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「的場さん、絶対に無理しないでね?

うちの会社はそんなブラックなこと本当だったらしないからね?」




人事部の研究職部門の採用担当、米倉先輩が困り顔で笑っている。

それに微笑み返し頷いた。




「でも、派遣さん1人に対応してもらうわけにいかないので、この採用を取りきるまでは私もやります。」




この派遣さんが任されているのは、営業部と経理部の20代の採用。

新卒で入社をして半年。

私は今回が初めての採用活動となる。




その採用活動に、うちの会社の正社員でもない派遣さんがメインで採用活動をしている。




うちの会社は製薬業界で毎年優勝しているような会社で。

それも大昔から、長年ずっと。

製薬業界のレジェンドのようなうちの会社が、こんな破天荒な採用活動をしている。




それに驚きつつも、“攻めてる”と感心もして興奮したのも事実で。




でも・・・




「的場さん、ハーフアップも可愛いね。」




派遣さんが爽やかに笑いながらそんなことを今日も言ってくる。




特に照れた様子もなければ恥ずかしがっている様子もなく。




25歳で派遣社員とはいえ、モテるだろうなという人で。




この人の補佐になりこういうことを言われるのは苦手だった。

今日もその気持ちには気付かれないように微笑み返しておいた。




午後から始まる面接。

今日も派遣さんの隣に座り1人ずつと面接をしていく。




たった10分間の面接。

当たり障りのないフォーマット通りのような面接を派遣さんがしていく。




面接を受けている人には気付かれないように、隣の派遣さんのメモを一瞬だけ把握した。




この人は・・・“✕”と書かれている。

今書いたわけではない。

途中で書いたわけでもない。




この派遣さんは、面接を受けに来た人が扉を入ってきた瞬間にこのメモを書いていく。




“✕”が並んでいるメモ。




まだ始まって数日。

そんなにすぐに採用が決まらないのは分かる。




でも、“○”だけでなく“△”も1つもない。




“✕”だけが並んでいく派遣さんのメモを見て少しだけ悲しい気持ちにもなってくる。




“△”くらい、1つだけでもあればいいのに。




そんなことを思いながら・・・。




でも、“△”では得点にならないことも理解している。




取るなら綺麗な1本を。




“○”か“✕”しかない。




入ったか入らなかったか。




取ったか取らなかったか。




そんな世界。




そんな勝負。




企業の面接だって、そんな対戦なのだと思う。

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