第7話 実写作品のアレンジ

「ふあぁ~あ」


 寝る前のルーティーンのネット徘徊。今日はやたらと眠気が襲ってきてあくびが止まらなかった。もう雑談せずに寝るかあと思っていると、またしてもサワからメッセージが届く。まぁこうなると付き合うしかない訳で、すぐにその内容を確認した。


『最近、漫画の実写化って増えてない?』

『そうけ? 昔からあるやろ?』

『昔からあるけど、増えてきている気がする』

『言われてみれば、増えてるのかなあ……』

『タケルはドラマ見んから分からんのね』

『そうかも……』


 今日のテーマは漫画原作のドラマの話らしい。俺はあんまドラマを見ないのでこの話にはついていけそうになかった。なので適当に流す事を決め込む。

 まずは、漫画原作ドラマに対する自分のイメージをぶつけてみた。


『実写化って大抵失敗するイメージあるけど、成功例も多いとは思うわ』

『アニメ化と違ってハードル高いよね。原作の絵をそのまま使えるからアニメは』

『まずイメージに合う人を見つけなきゃやもんな』

『見た目合ってなくても雰囲気が出てるならいいとは思うけどねー』


 そう、実写化の最初のハードルはキャスティングだ。そこさえ上手く行けば、成功へのハードルは下がるだろう。最近は2.5次元ミュージカルが流行っていて、漫画のキャラそのままの俳優さんも増えてきている気がする。まぁドラマにそう言う系の舞台俳優さんが抜擢されるかと言えば、そうでもない場合も多いのだろうけれど。

 そんな感じでキャスティングの事を考えていると、今度は彼女側から実写化で一番原作ファンを怒らせる問題についての問題提起がなされる。


『実写化で一番気になるのは設定を変えちゃうかどうか』

『ドラマって特に設定変える事多いやんな。変わると炎上するのに』

『ディズニーとか人種も変えちゃうしね』

『日本だって小学生だったのを高校生に変えたりするぜ』


 俺はサワのディズニーネタに対抗して、日本のドラマのキャラの年齢変更ネタで対抗する。どうやら彼女は俺の意見に同意したらしく、そこから変化球を投げてきた。


『高校生の設定なのに役者がみんな30代だったりね~』

『そこはまぁ大目に見ようや……みんな頑張っとるんや……』


 声優なら声が若い限りは若い子のキャラを演じても許される。しかしドラマは……と言いたいのだろう。分からなくもないけど、設定上は高校生と言う体なのでそこは原作に忠実とも言える。見ていて痛々しいのはスルーして、そこまで否定しなくてもいいんじゃないかな。実際、老け顔の高校生は30代40代に見えるし。

 なので、ここで俺は別のネタを振って話題の修正を試みた。


『アレンジも許せるのと許せんのがあるやんな』

『は? 許せるのある?』

『そこは原作ファンかどうかってのも大きいか。原作ファンやったら、ちょっとしたアレンジも許せへんのかも分からんね』

『そらそうよ』

『実写化大反対って人もむっちゃ多いしなあ』

『イメージ崩れるもん。特にアイドルが主人公やっちゃうと』

『特定の人が主人公やヒロインをやりすぎちゃう問題なあ』

『このヒロインは美少女設定だからハシカンにしようが多すぎ!』

『ちゃんと作品に相応しい人をキャスティングして欲しいわな』


 話がキャスティングに戻ってしまった。実写化と言えばSFXを使うスケールの大きな作品が予算の関係上すごくちゃちくなる問題もあるのだけれど、多分サワはそう言う作品の話はしていないし、そう言う作品を好んで見てはいないのだろう。

 そう推測した俺は低予算系のネタを自分からは振らず、そのままキャスティングの話を続ける事にした。


『キャスティングは事務所の力関係が見えるのがなあ……ジャニーズとか』

『そう言うのじゃないキャスティングがいいよねえ』

『て言うか、ルックスが良くても演技下手な人は論外ですわ』

『それ、洋画の吹き替えやアニメ映画とかでもあるやつ。有名人じゃなくて実力のあるプロを使って欲しいね』

『実写化成功例はキャスティング成功例とも言えるのかも』


 別によく起用される人がダメと言う訳ではないんだけど、演技の実力で選ばれているような気がしないのが問題と言うか。客寄せパンダになった原作が可哀想と言うか。ちゃんとオーディションで勝ち取った実力派が揃った作品の方が面白い気がする。偏見もあるかもだけど。

 俺がドラマをあんまり見ないのも、メンツが固定されているからと言うか……。でもただの先入観かもなあ。見たら面白いのかも知れない。


 これでキャスティングに関して語りきったと思ったのか、サワは別の切り口を振ってきた。


『アレンジされていても作品が面白ければね』

『原作とは別物だけど面白いってあるわな。孤独のグルメとか』

『実写化はそう言うラインでの名作は多そう』

『恋愛モノとかの実写化のハードルの低いものは出来るだけ忠実に作って欲しいところやけど』

『え? 恋愛ドラマとか見るの?』

『ドラマはほぼ見ないわ。映画なら話題作をたまに観るかなあ。恋愛漫画の実写映画は全然観ないんやけど』

『観ないのに語るなや』

『いや、原作に忠実って流れだったからつい』

『結局は面白ければいいのよ。多少原作と設定違っても』

『お、おう……』


 原作アレンジ問題、さっきは少しのアレンジも許せないと言う流れだったんだけど……。やっぱり許せるものとそうでないものがあるみたいだ。実写監督はその軸を見極める力も試されるんだろうな。それを間違えると不評になるし、正解すればヒットさせられるのだろう。

 そう言う難しいジャンルなのに挑戦する人は多いんだなと、実写化作品の多さを見て思う。原作人気にあやかろうって人が多いのかな。成功すればリターンも大きそうだし。


 漫画原作ドラマアレンジに関しては、彼女に持論があるようだ。


『大体、実写化って『原作はこうだけど、もっと大衆受けした方がいいよね』ってプロデューサーがいじくりまくるイメージがあるよね。そのままトレースするのは芸がないみたいな』

『見る方はそう言うの求めていないのにな』

『昔の作品を現代に合わせるとかねえ……』

『まぁ昔はアニメもそうやったんよね。オリキャラを出すとかよくやってたわ』

『アニメは原作に忠実が正義になって良かったよ』


 実写化のアレンジなんて、ハリウッドでもよくやっているある種業界のお約束だ。日本のドラマ業界だけが異常なんじゃない。原作に忠実が標準になった今のアニメの方が異常でもあるのだろう。スポンサーからの制作費より、オタクからの売上で人気が確定する時代になったからこその変化とも言える。日本のドラマも同じ構造になったら、もっと原作に忠実になっていくのかも知れない。

 俺は今のアニメの流れがドラマにも続いて欲しいと、希望を訴えた。


『日本のドラマもそう言う流れになったらええのにね』

『まずは事務所のゴリ押しがなくなってからだろうなあ』


 その後もドラマ関係の話が続いたものの、眠くなった俺の返事が適当になってきたので自然にフェードアウトしていった。

 サワとの雑談はいつもこんな感じで過ぎていく。お互いにそれに関して特に感情が動く事はない。眠くなったら終わりと言う感じだ。まぁ、だからこそ楽しいとも言えるのだけれど。

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