時告鳥

時告鳥が撃ち落とされた。くるくる回って降りていく。

白い柱は黙ってそれを眺めていた。

形を残した廃墟は笑う。おーほーほーおーほーほー。

「…………」

『…………』

白い柱も、笑ったように見えた。

きゅりきゅりきゅらら、きゅりきゅりきゅらら。

戦車は進む、瓦礫の山を乗り越えて。

その先には何があるのだろうか? 鉄擬の街が待っている。

なぜその場所を目指すのだろうか? 戦車はそれを知らない。

きゅるきゅるきゅるる、きゅろきゅろきゅろろ。

「……」

『……』

きゅるきゅるきゅるる、きゅろきゅろきゅろろ。

白い柱と黒い柱は細い線でつながれていた。

けれどもすでにその場所を信号は流れていない。

発信する者はずいぶんと前に消えてしまった。

柱たちとてそれを待っているわけではなかった。

彼らはただ何もしないだけだ。

何もしなくても時間は過ぎ去る。

時は流れ続ける。

だから彼らは動かないのだ。

彼らはただ見ているだけだった。

この世界から何かが失われようとしていることを。

それはとても大切なことなのかもしれない。

けれどもそれすら彼らにとってはどうでもいいことだった。

白い柱と黒い柱は銀色の線でつながれていた。

どこか遠い場所で戦争は終わったのだという。

けれども僕らはそれを知らない、知らされていない。

与えられた運動をつづける。

あるいはそれは予想されていたよりずっと長い時間をかけて。

人々は過去から現れたそれらを見て驚くことになるのだろうか? わからない。

東の空は赤く染まっている。

また別の時告鳥が一羽、悠然と高いところを横切っていった。

きゅろきゅろきゅるる、きゅろきゅろきゅるる。

僕は考える。

僕の考えるべきことは何なのか。

僕にできることはなんなのか。

答えはまだ出ない。

それでも考えていかなくてはならない。

僕は、ここにいるのだから、そうしてここにいないのだから。

ありがとうと僕は言った。さようならと君は言った。

つまり祝砲は鳴り響かなかった。

異常増殖したノウゼンカズラを引きちぎって戦車は進む。

目的地に変化はない。

自らの機能の範囲内でできる限り消耗をおさえながら。

場合によっては発砲も許可されていた。

彼の眼は生きている。見えない場所を見通している。

彼は自分の役割を理解していた。

だからこそ慎重に、そして確実に目的の場所へと近づいていた。

「……」

『……』

赤い空を見上げながら、彼は静かにつぶやく。

「終わりか」

『……』

その言葉に答える声はなかった。

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