第3話 日本の作品の多様性は?

 ディズニーの多様性の話ををした翌日の夜、またしてもサワの方から話を振ってきた。どうやら昨日の話をもっと続けたいようだ。俺はあくびをしながら背伸びをすると、肩の筋肉の緊張を解して彼女の話に付き合う事にした。


『この間はディズニーの話をしたけど、日本の作品の多様性についてはどうよ?』

『日本ってほぼ日本人だけやん。海外の人を出すってもそれも違和感あるよ』

『でもさ、最近は偏ってない?』

『そう? だってプリキュアには男子も出てるし、戦隊モノでも……』

『でもみんなイケメンとか美少女とかじゃない?』

『それはまぁビジネス上の理由やな』

『でも昔のアニメとかそうじゃなかったじゃん』

『昔のアニメ……』


 俺はまたしてもサワの自称14歳設定に引っかかる。そこで軽くオウム返しをしたのは、ここで面白い返しが来るかなと期待したからだ。しかし、言いたい事があった彼女は俺の投げたボールに気付かず、自分の主張を訴え続けた。


『昔は主要メンバーの中に必ずデブとチビがいたよ』

『必ずって訳でもないんじゃ……』

『でもよく配置されてたでしょ。ドラえもんとかそう言うテンプレじゃん。ドラえもんて逆にイケメン枠の出来杉君が全然目立たないポジションで、今だったら考えられないよね』

『せやね。主人公じゃなくてもイケメンが目立たない配置ってないわな、今だったら』

『昔の日本のアニメのキャラ配置でこれぞテンプレって言えばガッチャマン』

『ええと、熱血主人公にクールイケメンに美少女ヒロインにパワータイプのデブに小賢しいチビやっけ』

『小賢しい……まぁそうだけど』

『最近そう言う配置ってあんまり見ないよね』

『まぁ……』


 思えば昔は今より売れる事を重視していなかったからか、今の作品より色んなキャラを配置していた。当時はグッズ展開と言えば玩具くらいだったから、視聴者よりスポンサーに目が向いていたのだろう。スポンサーを説得するための教育に良いですよアピールだったのかも知れない。分からんけど。

 そうやって納得していると、彼女から今回の話で一番言いたかった事らしきメッセージが届く。


『思えばアレが日本の多様性だったと思うんだよ。今はデブやチビはメインキャラになれない』

『いや、そんな事はないんちゃう?』

『でもそう言う作品は減ったでしょ。なんで主要キャライケメンや美少女ばかりにしてんだよって言う』

『まぁ、時代の流れ……?』

『そう言うのどこから始まったんだろうなと思ったんだけど、やっぱ聖闘士星矢あたりからかなあ?』


 聖闘士星矢……14歳がご存知な話題じゃねーぞと思いながら、もう俺はツッコミを忘れて作品の事を思い返す。記憶があやふやなところはあったけれど、言われてみればその通りだった。


『確かに星矢はそんな感じやな。ムキムキのパワータイプキャラもいたけど、メインキャラにはおらんかったわ』

『そう言うアニメキャラの多様性と言えば、タイムボカンシリーズの三悪。アレも分かりやすかったよね。ああ言う分かりやすい悪のお約束キャラも見なくなったなぁ』

『ポケモン旧シリーズのムサシとコジロウ的な? ああ言うのは子供向け作品には残ってるやんな。はなカッパとか、アンパンマンとか』

『男女2人の悪役と男2人女1人の悪役はまた違う気もするけど。あのバランスがいいんだよね』

『女性がリーダーで魅力的、下僕の2人はどこか冴えない的な?』

『タイムボカンの三悪をオマージュしたのがナディアの三悪だけど、デブとノッポの役割分担が逆になったよね。しかもノッポはイケメンになっちゃった』

『昔は科学者は痩せててパワータイプが恵体って暗黙の了解があったんだわ。それが1980年代の後半では科学者はオタクになりデブる。マッチョはしっかり肉体管理して細マッチョになった。今もそうなんちゃう?』

『ナディアは途中から味方になるから3人共いい人だったよねえ。ああ言うお約束キャラ、今の時代も受けると思うんだけどな。多様性的にも』


 まぁ確かにあのフォーマットがこのまま埋もれてしまうのは惜しい気がする。最近のアニメのお約束と言えばチーレム系の『俺何かやっちゃいましたか』だろうか? あれももう飽きられてきたし、今こそお約束悪役キャラの復権があってもいいかもなあ。

 タイムボカンのお約束をナディアがその時代に合わせたみたいに、今の時代にあったお約束悪役……どう言うのがいいんだろ?


 ここで話を終わるのもタイミング的に悪くなかったものの、日本の作品の多様性について話を思いついたので、軽く振ってみた。


『てか、昔のアニメの大人の中に子供が混ざってるって言うのは昔は子供向けを意識してたからやない? 玩具を売らなきゃやし』

『でも名探偵コナンはそれで成功してるし、大人の中に子供が混ざる手法が今では通じないって事はないよね』

『子供と言えば、昔は本当に子供が世界を救う話多かったなあ。子供をターゲットにしてたと言うのもあるけど。今は高校生が多いんやろか?』

『子供主人公のアニメの場合は大人が絡む事もよくあったし、多様性と言う点では子供主人公の話の方が自然にそれを表現出来てた気がする』

『今のアニメは見たいものを見るために作ってるって感じが強いわな。多分その方が売れるから』

『話が面白ければ、どんどん多様性のキャラを出しても人気になると思うけどね。作者に技量が要求されるけど』


 そう、今だって多様性を意識した作品がない訳じゃない。様々なキャラを登場させてなおかつヒットさせている作品もある。ただ、やはりそう言う作品が少なくなったってのは完成度の高い作品を作るのがそれだけ難しいからなのだろう。

 今は好かれるキャラだけを出しても売れるし、その方が作る方も楽なので自然とそっちの作品が多くなるのもうなずけた。


 ここまで多様性の話をしてきたところで、俺は日本の作品であまり重要視されていない、需要のないキャラタイプを思い出す。折角なので今度はこの話を振ってみた。


『デブと言えば、デブ男子キャラはたまに見るけどデブ女子ってそれがテーマにでもならんと見ない感じやね』

『魔法使いの嫁とかに出てたやん。ブサイク女子ならちびまる子ちゃんとか』

『でも数は少ないやろ? 別に必ず出なきゃいけないって事はないんやけど……』

『今後は増えていくかもだよ。だって昔は眼鏡キャラも不遇だったんだから』

『昔のメガネ女子のメガネって外すと美人になるギミックでしかなかったよな。メガネキャラはメガネをかけているからこそ魅力的やのに。それを外そうとするとはけしからーん! メガネの魅力が浸透した今はいい時代やね』


 流れからメガネ女子の話になってしまい、俺はついつい熱意のままに暴走してしまった。隠すまでもなく俺はメガネフェチだ。昔の眼鏡キャラはダサキャラの代名詞で、いつから美人のタイプのひとつになったのかは分からない。ただ、こう言う時代になって良かったと思う。改めて、時代の流れで作品も変わっていくのだなと実感した。

 どうやらサワも俺と同じ趣向があったようで、大いに同意してくれた。


『そうそれ! 今はメガネフェチな人も多いから、魅力的なメガネキャラも多いよね。各作品に1人は登場してる気がする。今後はぽっちゃりフェチがぽっちゃりを強く推していく時代が来るかもだよ』

『あ、これ性癖の話だった?』

『あれ?』


 今の作品のキャラ配置は、多様性と言うよりフェチの数だけ取り入れられている感じなのかも知れない。美味しいものばかりを食べるファーストフード的な。

 そこからは性癖に関わるような話でエキサイトして夜は更けていったのだった。

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