第14話 サプリ疑心暗鬼

 7月になって梅雨のラストスパートが始まったらしい。突然激しく雨が降ったり雷が落ち始めた。このお祭り騒ぎが終わると梅雨も明けて夏本番だ。ただ暑くて蒸し蒸しして毎日汗をかくだけの日々がもうすぐ始まる。ああ……。

 とは言え、この梅雨明け直前の天候は割りと好きだったりする。嵐に心が踊るのは心の中の少年が疼くからだろうか。


 そんなある雨の夜、テンションが変になった俺はSNSの雑談中に少し暴走してしまう。


『マズイ~もう一杯!』

『急にどうした?』

『いや、何となく』

『意味ないんかーい!』


 普段は標準語のサワからの関西弁ツッコミ。うん、分かる。こう言う時は誰もが同じリアクションになるよな。冷静さを取り戻した俺は別の話題に移ろうかと思ったものの、逆にサワがこのネタに食いついてきた。


『て言うか青汁飲んでたりする?』

『昔流行った時に飲んどったけど』

『やっぱりまずかった?』

『大麦若葉の方だったから不味くはなかったで』

『青汁って種類があったんだ』

『そりゃあるで。メジャーなのは、ケール、大麦若葉、後は罰ゲームで有名なノニとか?』


 俺は青汁の種類をざっと説明する。この中でまずいのはノニとケール。俺はこのどちらも飲んだ事はない。あるのは大麦若葉だけだ。やっぱまずいのを飲むのはハードルが高いわな。いくら栄養価が高いと言っても。大体、不味くない大麦若葉ですら栄養価が高いのだから、それで充分だろう。

 そんな感じで俺が自分を納得させていると、彼女の方から不味さを軽減する案を提示される。


『マズイのはジュースにしてるからだよね。錠剤にしたら平気っしょ』

『青汁サプリかぁ。まぁあれなら味関係なさそうやな』

「今は健康食品、何か飲んでる?』

『視力を良くするのは飲んどるね』

『ブルーベリー的な?』

『ルテイン的な』

『効いてる?』

『正直実感はないで。もっと視力が弱なったら効き目も実感するかもやけど』

『ああ、そう言うのあるよね』


 現代は社会は目を酷使する。俺は視力が悪いのもあって、目のサプリを常用しているのだ。目を良くするためじゃない、これ以上悪くしないために。けど、飲んでいるサプリの効果があるかどうか聞かれたら正直答えられない。何も変わっていない気もするし、変わっていないと言うのが効果がある証拠なのかも知れない。

 つまり、何の実感もないのだ。ただ、だからと言って服用をやめる気にはなれなかった。やめた後にガクンと視力が下がるのが怖いからだ。


 と、自分の事情を話したところで、今度はこちらから質問を返してみる。


『サワも何か飲んどる?』

『なんか梅のやつとか飲んでる。効果はやっぱ分からん』

『やっぱそうなんや~』

『昔はセサミンとか米糠のやつとか色々飲んでみたけど、やっぱ分からんねえ』

『セサミンも流行ったわな。よくCM見たわ』

『CMと言えば、ぐるぐるぐるぐるグルコサミンとか』

『あったあった。懐かしいわ~。最近だと何やろ? 最近テレビあんま見んなったからなあ』


 健康食品って、結構頻繁にCMをしていたりする。話題に上がっていないので他に有名なのと言えば、わかさ生活のブルーベリーとかだろうか。ただ、そのどれもちょっと昔に流れていたものだ。俺はもうテレビをほとんど見なくなったので、最近のCM事情は知らない。

 自称14歳のサワもどうやら俺と同じようだ。案外生活パターンが似ているのかも知れない。


 健康食品と言えば、何も知らない消費者に向かって平気で嘘をつく宣伝を流している場合もある。それは健康食品業界の闇。今度はその線で話を進めよう。


『健康食品も、中には詐欺っぽいものもあるやんな』

『ああ、血液サラサラのやつとか』

『後、水素水とか』

『あ~。あったあった。科学的に有り得ない化学式の広告とかあったね~』

『懐かしいな~』


 一斉を風靡した水素水。俺が最初にその存在を知ったのは深夜番組だった。若返りの万能の水的な紹介で、元になるスティックを水に浸けると水素水が出来上がると言うものだったな。それから数年後にいきなり爆発的な知名度になるとは思わなかった。芸能人がプッシュしたからだろうか。

 水素水以外にも酸素水と言うものもあったっけ。アレはまだ売ってるんだろうか? 興味をなくしてからは探してないので分からない。結局は一過性のブームだったな……。額面通りの効果はなかったって事なのだろう。


 水素水ブームを振り返った俺は、そこからひとつの教訓を導き出す。


『まぁだから、あまり聞いた事のないところのものは眉にツバやね』

『深夜のテレビショッピング的なのでたまにやってたりするよね』

『早朝の番組でもやっとる』

『感動のドラマかと思ったら青汁で元気ですみたいな』

『最後に健康食品の話が出ると一気に萎えるやつや』


 青汁の感動ドラマ、早朝によくやってたな。最近はテレビを見ないから、今でもあの手の番組を放送しているかどうかは知らない。早朝のテレビ放送を見るのは多分高齢者だから、そこにターゲットを絞っているのだろう。出演している人も高齢者だし。

 俺が早朝の番組を目にしていた頃は、そう言う健康食品メーカーがスポンサーの番組が割りとあった。その手のものではハチミツに特化した番組が面白かったな。今でも作られてるのかな。


 俺が早朝番組の思い出に浸っていると、サワが別の視点から切り込んで来た。


『健康補助サプリってさ、通販がメインぽいけど薬局でも売ってるよね』

『直に買える分、通販よりは薬局の方が信用出来そうやんな』

『分かる』

『ああ言うの、やっぱ高い方が効果あるんやろか?』

『どうだろ、身体との相性とかもあるだろうし』

『それと、たくさんの種類飲んでいいのかも気になるよな。食べ合わせみたいなんもあるのかもやし』

『一応健康『食品』だし、薬だってたくさん飲む人は飲むから平気じゃね?』

『だとええけど……』


 サプリの飲み過ぎとか組み合わせとか、そう言うのを考え始めたら本当にきりがない。ただ、身体に入れるものなのだから、効果は個人差があって当然なのだろう。この点で言えば、誰の意見も100%の信用は出来ないのだろうな。体質は誰もが違うし。難しい話だけれど。

 とは言え、薬ではないのだから効果がないからって副作用的なものはないとは思うけど。ないはず。ないといいな。


 サプリの負の面に考えが及んでしまった俺が不安にかられていると、彼女側からの疑問が届く。


『ああ言うサプリってむっちゃ種類があるよねえ』

『せやな。ズラッと並んでいるの見るだけで試す気なくなるわ』

『結構興味持ってんじゃん』

『そりゃあ、ちょっとは……』

『もっと年寄りになったら、ああ言うのに頼るようになるのかなぁ』

『でも栄養は食事から摂りたいやんな』

『おっ、医食同源ってやつだ』

『せやせや』


 大体、日々必要な栄養は基本食事から摂るものだ。なのにそれをサプリに頼ってしまっては本末転倒。色々な種類があるとは言っても、どうしても食事でカバー出来ない分だけ頼ると言うのがベストなのだろう。多分あれもこれもと目移りしているようじゃダメなんだ。

 と、考えが上手くまとまったので、俺はそれとなくこの流れに投入する。


『サプリって結局栄養補助だからさ、そこは間違えないようにしないとやね』

『だね~』

『でさ、何かオススメのサプリみたいなんある?』

『特にないねえ』

『まぁ若い内はそうやろな』

『オススメサプリがポンポン思いつくようになったら、年寄りになったって事なのかもね』

『ずっと若くいたいわ』

『その考えが既に年寄り臭いぞ』

『がーん』


 サワにとどめを刺された事で、今夜のサプリトークは終了。その後に他愛もない雑談をしていると、突然窓の外が激しく瞬く。数秒後にとてつもなく大きな音が響いた。雷が割りと近くに落ちたらしい。直後に勢いよく雨が降ってきた。

 もうすぐこの梅雨も終わるのだろう。そんな予感を感じながら、今宵も更けていったのだった。

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