第4話        子育て

 ピギャー


 ホギャー


 ホギャー


 艱難辛苦の末、もとい、艱難辛苦の真っただ中ではあるが、ようやく俺たちは家に着いた。


 家に入ると忍がさっそくお湯を沸かし、買って来たアイテムを開封してミルクを作り始めた。


「忍」


「はい」


「ミルクを作ったことあるのか?」


「ありません」←(結構きっぱりと)


「でも、やたらと手際がいいじゃないか」


「ネットで調べて・・・手順を覚えました」


そうこうするうち、瞬く間に忍はミルクを作り上げた。


「一平君、はい、どうぞ」


 忍は俺に哺乳瓶を手渡そうとする。


「え、お、俺があげるのか」


「もちろん」


「そ、そうか、分った」


 俺は泣き叫ぶ赤ん坊の口に、哺乳瓶乳首をそっと入れる。


「わー!おい!忍!飲んでる、飲んでるよ」


「・・・・」


 よほどお腹が空いていたのか、これも瞬く間に赤ん坊はミルクを平らげた。これで一安心と思いきや・・・ 


 ピギャーホギャーホギャー


「おい!今度はなんだ!」


「きっと、オムツが濡れているんです」


 忍はまたもや買って来たアイテムを開封し、瞬時にオムツ交換の準備を整える。


「おい忍」


「はい」


「お前、オムツ換えた事・・・」


「ありません」←(これもきっぱり)


「それも?」


「はい、さっきネットで調べて手順を記憶しています、さぁ、どうぞ」


「えーー!これも俺か!」


「もちろん、一平君の子供でしょ?」


「そ、そうだけど・・・」


「一平君」


「な、なんだよ」


「安請け合いしたの?」


「いや、その・・・」


「最初だから、ちゃんと言っとくね」


「な、何をだよ?」


「私、子供苦手なの、特に、赤ちゃんは、駄目なの」


「え!ええーーー!どっから見ても、とても良いママになりそうなんですけど!」


「それ、よく言われる。でも苦手なの、どれくらい苦手かと言うと」


 忍は自分の荷物を開き、中から何かを取り出す。


「一平君、これ見てどう思う?」


 忍が取り出した箱の中を俺に見せた。


「う!うぎゃぁぁぁ!」


 それは有に体長8センチを超える超巨大なゴキブリだった。


「この子はね、ヨロイモグラゴキブリのペンペン」


 ヨロイモグラゴキブリは世界一重いゴキブリ。体重28グラム、体長7.5センチ中には15センチに届く個体もある。オーストラリア原産で、羽が退化している為、飛行はせず、棘のついた足を使って夜間に数フィートもの穴を掘る。主食は枯葉。一般的なゴキブリと違って、ペットとして長く飼えるという。


「ひょえぇぇー!むーりむりむりむり!それだけはあかん!それだけはあかんやつや!ななな、なんでや!なんでそんなもん!」(びびりすぎて思わず関西弁)


「一平君」


「ひ、ひゃい」


「一平君が決めた事だから、協力はする、でも、私は、一平君がペンペンを見て思うのと同じくらい、赤ちゃんが無理なの」


「し・・・忍・・・お前、何で・・・」


「私・・・ううん、何でもない、とにかくそういう事だから、一平君、頑張って」


「あ・・あぁ・・・」


 一平は忍の指導の下、人生初のオシメ交換に挑む。


 ピギャーホギャーホギャー


「おい!こら!暴れるな!ウンチが!ウンチが!ぎゃぁぁぁ!」


 いくら赤ん坊とはいえ、目の前で処理の必要を迫られているのは確たる人間の汚物。しかし、一平は悪戦苦闘の末、人生初、人間の汚物処理を成し遂げた。


「ぜぇーーー、ぜぇーーー、ぜぇーーー、忍、で、出来た、出来たぞ」


 オシメを換えてもらった赤ん坊は、スヤスヤと眠りに落ちる。


「一平君、これから数時間おきに、毎日、これを繰り返すんだよ、大丈夫なの」


「だ、大丈夫だ、心配するなってんだ」


「そう・・・それならいい・・・ぺんぺん、行こう」


 ・・・ペンペンってあーた・・・それ・・・幽霊よりよっぽど恐ろしいわ・・・


 忍は自分の荷物を持ち、独り、自分の部屋に入って行った。


「おい、ハゲ、居るか?」


「ピシッ」


「忍、いったい、何が有ったってんだろうな」


「・・・」


「でもよ、見てみろこの顔、可愛い寝顔してるぜ」


「ピシッ」


「しかし、実際、あんな事言って連れて帰っては来たけど、この先どうすればいいんだ、出生届とかどうなってんだって、おい!ハゲ!」


「ピシッ」


「こいつ、名前、、名前あるのか?つか、おいおいおいおい!ち、ち、ちんちん、付いてたっけ?付いてなかったっけ?」


「・・・」


(お前も見てなかったんかーい)






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