#04 彼女のいる男
10代の頃からアタシは毎週末は必ずといっていいほどクラブに通っていた。
演者にもお客にも顔見知りが増えると平日まで行くようになっていて、だいぶマンネリしていたので刺激を求めて新天地に足をのばした。
ライブハウスだ。
家には
アコギやピアノがあったから両親を喜ばせたくて、
おかげで“クレバーな姉”は夏休みの間、祖母の家から帰ってこなかった。
15歳の誕生日には母がギタリストと交際していたから、エレキギターをもらった。夏中
一瞬ではあったがロック少女期を過ごしたことのあるアタシには ライブハウスは魅力的だった。
いつも駅からクラブに行く途中にあるライブハウスには、通りかかる度に人だかりができていて気になっていた。
地下にあるライブハウスはビルに対してに水平についている外の階段を下りて行く。道路沿いの柵越しに階段を見下ろすとバンギャル達がその階段の脇でタバコを吸ったり鏡を見たりしている。たくさんの人が出入りしてた。入る勇気が出ない上、中はかなりの混雑のように見えて階段の上で立ち尽くしてると、
「もう終わるよ?」
と、背の高い男の人が声をかけてきた。
声の方を見上げた瞬間その男の人はバンギャル達に囲まれてサインや握手を求められていた。
どうやらもう最後のバンドで、アタシは勇気が出ないままライブハウス経験をしそこなってしまった。帰ろうとするアタシの腕を引っ張り、さっきの男の人が打ち上げに誘った。
しかし周囲にいるバンギャル達の視線がいたすぎて、このままじゃ無事帰れそうにない。さらにこの打ち上げとやらに行っても無事帰れそうにない。苦し紛れにでた強烈な一撃でその場を回避しようとした。
「セックスはしません!」
大笑いした男の人は 仲間とファンの子とアタシをつれて打ち上げへに行った。
目が覚めたらそこは自分の家の玄関だった。
記憶以外、持ち物も尊厳もなにも失わず無事帰宅していた。
打ち上げに誘ってくれた男の人は、以前インディーズで注目を集めていたバンドのベーシストだった。今は事情があって活動休止しているらしい。
始めて聞いたバンド名だったので検索してみると、5人組のそのバンドはうっすら化粧をしているメンバーもいて90年代終わりに流行った
昨日は後輩バンドを見に来ていただけで、自身のバンドが活動休止中の彼はバーでカバーバンドをやって食い繋いでいるらしい。
一緒にいた古参ファンの子によれば、その“V”にはいがいと真面目な会社員の彼女がいる。
彼はクールであまり愛想もよくない、自分の世界がある感じのタイプでファンの子でも近寄りがたそうだった。やはり人前に出る選ばれし人間か、やや筋肉質で背が高く顔は冷たくキリっとして、少しうっとおしそうな長い髪はセクシーでオーラがあった。
そんな彼がアタシを誘ったのは*
騒がしい居酒屋の店内で『いいシャツ』と、低い声でボソっと言われたのは覚えている。
夕方“V”からメールが来た。
<オレは*
“V”はそれからよく飲みに誘ってくれた。
アタシのことを気に入ってることはうっすらと感じていたが、それらしいことは決して言わない。飲みに行った帰りは必ず家まで送ってくれるが、それでもそれらしいことは口にしない。彼には彼女がいるのは周知の事実でアタシはそのつもりで彼に接していたからか、またはアタシの単なる思い上がりで彼はアタシに何の感情も抱いていないのか。
でもアタシは彼の仲間に混ざって飲みに行った帰り道、2人でコンビニで買ったアイスやスイーツを頬張ってくだらない話をしながらて歩くウチまでの道のりが楽しかった。
◆◆◆
▶
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます