大文字伝子が行く134

クライングフリーマン

パウダースノウからの挑戦(1)

 ====== この物語はあくまでもフィクションです =========

 ============== 主な登場人物 ================

 大文字伝子・・・主人公。翻訳家。DDリーダー。EITOではアンバサダーまたは行動隊長と呼ばれている。。

 大文字学・・・伝子の、大学翻訳部の3年後輩。伝子の婿養子。小説家。EITOのアナザー・インテリジェンスと呼ばれている。

 一ノ瀬(橘)なぎさ一等陸佐・・・ある事件をきっかけにEITOに参加。伝子を「おねえさま」と呼んでいる。皆には「一佐」と呼ばれている。

 金森和子二尉・・・空自からのEITO出向。

 天童晃(ひかる)・・・かつて伝子が対決した、剣道の達人。EITO準隊員。普段は剣道場で隊員の指導をしている。

 大蔵太蔵(おおくらたいぞう)・・・EITO秘密基地の管理をしていたが、新EITO本部になってから、技術開発担当。

 斉藤理事官・・・EITO司令官。EITO創設者。

 草薙あきら・・・EITOの警察官チーム。特別事務官。ホワイトハッカーの異名を持つ。

 夏目警視正・・・EITO副司令官。表向きは、夏目リサーチ社長。

 物部一朗太・・・伝子の大学の翻訳部の副部長。喫茶店アテロゴのマスター。

 物部(逢坂)栞・・・伝子の大学の翻訳部の同輩。物部の妻。

 依田俊介・・・伝子の大学の翻訳部の後輩。高遠学と同学年。あだ名は「ヨーダ」。名付けたのは伝子。やすらぎほのかホテル東京支配人。

 依田(小田)慶子・・・やすらぎほのかホテル東京副支配人。依田の妻。

 福本英二・・・伝子の大学の翻訳部の後輩。高遠学と同学年。大学は中退して演劇の道に進んでいたが、現在は建築事務所非正規社員。

 福本(鈴木)祥子・・・福本が「かつていた」劇団の仲間。後に福本と結婚する。

 南原龍之介・・・伝子の高校のコーラス部の後輩。高校の国語教師だったが、現在は妻と塾経営。

 南原(大田原)文子・・・父の経営していた塾を引き継ぎ、夫と経営。

 山城順・・・伝子の中学の後輩。愛宕と同窓生。現在は、海自事務官。

 山城(南原)蘭・・・南原の妹。美容師。

 服部源一郎・・・南原と同様、伝子の高校のコーラス部後輩。シンガーソングライター。

 服部(麻宮)コウ・・・服部の妻。

 大文字綾子・・・伝子の母。時々、伝子に「クソババア」と呼ばれている。

 藤井康子・・・伝子達の隣人。料理教室を開いている。

 辰巳・・・物部が経営する、喫茶店アテロゴの従業員。

 小田祐二・・・やすらぎほのかホテル社長。

 芦屋三美・・・芦屋財閥総帥。EITO支援者。実は、EITOの運営資金の多くは、芦屋グループが出資している。

 久保田嘉三・・・管理官。久保田警部補の伯父。EITO前司令官。

 河野事務官・・・EITOの警視庁担当事務官。


 ==EITOとは、Emergency Information Against Terrorism Organizationを指す==

 ==エマージェンシーガールズとは、女性だけのEITO精鋭部隊である。==


 午前11時。喫茶店アテロゴ。

 「仮祝言・・・古風だねえ。前田空将ってユニークなんだなあ。」と、物部は感心して言った。

 「3人ともユニークですよ、副部長。仁礼海将、前田空将、橘陸将は昔、『三バカ大将』って呼ばれてたらしいですよ。3人同期で、今は統合幕僚長になられた富田さんが、教官だった頃の教え子の3人は、いつも仲良しで張り切っていたんだそうです。で、富田さんは、『お前ら3人は三バカ大将だ。三バカ大将で、自衛隊の大将になれ!』とか励ましていたとか。三バカ大将というのは、昔、TVで放映していた、アメリカのコメディ番組で、富田さんは、3人のユニークなキャラから、あだ名として命名したのだとか。」と、高遠は説明した。

 「ふうん。富田さんもユニークなキャラだなあ。それで、EITO大阪支部のパイロットは?」と、物部が感心した。

 「本郷さんが、トレードで行くらしいですね。本郷さんも恋人を敵に殺されているから、複雑な思いでしょうね。この際、吹っ切れるかも知れないけれど。」

高遠がそう言った時、芦屋三美が入って来た。

 「三美さん、まだ大阪に帰って無かったんですか?」「副島さんの件でね。やっと了解取れたから、本庄弁護士に入って貰って、遺産の相続と家土地の譲渡をして貰う。マスター、何か軽食出来ない?」「サンドイッチならすぐ出来ますよ。」「じゃ、お願い。」

 「三美さん、煎餅、系列会社で売り出すんですって?」「うん。EITO大阪支部は育ち盛りの子が揃っているからね。通販で仕入れてもすぐ無くなる。それで、マスターに販売権譲って貰ったの、ロイヤルティー払うことで。」

「流石、商売人よね。」と、栞がサンドイッチとコーヒーを三美の前に運んだ。

「書道教室もね。講師替わっても、続けたいって父兄が多かったのよ。で、学習塾兼ねた書道教室にすることにした。」

 「鈴木校長に相談しようか?って伝子さんが言ってたら、天童さんが知り合いを紹介してくれることになったんですよ、副部長。」

 「そうか。副島さんも浮かばれるな。EITOの功労者だしな。」

高遠のスマホが鳴動した。高遠はスピーカーをオンにした。

 「こら、学。どこで油売ってる?また、物部の喫茶店か。」「はい。」「他に行くとこないのかよ。会議だ。すぐ戻って来い!高遠準隊員。」

「了解しました。」と、高遠が電話を切ると、「準隊員?高遠、入隊したのか?」と物部が言った。

 「いや、正確に言うと、アドバイザリーなんですけど。」と、高遠が言うと、「アドバイザー、じゃないんですか?高遠さん。」と、横から辰巳が言った。

 「アドバイザーの方が広義で、組織に専門的助言を与える人をアドバイザリーっていうんだよ、辰巳君。」と高遠が説明すると、「コロニーが流行った時に、そんな名前の組織があったでしょ。ちっとも役に立たなかったけど。」と栞が後に続けた。

「副島さんの遺言になっちゃったみたいです。副島さんが、自分より役に立っている人間なんだから、と理事官に言ったそうです。」

 「確かに、アナグラム解いたり、敵の現れそうなポイントを指定したりしていたものな。」と、物部は感心した。

 高遠は、勘定を済ませ、慌ただしく出て行った。

 「とにかく、大した夫婦よ。」と言う三美に、物部も栞も辰巳も頷いた。

 午後1時。EITO東京本部。

 食堂で食事を済ませた伝子と高遠は、会議室にいた。

 「という訳で、新たに高遠君も正式にメンバーとして迎え入れることになった。と言っても、EITOに常駐せず自宅から参加は、そのままだが。」と、理事官が言うと、金森が花束を高遠に渡した。高遠は大いに照れた。

 「おめでとう、高遠さん。」と、天童も花束を渡し、高遠と握手をした。

 午後1時半。

 高遠は、新本部基地が初めてなので、理事官と伝子が案内をした。

 「馬場は、新たに鍛えることにした。天童さんに剣道も習うが、青山にもフェンシングを習い、バトルスティックも馬越が教授する。シューターは新町の担当だ。ブーメランは特に教えない。将来の嫁が得意だからな。」と、理事官は笑った。

「来月には、もう1機オスプレイが配置され、米軍から出向が来る。」と伝子が言うと、「パイロットはオプションなの?」と高遠が尋ねた。

「結果的にそうなるな。搬送してきたパイロットが、そのままEITOに残る。基本的に、メンテナンスは秘密基地に任せる。ああ、大蔵さん。」

 伝子が声をかけると、大蔵が振り向いた。大蔵は、秘密基地担当だったが、先日よりEITO東京本部詰めとなっている。

 「やあ。暫くです。一時的に利用していた大文字邸も、復旧させたままでは勿体ないので、ダミーの会社が入ることになりました。」

「そうですか。漫然と暮している僕には、何もかもが新鮮です。」と、高遠は大蔵に挨拶をした。

 「平和って長続きしないからね。いつ、パウダースノウが挑戦してくるかも知れないと思うと、気が重いよ。」と、理事官は高遠に軽口を言った。

高遠がオスプレイ内部を見学していると、緊急アラームが鳴った。

「理事官。おねえさま、おにいさま。作戦司令室に移動して下さい。久保田管理官から連絡が入っています。」

 スピーカーから聞こえて来たのは、なぎさの声だ。

 3人は、急いで司令室に走った。

 午後2時半。作戦司令室。

 マルチディスプレイに、久保田管理官が映っている。

 「パウダースノウからの挑戦状らしきものが来た。届けたFAXを見て欲しい。」

  河野事務官が、理事官、伝子、高遠にFAXを手渡しした。

 「これは、本日、各新聞社が配る夕刊に載る内容です。この『ランキング』は殺人予告リストです。印刷してから、警視庁に連絡して来ました。」

紙面冒頭には、『殺して欲しい著名人ランキング』とある。そして、末尾には『パウダースノウ』のサインがあった。

 「50人?凄いメンバーだなあ。」と高遠が言うと、「これについて、各社からEITOの記者会見を求めています。」と、横から夏目が言った。

 斉藤理事官が、卒倒した。

 午後5時半。EITOのオンライン記者会見。

 会見を行ったのは、夏目だった。

 「司令官である斉藤理事官が急病の為、私が代わりに会見を行います。副司令官の夏目です。まず、最初にお詫び申し上げたい。ダークレインボーの幹部の名前は、つい先日我々も知りました。パウダースノウという名前です。混乱を招いてはいけないので、伏せておりました。我々も、名前以外は一切情報がありません。50名の方の名前が列記されていますが、共通点が、我々が微力なのか見当たりません。どなたかご存じの方がおられましたら、警視庁まで情報をお寄せ下さい。この、新聞社にFAXを送った人物は、マフィアの人間だということは、その幹部の名前が非公表だったことで明らかです。どういう犯罪を行う積もりかは、声明にないので、見当がつきません。EITOで守れないのか?とSNSで騒ぐ方もおられるようですが、対象が50人もいては、守り切れません。」

 夏目の記者会見の質疑応答は、1時間半にも及んだ。

 引っかけて、怒らせようとする記者もいるようだったが、夏目は無視した。

 オンラインでなく、従来の記者会見だったら、会場は紛糾したことだろう。

 午後7時。山城のアパート。

 「大変なことになったね。明日からまた海に出るけど、暫くお兄さんの所から通ったら?蘭。」「ええ、そうするわ。7番目の『幹』って、最後の幹部かしら?」

 「分からないな。闘いは、先輩達に任せよう。」

 午後7時。伝子のマンション。

 「いよいよ、始まったのね、婿殿。」と、綾子は言った。

 「ええ。天命を待つ、しかないですけどね。」と高遠は言った。

 「私は、覚悟出来てるわよ、高遠さん。DDバッジは離さないわ。」と、藤井が言った。

 午後7時。東京駅。

 「当分、帰らない方がいいかな?」と、森は呟いた。

 午後7時。南原家。

 塾の生徒に、パウダースノウのことを聞き、南原夫妻は困惑していた。

 「先輩もまだまだ大変ね、龍之介さん。」「うん。一度に50人も守れないよな。」

 午後7時。服部のアパート。

 服部夫妻も、新聞を見て、「無理だな。」「無理ね。」と、ため息をついた。

 午後7時。喫茶店アテロゴ。

 「おい、辰巳。今日は早仕舞いだ。」「え、もうですか?」

 「これ見たら、頭痛くなってきた。」と、新聞を指して言った。

 「うーん。確かに。どこに共通点があるんだろう?分からないな。」

 午後7時。福本邸。

 福本日出夫が、新聞を広げて唸っている。

 「栄二。大文字さん達は、当分休む暇がないな。」と、福本に言った。

福本と祥子が新聞を覗き込んで、「50人は多すぎるよ。」「そうね。」と、口々に言った。

 午後7時。やすらぎほのかホテル東京。

 社長の小田が、新聞を持って、ロビーにいる慶子と依田の所にやって来た。

 「昨日から泊まっているお客に、この人いなかったか?」と小田は2人に尋ねた。

 社長から、パウダースノウのことを聞いた2人は、現在の宿泊客と、食泊予定客を調べた。その結果、新聞の殺人リストの人物が現在の宿泊客に1人、宿泊予定客に2人いることが判明した。

 「依田君。すぐに大文字さんに、EITOに連絡だ。」と、小田が指示した。

 午後7時半。EITO東京支部。会議室。

 スピーカーから、草薙の声が聞こえた。「アンバサダー。依田さんから緊急通信です。殺人予告リストの人物についてです。画面を切り替えます。」

「先輩。大変です。あのリストの内、1人が当ホテルに宿泊しています。それと、1週間以内に宿泊予定をしている、お客様が2人、あのリストに載っています。」

 「了解した。」伝子は通信が切れると、「なぎさ。連絡の取れる者をホテルに向かわせろ。理事官。警視庁にも応援要請願います。」と、理事官となぎさに言った。

 「警察には、もう連絡しました。」と河野事務官が入って来て言った。

 「ありがとうございます。」と、伝子は礼を言った。

 午後8時。伝子のマンション。

 「取り敢えず、3人は守れそうですね。敵がどう出るか分からないが。」と、綾子と藤井に言った。

 「じゃ、私、帰るわ。」と、綾子は席を立った。

 「じゃ、私も。」と、藤井も帰って行った。

 高遠のスマホが鳴動した。大前からだった。

 宝石店強盗の報告だった。「みんな、闇バイトで雇われたんやが、18歳成人を知らんかったらしい。時代ですな。SNSとゲームに夢中になっていると、そういうことも知らんのかな。」

 「大前さん。社会常識だけじゃないですよ。先日の和歌山の事件の被疑者、被選挙権の年齢も知らなかったんですから。学校では居眠りしてたんですかね。」

「兎に角、えだは会も、闇バイトして、やらかすから、そっちも気にかけておいて下さい。パウダースノウも何やらかすか分からんが。」

 通話を切って、高遠は暗澹とした。ブラックスニーカーは、女子高生だった。パウダースノウは?

 高遠は、考えている内、うたた寝をした。夜はまだこれからだ。

 ―完―

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大文字伝子が行く134 クライングフリーマン @dansan01

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