第5話 転生について2
その夜は録画したアニメを消化して半分まぶたが下がっていた。このまま寝ても良かったものの、ちょっと物足りなさを感じていた俺は、ついスマホの起動させてしまう、癖って怖いね。
すると、またしてもサワからメッセージが届いていた。今日も何か話したい事があるのだろうか。
『ばんわー』
『遅い!』
『いや遅い言われても』
『何してたの?』
『アニメ見てたわ。異世界転生モノ』
『あんたも好きだねえ』
そんな感じで適当に雑談が始まる。会話から色々探りを入れてみたものの、やはり特に話したい事はないみたいだ。じゃあ今日は眠いから適当に切り上げようと思っていたところで、彼女からの返信が届く。
『前はフィクションだったけど、リアルな転生ってどうなんだろうね』
『それはスピ的な話?』
『まー』
『て言うか、仏教的な解釈はどうなんやっけ?』
『知らん』
『ちょ』
どうやら、彼女の方も何となく話を切り出しただけみたいだ。そこで俺は一般的なイメージを思い浮かべる。
『転生って、悪い事したら落ちていい事すると上がるイメージやんな』
『カルマの法則的な』
『そう言う考えがあるから、生きている内にいい事しましょってなってるんよな、日本は』
『今どれだけの人が信じているやらだけど』
『自己中な人は確実に信じてないやろなあ』
『そう言う人は増えているのかなぁ? 分かんね……』
『これは統計取らないと何とも言えんわな』
転生って科学的に立証されていない以上、道徳的な例え話って感覚が強い。そして、これがもし神仏からの試練的な意味でなされているのなら、因果応報以外のパターンだってあるのかも知れない。
と言う訳で、今度はそう言うパターンの仮説を振ってみた。
『たださ、人は試練を経て成長する訳で。ある程度経験を積んだ人が徐々にもっと厳しい境遇に生まれ変わるってパターンもあるんちゃうかな?』
『それって、生まれながらに重い病気になっちゃう人とか?』
『そそ。最初は楽な環境から始まって、どんどん厳しくなる……。例えば、貧乏な家に生まれてくる人って実は魂のステージが高い人かも知れへんよな』
『10万人に1人の難病の人とか、その魂レベルの人しか耐えられない的な?』
彼女もこの流れに乗ってきた。生まれながらにして不幸な境遇の人はどうしてそうなったのかと運命を呪いがちだけど、その答えが輪廻転生思想にはあるのかも知れない。詭弁かも知れないけれど。
と、ここで、この話の流れの矛盾にサワが気付く。
『ん? 最初の悪人が悪い環境に生まれ変わるって言うのと真逆じゃん?』
『だから、両方のパターンがあるんちゃう? 難病の人だからって人格はそれぞれやし』
『つまり、難病でも優しい人は徳の高い人で、難病で不満ばかり言う人は悪徳の償い的な感じ?』
『そうそう』
『あるかもねえ。難病でも穏やかで優しい人っているわ、確かに』
輪廻転生に色々なパターンがあるなら、どんな展開でも矛盾はならない。我ながらいい落とし所を見つけたなあ。自分1人だと思いつかない事も、会話のやり取りでふっと降りてくる事がある。コミニュケーションって大事だな。
と言う訳で、段々と眠気が覚めてきた俺は調子に乗ってこの話を続ける事にした。
『徳の話で言えば、本人は色なパターンがあるやろけど、介護する人は確実に魂のレベルを上げるためにその立場になってるやんな』
『悪人が罪滅ぼしに迷惑をかけた人を介護する役割になる事もあるんじゃない?』
『あ、そか。ここでも色んなパターンがあるんや』
『ただ、さっきの判別法みたいに、慈愛に溢れている人なら魂のレベルを上げるために頑張ってる人なんだろうね』
『やっぱ愛が一番大事やな。愛が』
話がうまくまとまって俺は満足する。今度は別の話題にしようかと思っていると、今度はサワの方から輪廻転生に関わるもうひとつのテーマについて振ってきた。
『転生と言えばさ、才能とか前世からの持ち越しって言うよね』
『ああ、それ。天才児ってやっぱり前世すごいレベルの人だったんやろなあ。そう考えないとおかしいし』
『子供を天才にする方法ってそれこそ沢山の人が本を出したりとかしてるけど、その通りにすれば全員天才になってる訳じゃない。天才の遺伝子から天才は生まれやすいみたいだけど、確実に全員が天才になる訳じゃない。そこは不思議よね』
『ギフテッドの研究って今どこまで進んでいるんやろなあ……』
『いつか法則的なのは見つかるのかな』
この世に生まれながらの天才が存在する以上、そこにはそうなった何らかの条件があるのだろう。きっとその秘密を多くの人が、組織が研究しているはず。その答えは見つかっているのだろうか。見つかった上で独占しているのかも知れない。
とは言え、表向きにはまだ謎と言う事になっている。明らかになっていれば教育問題とかも解決しているはずだからだ。輪廻転生要素のウェイトが高いなら、やはり本人の努力が一番と言う事になるのだろうか。
色々考えてみたものの、そもそも世の中天才ばかりになる事もないなと俺は開き直る。
『でも全員が天才になる必要はないんちゃう? 適材適所と言うか』
『確かに世の中には色々な役割の人が必要だもんね。狙わなくても自然にしていれば自然にバランスは取れるものなのかも』
『そう言うバランスを取っているのって各宗教では神様の仕事って事になっとるけど、いつかは科学的な答えも見つかるのかも』
『つまり、神は数式だった?』
『な、なんだってー!』
と、お約束的なやり取りの後、眠気が限界突破。気がつくと俺は寝落ちしていた。朝の小鳥の歌に気付くと、天井の照明が点きっぱなし。
勿体ない事をしたなあと思いながらスイッチを切ると、俺はそのまま二度寝を楽しんだのだった。
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