第8話 眠気覚まし方法
梅雨に入ったのもあって、夜になっても雨音が聞こえてきていた。6月上旬は晴れると暑いし雨が降ると寒いと言う調整が難しい時期だ。俺は部屋の窓を閉め切って自由時間を満喫していた。
しかし、雨音ってのはどうしてこう眠気を誘うのだろう……ああ、まぶたが重い。
俺は何度も背伸びをして、まぶたに降り積もる眠気を飛ばそうとする。目薬の力も借りた。それでもすぐにあくびが口から逃げていく。
そんな状態なのもあって、サワとの雑談中にもつい今の状況をこぼしてしまう。
『ふあ~。眠いわあ』
『眠いなら寝ればいいじゃん』
『もちょっと起きてたいんやわ。何かええ眠気覚ましの方法ないやろか?』
『エナドリがいんじゃね? モンスターとか』
『でもあれ飲みすぎると死ぬって話があるやん。怖いわ~』
『一日一本なら大丈夫……じゃないかな。知らんけど』
『いや知らんのかーい』
軽く突っ込んでみたものの、エナドリって一日一本って注意書きがあった気がする。まぁ普通に売られているものだし、毎日飲んじゃダメって事はないだろう。そう言う調整はされているはず。
と、ここで彼女からのツッコミが入った。
『エナドリ飲んだ事ないん?』
『レッドブルならあるけど、そんな効いたような気はせんかったなあ』
『体質なんかね?』
『あ、地元スーパーのオリジナルブランドも飲んだ事あるわ』
『効いた?』
『効いたような、そうでもないような』
『実感はないと』
『でも美味しいやんな。味は好きやで』
そう、エナドリ系の味がもっと薬っぽかったらきっと魔剤なんて呼ばれて大量に飲む人は生まれていないだろう。あの味が美味しいからこそ、飲みすぎる人が出てくるのだ。俺も飲み過ぎの危険がないならもっと頻繁に飲んでいた気がする。
ここで、サワがエナドリ系の味のイメージを膨らます。
『味かぁ……』
『リポビタンD系の味って美味いよな』
『炭酸入ってるならオロナミンC系でしょ』
『デカビタC系とも言う』
俺はエナドリ系のドリンクを数種類しか飲んだ事がない。世の中にはモンスターを始めたとした様々なエナドリがある。その全てが同系列の味なのだろうか。もしかしたら違う系統の味もあるのかもと思いながら、多分大体は似たティストだろうと言う体で話を進めていた。少なくとも、俺が飲んだ事のあるものはみんな同じ系列の味だったからだ。
話が眠気覚ましと言う事もあって、彼女はジュースに分類される方のドリンクについて話し始める。
『ああ言うジュースでも眠気覚めるのかな?』
『健康にいいと思って飲む時はあるけど、眠気が飛んだって感覚はないわ……』
『むむ……』
話が意外に広がらず、サワはどこか不満げだ。この話はこれ以上広がらないだろう。そう思って話題を変えようと考えていると、彼女からド定番の眠気覚ましドリンクの話を振られる。
『じゃあ定番のコーヒーはどうよ?』
『コーヒーはたまに飲むよ』
『眠気吹っ飛ぶ?』
『うん』
『じゃあコーヒーで解決じゃん』
眠気覚ましにコーヒー。昔からよく言われている定番中の定番だ。実際、俺はコーヒーを飲む事で眠気が飛んでいる。しかし、この便利な飲み物であるコーヒーにもワナがあるのだ。だからこそ安易には頼りたくなかった。
俺は何故コーヒー以外の方法を模索しているかの理由を彼女に説明する事にする。
『でもコーヒーって慣れると効果なくなるって言うやん。だから毎日は飲めへんのよね』
『いや心配しすぎでしょ。毎日コーヒー飲むのなんて普通だよ。みんな飲んでるよ』
『そうかもやけど……』
コーヒーが好きな人は一日に何杯も飲む。そう言う人は耐性が出来てコーヒーで眠気は飛ばなくなるらしい。眠気覚ましにコーヒーを利用したい俺はそう言う体質になってしまうのを避けたかった。俺はいつまでもコーヒーで眠気を飛ばしたいのだ。
この気持ちをどう説明したらいいのかと考えているところで、眠気覚ましに使えそうなアイテムを思い出す。
『コーヒーで思い出したんやけど、カフェインの錠剤ってのもあるみたいやね』
『何それ効きそう。効いた?』
『いや、使った事はないわ』
『でもそう言う薬って頼りすぎるとやばい気がする』
『意識を覚醒させる薬と言えば……』
『やめい!』
『あはは』
薬で意識スッキリと言えば、ネットでは疲労がポンと飛ぶアレが定番だ。終戦直後はまだ合法だったってんだからヤバい話ではある。こう言うおクスリの話はどうやったって話がヤバい方向にしか進まない気がする。そっち方面に全然詳しくない俺は次の話題をどうしようかと指が止まった。
すると、有り難い事に彼女の方から別方向からのネタが飛んできた。
『カフェインて、コーヒーだけじゃなくて大抵のお茶にも入ってるよね』
『せやな』
『でも例えば緑茶で眠気覚ましってのは聞いた事ないよね』
『含有量が違うんじゃね?』
『調べてみたら、コーヒーは煎茶の3倍のカフェインがあるみたい……』
『3倍かぁ。眠気覚ましにはコーヒーの方が効率がいい事は分かったわ』
それだけ入っていたら、やっぱりコーヒーが一番効率がいいのだろう。『カフェ』インって言うくらいだし、この栄養素(?)はコーヒー基準なんだろうなぁ。
これで効果は分かったものの、効きすぎて困ったエピソードを俺は思い出した。
『コーヒーと言えばやけど、眠くなくなるのはええけど効果が持続しちゃうのも困るんよなあ』
『今度は不眠になっちゃうの?』
『上手く説明出来ひんのやけど、微妙に眠れへんと言うか、眠いのに眠れへん感じになってまうんや』
『それはヤバいね。よく分からんけど』
『説明下手で済まんやで』
コーヒーを飲むと、眠気をコーヒーの成分が邪魔する感じになって起きていられる仕組みらしい。その配合具合が影響するのか、ある程度効き目が薄くなると眠いのに眠くないと言う中途半端な状況になってしまう。
その時の感覚は気持ち悪く、俺はその状態が好きではない。コーヒーで眠気を飛ばした時のデメリットのひとつがこれなのだ。
俺が積極的にコーヒーを活用しない理由がふわっと伝わったところで、彼女からの提案が飛んできた。
『じゃあメガシャキ的なのとか、刺激の強いガムみたいなのがいいのかな?』
『そうかも。でも美味いんかなアレ。前にメガシャキっぽいヤツを飲んだらまずかったで。あんま飲みとうないな……』
『良薬口に苦しとも言う』
『うへぇ』
コーヒーやエナドリはまだ飲みやすい方だ。だから多くの人に好まれているのだろう。それに対して、メガシャキ系ドリンクや強刺激で目を覚ます系の食べ物は美味しくはない。美味しくないものはあまり摂取したくないと言うのが本音だ。わがままと言われたらそれまでだけど。
折角の提案を却下してしまったので、ワサはすぐに代案を用意する。
『てかさ、物理的刺激で起きるって手もあるよね。受験生がよくやってた的な』
『眠くなったら針で太ももを刺すって言う?』
『そそ』
『あんまり痛いのはちょっと……それにすぐに効果切れそうやん』
『だから連打するんだよ。羊毛フェルトを作る時みたいに』
『想像しただけで痛たたた……』
羊毛フェルトを柔らかくする時に使うテクニック、それが専用の針での連打だ。俺はフェルトを触った事はないけど、針連打はネットでネタになる事もあってどう言うものなのかは知っている。
そこまでして起きるくらいなら素直に寝るわと思った俺は、この話題を強引に終わらせて他の話を振った。
雨はその後も降り続け、気がつくと俺は睡魔に負けてしまう。どうやったのか記憶にないものの照明は消しており、起きた時に罪悪感に苦しむ事はなかったのだった。
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