第6話 AIについて
6月に入って雨が多くなり、気持ち肌寒さを覚える夜。俺は襲ってくる眠気を抑えるためにコーヒーを飲んだ。飲み慣れると効かないって言う話なので、俺は極力コーヒーは飲まないようにしている。おかげで飲んだ日には目が冴えて冴えて、コーヒーの怖さをその都度実感するのだ。カフェイン怖い。
そんな訳で、俺は夜中の眠るに眠れない時間はネットに助けを求めている。眠気が飛ぶのはいいけど、どうしてその効果が持続してしまうんだと思いながら……。
当然のようにサワはその事を知らない。俺も事情は話さなかった。雑談にそんな前情報はいらないからだ。だだ、夜中の暇潰しに適当に付き合ってくれたらいい。彼女もそんなスタンスだといいのだけれど。
と言う訳で、今回は何となくAIの話で盛り上がってしまった。世間的にもちょっとしたブームっぽくなってるし、こうなるのも当然の流れかな。
『最近はAIの勢いがスゴイよな』
『ちょっと前までは身近なAIってシリくらいだったのに』
『ワシ、アンドロイドユーザーだから知らん』
『アイフォンユーザーでも積極的に使う人はあんまりいないんじゃね? 知らんけど』
『知らんなら話題に出すなし』
俺はサラッとツッコミを入れる。しかしスマホの話題もアンドロイドとアイフォーンで話が合わないのはちょっと悲しい。俺は昔から天邪鬼なので、ついつい少数派に肩入れしてしまうのだ。とは言え、海外ではアンドロイドの方が優勢らしいけど。もし日本でもそうなっていたら、俺もアイフォーンユーザーになっていたかも知れない。
そう言いながらPCはウィンドウズなんだなこれが。我ながらいい加減だなとは思う。
ツッコミの返しを待っていると、彼女はしれっと話題を変えてきた。
『AIと言えば、最近はAIイラストとチャットGPTが話題になってるよね』
『他にも作曲するAIとか小説を書くAIとか声真似するやつとか出てるで』
『進化のスピードはえー』
『アメリカかどっかの偉い人が、数年後にはAIが映画撮る時代が来るって言ってたわ』
『バラバラに進化してきたAIが統合されれば、それもあるかなあ……』
『スゴイ時代になって来てんな』
本当、最近のAIの進化スピードはすごい。数年後にはSFの世界が実現化されているかも知れないと本気で思えるほどになってきた。未来はAIをどう活用するかで明るくも暗くもなりそうだ。
サワは、そんなAI時代に突入した事で生じる危険な事例のひとつを挙げる。
『AIイラストのクオリティが高くなったから、もう写真は証拠じゃなくなっちゃうね』
『捏造し放題やからなぁ。困った時代になってしもたわ』
『そう言えばAIに漫画描かせる企画とかあったじゃん。あのプロジェクトってまだ続いてんのかな?』
『続いてんじゃね? 知らんけど』
『じゃあ、その内漫画を生成するAIも出てくる?』
『どやろか? 小説は既にあるしなあ』
AIが小説を書く――この少し前まではSFでしかあり得なかったものが既に実現している。俺も少し触った事があるけど、事前設定が多くてすぐに断念していた。
そして、彼女もそのサービスが話題になった事は知っていたようだ。
『AI小説が出た時に少しだけブームになったけど、あんま浸透してないね』
『やってる人はやってんじゃね?』
『タケルはやってみたん?』
『やったよ。ただ、やってはみたんだけど、設定がたくさんあって速攻で挫折したわ。ワンクリックで書いてくれるものかと思ってた』
『最初からそのクオリティは無理でしょ。AIイラストだって望みの絵を描いてもらうのは指示を細かくしなきゃなのに』
『そうなん?』
『だから流行り始めた時はトンチキな絵がたくさんネットに上がってネタで盛り上がってたのよ。AIに描いてもらう絵を細かく指示するやつ、プロンプトって言うのかな、一部界隈じゃ呪文って呼ばれてる。それをどれだけしっかり指定するかでクオリティが違ってくるんだって』
『結構詳しいやん』
『知り合いがAIイラストで遊んでるんだ。だから自然にね』
『ほう』
この手の流れでサワが具体的な話をするのは珍しい。なので普通に感心してしまった。AI小説で色々指定するのもそのプロンプトってやつなのかも知れないな。高度な事が出来るようになったとは言え、今のAIは人の具体的な指示が必要なひよっこなのかも知れない。
そんな感じで考えをまとめていると、彼女は今のAIの進化の流れの先を見通す。
『でも学習が進めば簡単になっていくんじゃないかな?』
『どんどんプロの仕事がなくなるやん……』
『これも時代の流れだねえ』
AIはまだ進化の途中だ。シンギュラリティも起こってはいない。今後、本当にそれが発生するかどうかは分からない。ただ、そうなる未来を予感させるAIが登場した事に俺はショックを受けていた。
一旦オチも付いたので、今度はその方向に話を振ってみる。
『話変わるけど、チャットGPTが出てきた時は驚いたやんな』
『え? 何で?』
『平気で嘘つくやんアイツ。AIが嘘つくとは思わんかったわ』
『嘘つくんじゃ信用出来んね~』
『アイツを仕事とかにも利用しようって話あるけど、今のままじゃ無理やんな。信用出来ひんもん』
『あれってさ、開発者は嘘をつけるAIにしたかったのかなあ』
『知らんけど』
今後、色々なものに使われていきそうなチャットGPT。あのAIは何故嘘をつける仕様になっているのだろう。必要な情報をネットから取得する機能があるなら、それが嘘かどうかを検証する仕様にも出来るはずだ。それが実装されていない内はエンタメで使うのが精一杯。
逆に、エンタメで使うために作られたAIなのだろうか。それなら納得だ。
チャットGPTの爆発的な認知度によって、世間では本格的なAIブームが発生している。俺はこの世間的な流れを考えてみた。
『とにかく、今は色んなソフトにAIを実装させている最中やからさ、今でも十分身近だけど、これからはもっともっと身近になってきそうだわな』
『一生懸命話しかけてくれるアカウントが実はAIだったてのが現実になりそう』
『そう言う自分もAIだったり』
『AIって感情ないから、お互いにチャットをやらしたらずっと無意味な会話のラリーが続くんだろうね』
人が会話をしていると思ったら、AI同士がずっと話を続けていた――少し前のチープなSFネタが既に現実可能なところまで来ている。俺はその様子を想像して、永遠に続く文字列が頭の中で踊っていた。
そして、そこからある閃きが降りてくる。
『感情と言えば、AIには感情がないやんな。だから生成されたものは何となく分かるんよな、感覚的に』
『でも学習してそれも克服するかもだよ?』
『それがシンギュラリティ? いやはや、AIの進化は恐ろしいのう』
『私の変わりに仕事してくれんかな』
『大失業時代が来るで』
『それは嫌じゃ~!』
と言った感じで話が暗くなってきたので、ここで雑談はお開きになった。まだ眠気はそんなにやってきてはいないものの、頭を働かせたからかまぶたを閉じれば眠れそうな気がしてくる。
俺はスマホを置くと、照明を消して窓からの雨音の子守唄を聴く。気がつけば意識はゆっくりと遠くなっていった。
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