第35話
城壁内の騎士は皆倒せたと思ったが、どうやら最初に戦ったのは一部でしかなかったらしい。
なんとか城の内部へ侵入したが、時折騎士や貴族が歩いている。
貴族は無視で良さそうだ。城下にいた民のように国の歯車だ。
もうこの国では庶民も貴族も奴隷と等しいのだろう。
見つからないよう、物陰に身を潜めながら進んでいく。
ここで騒ぎを起こして余計な体力を消耗したくはない。
本当は身体迷彩の魔法で姿を消したかったのだが、魔力が吸われてしまい上手く発動できない。
それに、軽い身体強化ならまだしも、迷彩を掛けてしまえば魔人に位置が筒抜けになる可能性がある。
それでは本末転倒だ。
廊下の癖してやけに高い天井には、豪華なシャンデリアがついている。
魔石をろうそく状に加工して光らせているようだ。
壁にはよく分からない絵が飾られていて、床には赤いカーペットが敷いてある。
話だけ聞けば非常に豪華な城だろう。
ただ、実際は違う。
城内は監獄のように薄暗く、不気味な静かに包まれている。
言葉に表せば美しく聞こえる色合いも、どこか
少しでも大きな音を立てれば静かな城内に響き渡り、私たちの居場所が騎士たちにバレてしまう。
かつてない緊張感の元、ゆっくりと進んでいく。
『皇帝の場所は分かる?』
『もうこの先すぐです』
『……やっぱりあの騎士たちに守られてる部屋だよね』
なんとかバレずに進んできた。
私の空間把握能力と、皇帝の位置が分かるというマイヤの力を合わせてなんとかやってきたが、入り口の前にはたくさんの騎士が待機しているようだ。
魔人化しているとは言え、騎士同士のコミュニケーションは取っているのだろうか。
それとも私たちのような侵入者を見据え、元から配置していたのだろうか。
そのどちらが真実かは分からないが、どうやらあの騎士たちを倒さねば皇帝に会うことすら出来ないようだ。
『気合い入れてね』
『分かってます』
戦闘だ。
この戦闘が終わると、おそらく次は皇帝との戦いになる。
できるだけ体力を温存したい。
城門で戦った奴らより強いと思う。城門の奴らは下っ端。こちらはベテランだろう。
それに数が多い。前回と同じくらいか、それより上か。
そんな感じの量だ。
地面を蹴り上げて集団の中に切り込みに行く。
蹴り飛ばし、切り付けて刺し殺すが、騎士共は皆どこか薄気味悪い。
何か言葉を発するのならば人と戦っている気にもなれるのかもしれない。
ただ、一言も話さず淡々と剣を振る騎士たちは、ただの鎧の化け物にしか見えない。
物理攻撃が効くだけありがたいといったところだろう。
静かに戦い、静かにその命を散らす。
完全にお化けの下位互換だ。
淡々と首を狩っていくが、明らかに先ほどの奴らより強い。
チラッと見えるが、マイヤが少々手こずっているらしい。
心配だ。
軽く飛び上がり、両足で騎士共を思いっきり蹴る。
後ろの方へと倒れ込み、雪崩のようになっていく姿を視界から消し、そのままマイヤの方へと飛んでいく。
マイヤは今1対5をやっているらしく、相手の連携に苦しめられているようだ。
その中へ一気に切り込み、1体倒した後にマイヤの腕を掴む。
「一回撤退。細い道に連れ込もう」
「……分かりました」
この無駄に広い所では左右前後から襲われて戦いにくい。
ならば細い廊下に持ち込んでしまえば良いのだ。
囲まれることがないし、後ろをそれぞれに預けておけばひたすらに目の前の的に集中できる。
マイヤを掴み、軽く浮かせる。
そのままガシッとマイヤの体に手を回し、手前に引き込む。
そして体を持ち上げ、足の身体強化を強めて廊下の方へと引き返す。
「怪我は?」
「足に少し」
「分かった」
流れ作業のように傷を癒やし、マイヤの握っていた剣を一度返してもらう。
軽く魔力を入れて剣を回復させる。
マイヤに渡している剣は、私の魔力を入れることで切れ味などが回復する。
私の魔力に適応された魔剣だからだ。
本来私以外の人が使うのは想定されていないが、マイヤは非常に魔力の扱いに長けている。
正直ここまで使いこなせるとは思っていなかった。
非常に要領のいい彼女は、騎士にバレない程度に己の魔力を剣に通し、常に切れ味を強化しているようだった。
おかげで刃こぼれが少ない。
正直彼女の魔法の才能は本物だ。
私は200年鍛練を重ねたからこうなったが、マイヤはまだ16歳というのにここまで魔法を使える。
これが終わったら魔法学校への進学でも薦めよう。ベリネクスに手紙でも出せば良い感じに対応してくれるだろう。
上手くいけば卒業後、王国騎士団くらいなら入れるんじゃないかな。
「来たよ」
「はい!」
おびき寄せるため、敢えて魔力を空気中に放出していた。
案の定たくさんの騎士たちが集まってきたが、道が細いために先ほどのような勢いはない。
「魔法使われたら終わりだからね。自分の身は自分で守る。危なくなったらすぐに言うこと!」
「分かりました!」
もしここで爆発するタイプの魔法でも使われたら2人そろってさようならだ。
私はさようならではないけれど、しばらくして復活したときに騎士に殺され、またしばらくして復活したときに騎士に殺されとリスキル状態になってしまう。
出来れば死にたくないな。
一人一人丁寧に倒していてはきりがないので、魔法で剣の形を変形させながら一気に倒していく。
やはり魔法は便利だ。
岩のように実体を伴うものであれば吸収されずに発動できる。
ただ、地面を通して発動するだとか、そういったことは出来ないらしい。
こういうのは勢いが大事だ。
できるだけ的との接地面が小さくなるように工夫し、勢いをつけて急所にたたきつけていく。
すると、そんなに力を入れていなくても首が飛ぶのだ。
飛んだ首はしばらくして地面に落ち、地面と鎧がぶつかる音が狭い廊下に反響する。
血塗られた地面を動くたび、ちゃぽちゃぽとまるで水たまりでも歩いているかのような音が鳴る。
せっかくきれいな木製の下駄も、いつの間にか真っ赤に塗装されてしまっている。
私は大して赤が好きじゃないので、出来ることなら木目調を生かしたデザインのままが良かった。
まあ仕方ない。
ただ、足についた血液が乾き、ベトベトになっているのが嫌だ。
早く終わらせてお風呂に入りたい。
そう思いながら首を狩る。
流れ作業で倒し続けていると、1体上手に倒せなかった者が残った。
そいつは装飾のついた豪華な鎧を着ていて、明らかに騎士団のお偉いさんだということが分かる。
コイツも言葉は話さないらしい。
ここでは団長と仮定する。
おそらく団長で間違いはないだろうが、もしかしたら別の身分かもしれないので。
団長は剣の柄の部分に手を当て、ゆっくりとこちらの様子を観察している。
どうやら先ほどの奴らとは違い、きちんとした脳みそを持っているらしい。
「こっちは終わりました」
「こっちは後アイツだけ。多分強いよ」
「加勢しますか?」
「頼む」
1人でも大丈夫だと思う。
ただ、ここで見栄を張って援護を頼まないようなアホ行為はしない。
数で押す。これは基本だ。
剣を引き抜き、魔法で変形させて首元にたたきつけようとするが、どうも上手くいかない。
直前で防がれてしまう。
やはり一筋縄ではいかないらしい。
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