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私がそう答えるとお兄ちゃんが驚いた様子になった。
「焼き肉屋・・・。
お前のアレ見せたのか?
カルビ、白米、カルビ、白米、カルビカルビカルビ、白米白米、カルビカルビ、白米白米白米、のやつ。」
「なにそれ?」
「焼き肉屋に行ってカルビと白米をひたすら食べる、のやつ。
しかも他の奴からカルビを取られないように妨害してくるやつ。」
「見せたよ、だってカルビ食べたいもん。
それなのに向こうもカルビを取ってくるから本気で怒った。」
「カルビを・・・取った・・・?
お前から・・・?カルビを・・・?
どうやって取れるんだよ、すげー動体視力の良い奴だな。」
そんなことを言ってきて、それには苦笑いしてしまった。
「でも、お前のそんな姿見てもガンガン攻めてくれるなら良かったな。
そういう奴とくっついた方がいいぞ。
どんなに作ったところで、段々窮屈になるからな。」
「そういう奴とっていうか・・・。
私は誰とも付き合うとかそういうのはしたくないんだよね・・・。
恋愛って精神が乱れるから嫌だ。」
私が答えるとお兄ちゃんが不思議そうな顔をした。
「恋愛って精神乱れるか?
俺そんな風になったことないけどな。」
「・・・私は精神が振動させられる。
精神が統一されてる時じゃないと良い結果が残せないのに、その精神を振動させられるのは嫌。
嫌だし・・・」
言葉を切ってから、不思議そうな顔をしているお兄ちゃんを見る。
「その振動で私は“女”がなくなる。
元々少ない“女”が、その振動でなくなるんだよね。
私の精神に入って、取られちゃうの。
“女”を取られちゃうんだよね。」
「お前、“女”が少ないからな。」
「そう・・・私、女が少ない。」
少し泣きそうになりながらお兄ちゃんを見ると、お兄ちゃんが珍しく優しい顔で笑ってくれた。
そして、立ち上がって・・・
「牛丼買ってきてやるよ。」
そんな優し過ぎる言葉まで掛けてくれた。
そして・・・
「“女”取られてもいいじゃねーか。
“女”でも何でもない1人の“子”として、それでも好きでいてくれるならそれが幸せだろ。」
そう言って・・・
お兄ちゃんがリビングの扉から出ていった・・・。
小柄な私とは正反対の大きな身体のお兄ちゃん。
そんなお兄ちゃんの後ろ姿が見えなくなってから、お兄ちゃんにも言えなかった言葉を呟く・・・。
「あの人は、私が“凄く可愛い”から好きなんだって・・・。」
この見た目で自分をさらけ出したのは初めてだった。
この見た目があれば、あんなにさらけ出しても“凄く可愛い”と思って貰えるのだと分かった。
分かってしまった・・・。
他の男子には見せたことがなかったから、“可愛い”と言われても“そうなんだ”で終われたけど・・・。
でも、こんなに可愛い見た目だと中身がこんなんでも“凄く可愛い”と思って貰えるらしい・・・。
あの人は、そう思ったらしい・・・。
それに小さく笑いながら、鞄から黒い手鏡を取り出した。
そこには、確かに可愛い女の子が映っている・・・。
そんな可愛い女の子に言った。
「お兄ちゃん、また財布忘れてるね・・・。」
手鏡に映る向こう側、ソファーの上にはお兄ちゃんの財布が残されていた。
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