音無
どんですかどんでんどん、どんですかどんでんどん。
はるか遠くから音が聞こえてくる。
いや、そんなことはないはずだ。だってまだ眠ったばかりだし、時計の針はまだ五時を回ったところだ。いくらなんでも早すぎるだろう?
「……ん?」
俺はゆっくりと目を開ける。するとそこには見慣れた天井があった。
「なんだ夢か」
そうだよな、夢のはずがないよな、今も音は聞こえている。
どんですかどんでんどん、どんですかどんでんどん。
かすかな音。遠く遠く遠くから聞こえてくる音。
近くなっているような気もするし遠くなっているような気もする。
あるいはそのどちらでもないのかもしれない。
その変化はあまりに微細にすぎて判断がつきそうになかった。
ただ、確実に近づいてきていることだけは確かだった。
どんですかどんでんどん、どんですかどんでんどん。
そして――
どんっ! という爆発じみた轟音が部屋中に響き渡った。
「うわぁ!」
思わずベッドの上で飛び上がる俺。
それから恐る恐る窓の外をのぞいてみる、ということを考えたけどやっぱりやめた。
多分それは賢くない行動だったから。
ゆっくりと静止して考える。
依然として音は遠くから聞こえてきていた。
さっきのはなんだったのだろう。気のせいなのか。
例えば僕の願望が知覚をゆがめているとしてゆがめているのは現在なのか過去なのかどちらなのだろう。
それは僕にはどうやっても明らかにできないことだ。
だれか僕の外に観測器官が必要でそれは絶対に僕であってはならない。
なぜなら僕はこの世界に存在することを許されていないから。だからきっと僕の外からしかこの世界を観測できない。
でも、それでも、と僕は思うのだ。
もし仮に、今こうして感じている感覚がすべて幻想であるとしたら。
それならこの世界に真実なんてものはひとつもないことになるのではないか。
そんなことを考えるのはやめた。
今はこの音に対してどういった行動をとるのか考えた方がいい。
それは別段最善の手でなくたってかまわない。
この思考の順番をみるに多分僕は混乱している。
いや多分という言葉はいらない、僕は混乱している。
どんですかどんでんだん、どんですかどんでんだん。
音はつづいている。
どんっ! また音がした。今度ははっきりと聞こえる。
ドンッ! これは近い。
ドンッドンッ! さらに音は大きくなっていく。
ドォーンドォーン! ドンッドンッドンッドンッドンッドンッ!! 音は完全に止んだ。
果たして本当にそうだろうか?
全身全霊をかけて聴覚だけに集中する。やはり音は聞こえない。
本当になっていないのか、僕がその音をとらえきれていないのか、その音が鳴っていることを拒んでいるのか。
どれかわからないしわかりようはないけれども、確かにその音は聞こえてこなかった。
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