第34話
暗く、どんよりとした空気のなかを、1歩1歩進んでいく。
はじめはいつ騎士に襲われるか分からず、警戒しながら歩いていたが、どうやら城の外に1度でも出た時点で、攻撃対象から外れているらしい。
騎士たちの横を堂々と通っていく。
不気味な静けさに包まれる帝都に、私の下駄の奏でるカラコロという音が響き渡る。
人々は皆一度は振り返るが、構っていられる余裕などないといった感じで、すぐに作業に戻ってしまう。
帝国という機械を動かすための歯車のようだ。
城へ近づくにつれ、すれ違う騎士の数が多くなっていく。
そしてついた城門の前には、多数の騎士がいるようだ。
鉄で出来たよっぽど壊れなさそうな大きな扉。高い城壁の上には騎士たちが弓を持って控えている。
『どうするんですか』
そう、教えた念話魔法でマイヤが聞いてくる。
魔人化した人間は、魔力によって様々な感覚が強化されている。
もちろんそれは聴覚も例外ではない。
この前裏道でこそこそ話していて、騎士が来てしまったのはそれが理由だ。
『突撃する。壁内に入ればそこは敵の本陣だ。何があるか分からない。気を引き締めて』
『はい』
城壁の中に入った瞬間、大量の騎士に囲われるだろう。
魔力吸収は使えない。なんとか倒すしかない。
魔人は死後、放置しておけば魔力が抜けて魔人化していない人の死体と同様になる。
ただ、故意の魔人化であり、常に魔力が供給されているため、おそらく1日ほど放置していればゾンビ化してしまうだろう。
城壁内に入ってからそのタイマーが始まる。
時間は1日。余裕を持って20時間ほどで終わらせたい。
『いくよマイヤ』
『はいっ』
先手必勝。
ブレスレットにためた魔力をふんだんに使い、確実に脳内で詠唱及びイメージを固めていく。
「いけッ!!!」
私の手から放たれたのは、直撃寸前の隕石のように重く熱い巨大な岩だ。
その岩は城門に直撃し、辺りを軽く吹き飛ばして小さなクレーターを作った。
「いくよ!」
身体強化を足に集中して発動し、こちらに向かって襲いかかってくる騎士たちの隙間を縫うように、時にはその上を高く飛び上がって舞うように、一気に城壁内へと入っていく。
それに必死に食らいつくマイヤ。
同じように騎士の隙間をくぐり抜け、2人して城壁内へと侵入できた。
「マイヤ」
「今やります!」
最初の攻撃によって城壁にあいた穴をマイヤが塞ぐ。
その間に、私はあらかじめ魔法で確認しておいた城壁内への入り口を塞いでいく。
これで完全に城壁の中と外で分断できた。
城壁の外では、騎士たちがこちらへ向かって走ってきているのか、鎧の擦れるカチャカチャという音が鳴っている。
……誰一人として声を出していない。非常に気味が悪い。
異変に気がついた壁内の騎士たちがどんどん集まってくる。
魔力として吸収しやすい水、火、風系の魔法は使わない方が良いだろう。
となると、先ほど使ったようにここから先は土系の魔法を使っていく。
「マイヤ、これを使って」
「分かりました!」
アイテムボックスから、
マイヤはそれをノールックで受け取ると、重さを確認するように上から下へと一度振り下ろす。
不気味に静かな辺りに、ヒュンッという風を切る音が響く。
そして剣を軽く握り直して、近づいてきていた騎士の1人の首元に突き刺した。
刺さった首から真っ赤な血が舞う。
剣を引き抜くと、命を失った体は重力に従って倒れていった。
その光景を横目に見ながら、土魔法で剣を作り出す。
ベリネクスから貰った剣も手になじんで使いやすい。それに切れ味も良いし、私の魔力と相性が良い。
ただ、やはり自身で作り出したものに比べれば使いやすさは劣る。
多少の申し訳なさは感じるが、ここで無理に貰った剣を使って傷つくより、自分で作り出した剣を使った方がベリネクスも喜ぶだろう。
私は魔法に長けている。
それはもうご存じだろう。
私が作り出した剣は、私の思考1つで形を変える。
時には片手剣。時には両手剣になり、短剣になる。
さて、目の前に鍵がなくて開かない扉があったとする。
その鍵穴に剣を近づけて少しくにくにするだけであらびっくり。扉は開きます。
とまぁ、使い勝手が良いわけだ。
近づいてきた騎士をバタバタと倒していく。
「やっぱりこの形が使いやすいんだよなぁ」
湾曲している短めの剣の柄をにぎにぎとしながらつぶやく。
曲がっていると、相手と剣との接点が小さくなって少ない力で切れる気がするのだ。
だからこの形を愛用している。
魔法製の刀は便利だ。
血がついても捨てて新しく作り直せば切れ味も良いままだ。
「マイヤ、そっちは大丈夫?」
「大丈夫です。全員片付けました」
流れ作業のように首を狩っていたら、いつの間にか刈り尽くしてしまったらしい。
地面にはたくさんの死体が転がっている。
やはり人が死んでいる光景は辛い。
私が元々いた国が、人の死体なんてまず見ない様な平和な国だったからだろう。
傷ついた者を見るだけで胸がざわつく。吐き気を催す。
でも、ここで吐くわけにはいかない。
湧き上がる胃酸を押さえながらマイヤの方を向く。
「あ!? マイヤ怪我してるじゃん。大丈夫?」
「平気です」
「回復魔法は?」
「……それが、発動しようとすると魔力を吸われてしまって、うまく出来ないんです」
アイテムボックスから椅子を取り出して、そこにマイヤを座らせる。
脇腹に一本刀傷が入っていて、そこから血が垂れている。
肉がえぐれるほどの傷ではないものの、相当痛いはずだ。絶対平気ではない。
試しに回復魔法を発動してみる。
「ほんとだ。できないね」
マイヤが言ったとおり魔力を吸い取られてしまう。
回復魔法は魔力を放出し、空気を介して治療をするものだ。
患部に手を当てれば発動するだろうけど、……きっと痛がるだろう。
方法はあるっちゃあるけど……、まあ、マイヤならいいかな?
いいや、やっちゃおう。怪我を治すためだからね。
「ごめんね」
「っん?!」
マイヤの頬に手を当て、そっと唇を重ねる。
やはり、こういうのは直接魔力を流して回復した方が良い。
マイヤには申し訳ないけど、傷を治すためだと思って我慢してほしい。
ゆっくりと時間を掛け、粘膜を介して確実に回復魔法を傷口に送り込んだ。
「よし。失った血液は回復しないから、これでも飲んどいて」
唇に手の甲を当て、真っ赤に顔を染め上げているマイヤに、アイテムボックスから血液増量剤を取り出して渡す。
脇腹に目をやると、傷は完全に塞がっている。
「ほら、いつまでもふわふわしてないで、早く進むよ」
「だって、だって……、ふぁぁああ……」
「もう! 早く行くよ!」
……ちゃんと説明してからやれば良かった。
思ったよりマイヤは乙女らしい。
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