呪像2
「合格じゃ一平、今日からお主をうちで採用する。今日は帰って良し、明日から心して精進せよ」
法鸞をそう言ってポンと一平の肩を叩くと踵を返しその場を去ろうとする。
「ごぉうらぁぁ!糞じじい!まだ話終わって無いやろ!ちゃんと俺の質問に答えんかい!」
「何じゃ一平、何が知りたい?綺羅裡が説いたお主のパスワードの事か?」
「違う!そんな事より何より!おい糞じじい!まだ待遇を聞いてないぞ!俺の給料は?保険は?福利厚生も説明せんかい!」←(そ、そっちかい!笑)
「おぉ、これは相済まぬ事をした。給料は完全歩合制、1荷物につき280円、これで良いかの」
「断る!」
「なっ、なんじゃと?普通の宅配便の賃金は120円から高くても180円じゃ、うちは破格の金額なのだぞ?」
「違う!それじゃ個人事業主、聞こえは良いが日雇い労働者と同じだ!俺は家族が出来たんだ!もう一人じゃない!俺は正社員じゃなきゃ働かねぇぞ!俺が欲しいのは家族を守れる福利厚生だ!」
「なんと!最初から正社員として雇用せよとは、厚かましいぞ一平!」
「じゃあやらねぇ、断る、いいのか?俺はすげー使える人材なんだろ?滅多にいない素晴らしい人材なんだろ?いいのか爺?うっしっしっ」
「うむむ、この性悪よ、足元をみてくさる。まぁ確かにお前の能力は稀有にして超強力なのは認めるが、まだ海の物とも山の物とも解らぬ、それをいきなり正社員とはのぉ、花蓮、どう思う」
意味深に意見を求められた花蓮がにんまりと口角を上げ法鸞のそれに答える。
「父上、彼を正社員として雇用するなら我が社の負担も大きい。どうでしょう?いくつか彼に条件を科しては?」
「条件とな花蓮、それは如何なる条件じゃ?」
花蓮の口角が上がった意味を理解した法鸞が敢えて花蓮にその条件の内容を委ねる。
「一平くん、我が社の福利厚生はとても手厚いの」
「とてもって、どれほど、どれほど手厚いんだ花蓮」
今の一平にとってこの福利厚生は最も重要な要件。一平は目を輝かせて花蓮に続きを求める。
「先ず社員には社用車を貸与します」
「おぉー!まじか!」
「しかも、ガソリン代はもちろんの事、保険、税金、オイル交換、バッテリー交換、タイヤ交換、車に掛かる維持費を全て会社負担」
将暉のために車の購入を半ば決めていた一平にとってそれは願っても無い特典である。一平の目が一気に輝きを増す。
「おっしゃー!花蓮!まだあるのか?」
「有るわよ。うふふ。夏冬の普通のボーナス4,0ヶ月とは別に、なんと特別ボーナスが随時!」
「ええーっ!日雇いには絶対に無いボーナスが有るのに!しかも年間4か月分!更に特別ボーナスまで!なんて手厚いんだ!」
「まだまだ有るわよ。誕生日には誕生日ボーナスを支給。もちろん社員の家族の分もよ。それに安全靴や手袋も支給、勤務中に社内での飲食は無料、もちろん昼食も支給するわ。我が社はね、勤務に掛かる付帯費用が0円の優良企業なのよ」
「なっ!なんて手厚いんだ!そこいらの大企業だって敵わない!凄いじゃないか花蓮!」
「我が社の正社員になりたい?」
「なりたい!なりたい!絶対になりたい!」
「そうよねぇ、我が社の社員になりたい人は大勢いるの。その中で一平くん、貴男を選ぶとしたら、貴男は我が社にどんな貢献をしてくれるの?」
「何でもします!体力には自信があります!」
「本当に何でもできる?」
「はい!どんな重労働でも完璧にこなします!」
「社員にはノルマがあるの、かなり厳しいノルマだけど、大丈夫?」
「ノルマって、配達件数のノルマって事か?」
「そうよ、社員には一日300件の配送ノルマが課されるわ。私は一日だいたい500件配るけど、一平くんは300件、どう?出来るかしら?」
「花蓮が500なら俺だって300ぐらいやって見せてやるぜ!」
(一日の配送件数は、本当のプロドライバーでも180件が限界値)
「お給料は総額で45万円、手取りで40万円ってところだけど大丈夫?」
「ええーっ!そ、そんなに!俺、日給1万円以上貰った事ないんですけど!めっちゃ高給取りになれる!」
「その条件で良ければ採用よ?大丈夫かしら?」
「大丈夫も何もそんな好条件、家族を持つ身としては粉骨砕身、骨を埋める覚悟で働かせて頂く所存です!」
「良かった。歓迎するわ一平くん」
花蓮と法鸞が満面の笑顔で一平を歓迎する。
↑(満面の笑顔、するわなぁ。そりゃしますがな。だって一日の配達件数が300件なら普通の運賃150円でさえ一日の売り上げは45000円。ここの1荷物280円の単価なら売り上げは84000円。月に25日働けば売り上げは2100000円。経費を引いても手取りで2000000円の給料になるもんね笑。一平は節約には長けているが稼ぐ事には疎い)
「それと社員には、部署の管理をお願いしているの、そうね、一平くんには本殿の管理を一任するわ。呪像や呪具の管理全般と本殿の清掃なんかもね、大丈夫かしら?」
「もちろん!そんなこと朝めし前ですぜ姐さん!」
花蓮の申し出を聞いて、それまではしめしめとまるで悪代官か越後屋の様な顔で笑っていた法然が目を丸くする。
「花蓮よ、いきなり本殿を任せるのは荷が重くはないか?」
「大丈夫ですわ父上、本殿に隣接するあの客殿で空腹を申し出る人なんて今まで一人も居ませんでしたことよ。一平くんならきっと大丈夫です」
「ふむ、良かろう、ならば本殿の管理については明日から儂が直々に教えるゆえ、もう今日は帰って良いぞ一平」
「ありがとう爺さん、俺、死ぬ気で頑張るから」
「ほっほっほっ、期待しておるぞ一平」
「おう!それじゃ、遅くなったし、忍が心配するといけないからこれで帰るわ、花蓮、送ってくれ」
「待て一平、今、なんと申した」
「えっ?いや、忍が心配するといけないからって・・・」
「ちょっと!一平くん!忍さんって、誰なの?貴男、シングルじゃなかったの?」
「あっ、いや、その、忍は、ど、同起居人ってか、まぁ俺は家族だと思ってるけど、そんな男女の関係じゃないから安心してくれ花蓮」
「馬鹿!!何でそれを先に言わないのよ!」
「なんでって、そんな事、訊かれなかったし」
「不味いぞ花蓮、綺羅裡があの伺嬰児便餓鬼の僅かな良心を封印したのなら本体は!」
「父上、ご同道願えますか、生憎と他の社員は出払っているので」
「もちろんじゃ、綺羅裡の力も必要になる!直ぐに仕度じゃ!」
「お・・・おい・・・何がそんなに・・・」
「忍さんが危ないのよ一平くん!もう手遅れかもしれない・・・」
「なっ!なんだと!」
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