまで異形と化している怪異は初めてだったが基本的な作り、仕組みは変わらないはずだ。
すなわち弱点も一緒と考えていいだろう。
『核を一撃で撃つ』
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