第7話 変身
―――1人で対処できる? ちょっと厳しいけど……できる、かな? 勝てるかな?
白いプロキシーと対峙する最中、新たに緑のプロキシーが現れ、龍華は内心焦っていた。
プロキシーは体全体が一色で覆われているが、色次第で、そのプロキシーの強みが変わる。
白のプロキシーは腕力に特化している。そのパンチ力は人間のパンチ力を軽く凌駕するほどである。新たに現れた緑のプロキシー。緑は
プロキシーのカラー別ステータスは、色彩少女と同一である。白の色彩少女は腕力に優れ、緑の色彩少女は速度に優れる。
青の色彩少女はと言うと、脚力に特化している。腕力に優れる白とは逆である。故に先程から、青の色彩少女である龍華は足技を主体にして、白のプロキシーは拳を主体にしている。
そして色と色が対峙すれば、お互いの美点欠点が勝敗の天秤に砂をかける。
緑の移動速度、及び攻撃速度は、前色の中でもトップクラス。一撃あたりの攻撃力は低くなるが、連撃や回避が得意になる。
脚力、つまりは蹴り技限定で攻撃力を重視した青は、脚力以外のステータスが低い。速度もあまり速くない。もしも緑と対峙すれば、攻撃を避けられ、逆に攻撃を食らってしまう場合がある。
龍華自身の戦闘力は普通の女子高生並。舞那とそう対して変わりは無い。もしも龍華自身が並の女子高生以上に強ければ、緑の出現にも動じていなかっただろう。
―――せめてあの子が逃げるまでは……。
龍華は焦っている。白と緑、2体のプロキシーと対峙する現状は、正直言うと分が悪い。特に、相性が悪い緑。更には、舞那を死なせないように戦う必要もある。
舞那が逃げられるようになるまでは死ねない。そんなことを考えていた龍華だが、状況は、全く想像もしていない展開へと傾いていた。
「杏樹!」
既に杏樹ではなくなってしまったが、緑のプロキシーに向かって舞那が叫んだ。
その声に気付き、龍華は一瞬、視線をプロキシーから舞那の方へ動かした。
立つ力を失い、僅かに暑くなったアスファルトの上に座っていた舞那だったが、気付けば、舞那は立ち上がっていた。
―――いつの間に……まさか!
気付かぬ間に舞那が立ち上がっている。そして、恐怖感を匂わせない叫びと表情。
龍華は理解した。舞那の身に何が起こったのかを。
「誰も殺させない……化物の姿になっても、杏樹に罪は背負わせない……」
舞那の握られた右手、指の隙間から、龍華が持っていたものと似たアクセサリーがぶら下がっている。しかし銀色のチェーンの先に付いたアクセサリーは、龍華のものとは異なるデザインだった。
―――アクセサリーを握り、戦うべき相手を確認するんだ。
舞那の脳内に、アイリスの言葉が蘇る。
―――変身を終えるその時まで、絶対にアクセサリーを手放してはいけない。
その言葉は、止まった時間の中で教わった、色彩少女としての戦い方である。
―――君の色は緑。攻撃速度や移動速度に長ける力だ。そして君の武器は槍。
色彩少女の武器は、全部で9色分存在する。龍華が所持する武器は、腕から手の甲にかけて装着する篭手。防御特化の武器であるが、打撃による多少のダメージであれば見込める。
止まった時間の中で、舞那はアイリスから武器を与えられた。その武器は、槍。龍華の篭手とは違い、防御力より攻撃力を優先した武器である。
―――変身すればアクセサリーが武器に変わる。その武器と自身の四肢を用いて戦え。そうすればプロキシーを殺せる。
舞那が右手から下げるアクセサリーは、言わば変身アイテムのようなもの。そのアクセサリーが武器へと変わり、1人の普通の少女を、1人の色彩少女へと変える。
「罪を背負うのは私だけでいい」
―――変身へ至る言葉は、既に犬飼龍華から聞いたかもしれないが、改めて教えておこう。
「ダメ……変身しちゃダメ! 戦っちゃダメ!」
「
アクセサリーを握る舞那の手に、ギリギリと力が込められた。
「
刹那、舞那の体が眩い緑の光を纏った。龍華の時と似た現象が、舞那の体にも起こった。
光の中で、舞那の体は変化していく。
アニメキャラがプリントされたTシャツはノースリーブの黒いシャツへ。紺色の膝丈スカートは灰色のミニスカートへ。くるぶし丈の靴下は紺色のニーソへ。黒のスニーカーは白と青のスニーカーへ。そして、新たに青いパーカーを羽織った。
パーカーとスニーカーの色が違うだけで、服装は龍華と同一。これが、色彩少女の正装。言わば、戦闘服なのだ。
黒いミディアムロングの髪は、纏った光と同じ、青色へ変化した。深紅のアイシャドウが塗られ、瞳は桃色へ変化した。
瞳の色とシャドウの色は、色彩少女全員が同一、という訳では無い。実際、瞳とシャドウの色は、舞那と龍華とでは違う。
「変身……しちゃった……」
舞那の変身を見届け、龍華が、悲しげに呟いた。
「変身……できた!」
光が晴れ、新たな姿として現れた舞那。
その右手には、舞那の身長とほぼ同じくらいの長さの槍が握られていた。細長い柄は黒に近い緑色。穂先は蜻蛉切に酷似し、エメラルドのように透き通っている。
―――分かる。人を超えた力が、血と一緒に体の中を駆け巡ってる。
今ならば、何でも出来てしまいそうな気がする。そんな自惚れさえ抱くほどに、自身の体に起こった変化は顕著だった。
まるで殻を破って外に出たかのような解放感。解放感が促す、限りなく幸福に近い高揚。快感とも言える昂り。
足が地面から離れ、体が軽くなった気もする。度数の強い酒でも煽ったのか、或いは薬物でも服用したのか。そんなことさえも疑ってしまう程の感覚である。
―――今の私なら戦える。今度こそ私は、ヒーローになれる。
かつてヒーローに憧れ、やがて憧れを失った舞那は、今こうして、憧れを手中に収めた。
杏樹の死と伝染。プロキシーと化した杏樹との対峙。そんな絶望的状況の中で掴んだ憧れ。悲喜交々な心情ではあるが、舞那は両足で地表に立つ。
「犬飼さん!」
「!」
「そっちの白いの、頼んでもいい?」
「……今は従ってあげる。なら緑は任せた」
多少不服そうに答えた龍華は、舞那から目を逸らし、改めて、白のプロキシーとの戦いに集中した。
「行くよ、杏樹!」
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