冬が来る前に
夏休みの間中、俊と倫太郎はコピーしたみたいに同じ日常を繰り返した。
昼頃に裏庭で水浴びをし、俊の部屋で服を着替え、ビール片手に街を徘徊し、セックスをする。
倫太郎は、いつもセックスが終わるとすぐに帰っていった。
俊はその背中をいつも引き止められなかった。
引き止めて、なにがしたいのかが分からなくて。
大学が始まって、自然とそのルーティンは解消された。
俊は何度か昼時に裏庭の池に行ったが、倫太郎はそこにはいなかった。
その代わり、俊は大学のそこここで倫太郎を見かけるようになった。
これまでは意識していなかったから気が付かなかっただけで、倫太郎は俊と同じ校舎をしばしば使う学部にいるらしかった。
俊は倫太郎に声をかけはしなかった。倫太郎の隣に、いつも決まった男がいたからだ。
目立つ男だった。俊でもなんとなく顔は知っていたくらいの。
その男は背が高く、身なりには無頓着なようで、いつも似たようなTシャツとデニムを着ていた。そして、その格好が無造作でお洒落に見えるくらいに、スタイルも顔立ちも整っていた。
越前。
その名前も、知ろうとしなくても自然に耳に入ってきた。
「俊。どうした?」
連れの裕一にそう言われるまで、俊は自分がすれ違った倫太郎と越前を目で追っていることにさえ、気がついていなかった。
「いや、別に。」
そう答えると、裕一はニヤニヤしながら俊を肘で小突いてきた。
「なんだ? お前も越前に女取られたクチか?」
「なんだよ、それ。」
「有名だぞ。越前のコンパ荒らし。」
「コンパ荒らし?」
「そう。いろんなサークルやらクラスやらのコンパに顔だしては、一番かわいい子連れて帰るって有名。」
「……へぇ。」
それ以上のコメントは、俊のどこを探してもなかった。
コンパ荒らしをしているからと行って、越前が倫太郎と寝ていないとは思えなかった。 むしろ逆に、あの二人はできているのだろうと確信めいて思った。
「あの隣りにいたのは?」
何気なさを装って訊いてみると、裕一はどうでも良さそうに軽く肩をすくめた。
「中村だろ。越前とは小学校の時から一緒らしいぜ。」
「……へぇ。」
「なに? まじで女取られたの?」
「いや。なんとなく。」
「そっか?」
「そう。」
裕一は釈然としない様子で首をひねったが、すぐにそんなことは忘れたようで、俊に次の講義の代返を頼んできた。
俊は代返を引き受け、裕一と別れて一人で次の講義室に向かう。
その背中に声をかけてくるやつがいた。
「俊。」
振り返るとそこには、けろりとした表情の倫太郎が立っていた。
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